<エンタメ業界がコロナ禍で苦境にあるなか、ネットフリックスとそれを支える翻訳業界は売上を伸ばしている> 新型コロナウイルスの感染拡大後、全世界のエンターテインメント業界が大きな打撃を受けている。そんななか、OTT(Over The Top=ネット配信サービス)業界、特にネットフリックスは自宅隔離のお供として加入者数も増え、コロナ禍でも一人勝ちが続いているが、その好景気は他のエンターテインメント関連業界にも良い影響を与えているようだ。 今年、『愛の不時着』『梨泰院クラス』をはじめとする空前の韓国ドラマブームが巻き起こった。この火付け役はネットフリックスであり、コロナ禍の巣ごもり生活とこれらの作品の配信開始のタイミングがぴったり合ったことが成功の要因だと言われている。 OTTの強みは、世界に配信が可能である点だ。今まで全く知らなかった外国の作品にも手を出しやすくなり、想像していなかった作品に出合える楽しさがある。そこでもっとも重要になってくるのが字幕や吹替である。 コロナ禍でネットフリックス契約が20倍に伸びた韓国 お隣の国・韓国では、コロナ禍を経てネットフリックス加入者は637万名。約20倍に伸びたと言われている。日本のように映画館が全面休業しなかったのにもかかわらず、それだけ多くの人たちが外出を控え、家でエンタメを楽しむようになっていた。 ネットフリックスもそれに応えるかのように、配信コンテンツの量を急速に増やしている。韓国映像物等級委員会のここ4年分データを見ると、ネットフリックスが韓国に配信するためにセンサーシップ・レーティング(注)を要請した外国の作品数は、2016年には1226件/年だったが、2019年は1494件/年となって268件も増えた(韓国では映画やテレビ番組について制作者が視聴対象年齢を設定したものを日本の映倫のような映像物等級委員会が審査する)。 ちなみに、ここ4年間のネットフリックス・コリアのコンテンツ数は合計5553作品だ。これは、韓国の同時期4年間の総作品数合計1万1414作の、なんと48.7%がネットフリックスのコンテンツだったということになり、その量の多さに驚かされる。韓国国内でケーブルTV局が開局する際、平均130作程度のコンテンツを準備すると言われている。ネットフリックスは配信開始時から古今東西の約1500作のコンテンツを準備していたというわけだ。これだけ外国から配信作が入ってくるということは、それだけ翻訳字幕も必要となってくる。 ===== 60〜90分のドラマ1本を3日で翻訳 まずは、字幕についてみてみよう。例えば、ゾンビ物×時代劇という異色の内容で人気を博したネットフリックスオリジナル制作のドラマ『キングダム』。疫病からゾンビ化が始まったことから、ウイルスと闘う姿が現在のコロナ禍とも重なって、配信直後から世界中で話題になった。合計190か国で配信され、27の言語で字幕制作が行われたという。 ネットフリックスは、字幕と吹替で分けて翻訳専門会社に仕事をまとめて依頼し、翻訳専門会社がフリーランサーの翻訳家へ依頼するシステムだという。約60〜90分のコンテンツを翻訳家1人が作業する期間は内容にもよるが3日間程度だ。 また、気になる報酬については、一般的に作品1作単位で計算されることが多いが、ネットフリックスの場合は時間(分)単位で計算されるため、翻訳作業が早い翻訳家の方が有利であると言われている。翻訳量が多い人で、月500-600万ウォンの収入を得ており、一般的には200万ウォン支払われているそうだ。翻訳専門会社によると、ネットフリックスやアマゾン・プライムビデオのOTTが定着してきたここ数年で、20-40代の翻訳家希望者が増えてきているという。 世界30カ国に支社をもち12言語で翻訳 では、声優を使った吹替はどうなっているのだろうか。こちらも字幕同様、需要が増えているという。本来吹替は字幕処理よりも10倍ほどお金がかかるので、吹替版を出すかどうかは作品ごとに見極めが必要だ。先ほどのドラマ『キングダム』の例を見ると、12言語で吹替版も作られた。担当した会社IYUNOでは、英語や日本語はもちろん、アジア、ヨーロッパ、北米など世界30カ国に支社をもち、マイナーなスウェーデン語、ノルウェー語などの吹替も行っているという。 自国映画が強い国では、字幕を読むよりも吹替を好む傾向がある。特にアメリカはその傾向が強く、ネットフリックスでいえば、70〜80%の人が外国語映画を見る際、吹替バージョンを選択しているそうだ。 ニューヨークタイムズ紙によれば、ネットフリックスは2019年、「英語ダビングクリエイティブマネージャー」という部署を新設して、米国俳優放送関係者労働組合(SAG-Aftra)と3年契約を結び、今後外国語映画やドラマの英語吹替コンテンツをより拡大する意欲を見せている。これで日本映画を含む非英語圏の映画が英語へ吹き替えしやすくなり、より多くの人に作品を見てもらうことができるだろう。 ===== 民主化運動が「暴動」に...... 一方で、ネットフリックスの誤字脱字や誤訳などの問題も深刻だ。膨大な数の字幕作業をこなさなくてはならないのは理解できるが、簡単な漢字の間違いや、打ち間違いなのか突然アルファベットが1文字だけ入っているような初歩的なミスがあるとそちらが気になって話が入ってこないことがある。 また、字幕だけでなく作品紹介のページでも誤訳が波紋を広げることがある。その代表的な例が、韓国映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』である。この映画の作品紹介ページで、市民による民主化運動を「暴動」と表現し、日韓の映画ファンから非難される騒ぎがあった。 問題のページはネットフリックスジャパンによって既に修正済みだが、このような作品自体を揺るがしかねない単語のチョイスをしていると、そのうちAIに字幕作業も取って代わられる時代が来るかもしれない。 将来にはAIが翻訳を担当? 現にネイバーではコロナで自宅学習が増えたことから、教育用映像にAIによる自動翻訳字幕・吹替機能を無料で提供するサービスが始まっている。また、ネットフリックスで配信中の韓国ドラマ『人間レッスン』では、携帯の音声機能で仲間に指示を出すシーンが多く登場するが、この音声機能の声は、生身の声優の音声ではなく、AI声優がキャスティングされているという。 全世界でエンターテイメント業界が意気消沈している中、少しでも好景気な業界が存在するのはこれからの望みとなる。OTT会社が潤えば世界中のクリエーターにもまた多額の制作費が回り世界各国の若手制作陣にチャンスが巡っていく。 さらに、国内作品全体の質や技術の向上も期待されている。世界配信されるため、技術面でも今までの水準をぐっと上げていかなくてはならない。現に韓国では世界水準のCG技術を目指し始めた結果、たった3名の職員で設立した特殊CG効果会社ウェストワールドはネットフリックス作品を手掛けることで、1年半の間に130名の社員を抱える会社に急成長した。 コロナウイルスの感染拡大で暗いニュースが大半を占めるなか、このようにOTTの好景気から潤いを見せる業界も存在する。このチャンスを掴み、より素晴らしい作品を世界中に届けてくれるようにこれからも期待したい。 ===== コロナ禍でネットフリックスと翻訳会社が大忙し 新型コロナウイルスの感染拡大は、ネットフリックスの会員を増やし、翻訳会社も大忙しに MBCNEWS / YouTube