ブラジルの首都ブラジリア一帯の中で最も貧しく、人口の多いセイランディア市で先日、80歳の老婦人が路上で倒れ、病院に搬送、人工呼吸器を付けられた。近所の人たちが地元メディアに語った。 だがこれは、単なる新型コロナウイルスの感染症事例ではなかった。女性はマリア・アパレシア・フェレイラさん。ボルソナロ大統領夫人の祖母だったからだ。マリアさんは秩序なく広がるほこりっぽいセイランディアで育った。ここが今、新型コロナのホットスポット(大流行地)になっているのだ。 公衆衛生専門家によると、ブラジリアは今年3月、新型コロナ対策で同国として初のソーシャルディスタンス(対人距離)策を導入し、新型コロナ危機をうまく乗り越えてきた。ただ、それは隔離ルールの解除を引き金に感染が急増するまでの話だった。 ブラジリアの多くの著名な感染者の1人がボルソナロ大統領自身だ。同氏は7月7日、発熱後に新型コロナ検査で陽性になったと発表した。 ブラジルの感染者数は170万人を超え、死者は7万人近い。米国を除けば世界最大の流行国だ。にもかかわらず、大統領から圧力を受けて、国内各地の市長や知事が隔離命令を緩めつつある。 ブラジリアは新型コロナでの経済活動再開のリスクを示す事例研究と言える。人口10万人当たりの感染者数は現在2133人。国内の他のどこの主要都市よりも多い。厚生省統計によると、サンパウロやリオデジャネイロといった大都市の2倍超だ。 この一因は、ブラジリアで行われる検査数が他よりも多いことなのかもしれない。所得は人口1人当たりで同国一の高さだからだ。だが専門家は、最近の爆発的な感染急増は明らかに、早過ぎた経済再開によると話している。スポーツジムと美容院は今月7日に再開。バーやレストランはブラジリア連邦地区長官の命令で13日からの週に再開する予定だ。 市衛生評議会のルーベンス・ビアス委員は「この措置がブラジリアの何千人もの住民の死につながるだろう」と警告する。死者の増加、さらに集中治療設備の不足で医療崩壊に近づいていることから、完全なロックダウン(封鎖)が必要だという。地区長官が、経済上の理由で再開を求める大統領の圧力に屈しているとも批判する。 ボルソナロ氏は、新型コロナの健康リスクよりも封鎖による経済的影響の方が深刻だと主張してきている。 8日にはブラジリアの経済再開を認める政令を裁判所が差し止め、これに対しブラジリアは上訴した。その後に長官は、セイランディアと、やはりホットスポット化した隣接のソルナセンテで、不要不急の移動を規制すると宣言した。 だがブラジリアの開発当局は、米国やスイス、オーストリアよりも人口比の検査件数が多い点を主張。ブラジリアで感染の拡大は続いているが、感染者1人からの感染率は4月上旬の2.1から1.2に鈍化しているとの立場だ。 【関連記事】 ・東京都、15日の新型コロナ感染165人 警戒レベル最高に引き上げ、小池知事「GoToキャンペーン再考を」 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染 ・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然 ===== 生き地獄 人口300万人と国内3位のブラジリアは、今年3月5日に新型コロナの初の感染が報告された。英国とスイスから帰国した52歳の女性だった。同月24日に最初のコロナ死者が確認されて以降の2カ月間では100人と、死者数の増加はゆっくりだった。 ところが5月27日にショッピングモールを再開した後の1カ月間では、感染者と死者の増加スピードが5倍に。7月6日の1日当たりの新規感染者は2529人と過去最多になり、死者累計は726人を超えた。 セイランディアの主要病院の救急病棟で働く看護師は「状況は混乱していて、生き地獄。感染増加が止まらない」と話した。病院では医師と看護師、さらに救急車も不足しているという。 衛生評議会のビアス氏は、感染は富裕地域のブラジリアから近郊に広がっていると指摘。近郊の労働者はしばしば、ひしめき合った公共交通機関で1時間かけてブラジリアに通勤するという。 ソルナセンテのある住民は「ここは実に悲惨。この数日で感染が大きく増えている」と語った。 ブラジリア中心部でメイドとして働くノグエイラさんは、自分の家の近所のバーはマスクなしの人で溢れ、週末のパーティーにも無頓着に興じていたと話した。一方で、銀行は新型コロナ対策で政府の所得補償金の臨時支払いを受ける行列で混み合っているという。 ビアス氏は「選挙や経済の利害関係者は、命を救うことよりも金儲けに関心を持つ」と述べた。 Anthony Boadle[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・東京都、15日の新型コロナ感染165人 警戒レベル最高に引き上げ、小池知事「GoToキャンペーン再考を」 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染 ・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。