<コロナ対策で高く評価される台湾。マスク供給システムは、わずか3日で開発・実施された。なぜそんなことが可能なのか。台湾ITを牽引するオードリー・タン(唐鳳)とは何者か。本誌「台湾の力量」特集より> 国内でマスクが不足するのは不可避だ──2月3日、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた台湾で政府がマスクを買い上げ、実名制(本人確認)で販売することが決定された。実施までわずか3日。この状況下で見事な手腕を発揮し、世界の注目を集めたのがデジタル担当相の唐鳳(タン・フォン、オードリー・タン)だ。 実施の2月6日までに、タンとシビックハッカー(協力者の市民エンジニア)らは全6000カ所以上の販売拠点でのマスクの在庫が3分ごとに自動更新されるマップを開発。公平に行き渡らせようとする姿勢が可視化され、いつどこで入手可能かとの最新情報が示されたことが安心感につながり、パニックを免れた。 さらに、台湾政府はインターネットやアプリでマスクを予約購入し、コンビニやスーパーなどで受け取れる「Eマスク」システムを開発。利便性が格段に向上し、3月後半の2日間で約170万人が利用した。 これらの施策はいずれも、高いITスキルに加えて個人情報保護などの知識が要求され、行政機関や決済会社、流通の情報も連携させなければならず、時間の制約もあり難度が高い。そこで先頭に立って見事な統率力を見せたタンは、市民からも各省庁関係者からも高く評価された。 8歳からプログラミングを独学したタンは、インターネットの誕生を機に14歳で中学を退学。15歳で起業、33歳で現場から引退するなど、常人離れした経歴の持ち主だ。一方で、幼い頃から知能も精神面も成熟したタンは伝統的な義務教育の制度になじめず転校を繰り返し、10年間で10の学校に通っている。24歳でトランスジェンダーであることを明かし、女性風の名前に変更した。 「10代で男性の、20代で女性の思春期も経験しました。自分が男性か女性のどちらかに属する存在だとは思っていないんです」とタンは言う。 デジタル人材の育成に注力 2016年に台湾史上最年少となる35歳で入閣した際には、経歴や書類の性別欄に「無」と記入したことも話題になった。台湾社会が多様性を受け入れる象徴の1つとして、タンの存在は国外にまで広く知られるように。「タン氏と働きたい」というシビックハッカーも多く、その影響力は台湾のデジタル人材育成に貢献している。 台湾はなぜこのような人物をデジタル大臣に起用できるのだろうか。 【関連記事】孤軍奮闘する台湾を今こそ支援せよ ===== まず、台湾の行政院(内閣に相当)と立法院(国会)は分かれており、基本的に兼任はしないことが挙げられる。このため行政院内にある各省庁の大臣は皆、その分野におけるスペシャリストが就任している。 「足を引っ張り合っている場合ではない。手持ちで最も勝率が高いカードを掲げ、前へ進め」──これが、筆者のイメージする現在の台湾の民意だ。一見平和なようでも、ややもすると民主主義を失うのではという危機感が、人々の間に常に漂っているからだと思われる。 台湾は「世界デジタル競争力ランキング2019」で世界13位(日本は23位)にランクインするなど、デジタル人材の育成に力を入れている。それに呼応するように、グーグルやマイクロソフトといった名だたる企業が次々に台湾にAI研究拠点を構築。そんなデジタル界で、タンは大きな存在感を発揮している。 例えば現政権が掲げる重要国策の1つが「アジア・シリコンバレー計画」。世界での存在感を高めようというこの取り組みでAI部門を率いるのが、米マイクロソフトでAI研究開発責任者を務めた杜奕瑾(トゥ・イーチン)だ。彼が帰国し「台湾AIラボ」を設立するのにも、タンは一役買っている。 多様性が受け入れられなければ人材は居つかない。多様性を受け入れる度量があれば、人材は戻り、発展は続く。その大切なことを、台湾とタンは目の前で私たちに実証してくれているのではないだろうか。 <2020年7月21日号「台湾の力量」特集より> 【話題の記事】 ・中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか ・中国は「第三次大戦を準備している」 ・中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは ・どこにも行かない台湾の「なんちゃってフライト」、コロナで旅に飢えた応募者が殺到 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。 ===== 感染症対策と民主主義促進にデジタルイノベーションをどう生かすのか、オードリー・タンがインタビューに答えている TED-YouTube 【関連記事】孤軍奮闘する台湾を今こそ支援せよ