<ウイグル、南シナ海、香港と様々な問題が同時発生、最新の地政学的リスクから見る新冷戦の現実味> 米中関係の緊張は動画共有アプリのTikTok(ティックトック)やNBAにまで及んでいるが、ここ数週間は特に、さまざまな領域で同時多発的に問題が起きている。 2つの大国は何かのきっかけで敵意が燃え上がったというより、多数の地政学的展開の背後にある力学が関係しているようだ。その地政学的な問題をいくつか見ていこう。 ■新疆ウイグル自治区 中国政府は7月13日、マルコ・ルビオ米上院議員、テッド・クルーズ米上院議員、クリス・スミス米下院議員、信教の自由を担当する特別大使のサム・ブラウンバックに制裁を科すと表明した。彼らは中国政府と人権問題を強く批判している。 9日に米トランプ政権は、新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐり、地元当局の高官4人に制裁を科すと発表。中国側は対抗措置を取ると示唆していた。 中国政府は、新疆の再教育キャンプや刑務所でウイグル人など100万人以上の少数民族を拘束しており、国際社会から非難されている。さらに、少数民族に不妊手術や中絶を強要していることは「ジェノサイド(大量虐殺)」に当たると、米シンクタンクの報告書が指摘している。 もっとも、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録によれば、ドナルド・トランプ米大統領は昨年、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に、強制収容所の建設は「当然のこと」だと同意の意思を伝えたという。 ■南シナ海 マイク・ポンペオ米国務長官は7月13日、南シナ海における中国の領有権主張は大半が「違法」だとする声明を発表した。中国は、南シナ海のほぼ全域に9本の領海線「九段線」を引いて領有権を主張し、人工島を造成するなど実効支配を進めている。 アメリカは以前から中国の全体的な立場に異議を唱えてきたが、今回は特定の領有権主張を否定している。 「アメリカが軍事、外交、その他の手段を通じて中国の主張に異議を唱える姿勢が、より厳しくなるという前兆になり得る」と、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は述べている。ポンペオの声明の翌日に米海軍のミサイル駆逐艦は「航行の自由」作戦を実施。中国が領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島の周辺海域を通過した。 【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない ===== ■ファーウェイ イギリス政府は7月14日、第5世代(5G)通信網から、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の全ての製品を27年までに排除すると発表した。 米政府は、ファーウェイ製品に違法なバックドア(システムに不正侵入するための裏口)が仕込まれていて、中国政府がデータを引き出せると主張している。 トランプ政権は欧州各国にファーウェイ排除を働き掛けてきたが、反応はさまざまだった。イギリスも1月の時点では、ファーウェイの参入を限定的に容認していた。 アメリカは5月にも、ファーウェイがアメリカの技術やソフトを利用できないようにする新たな規則を制定するなど、圧力を強めている。 ■香港 (中国が香港の反体制派を直接取り締まることを可能にする)香港国家安全維持法をめぐり、米中の対立が激化。トランプ政権は7月、香港との犯罪人引き渡し条約を停止する準備に入った。 5月にポンペオが香港はもはや高度な自治を維持しているとは言えないと発言。7月にはトランプは香港に対する優遇関税措置撤廃の大統領令に署名した。同月には香港のデモ弾圧に関与した中国当局者らに制裁を科す新法案も米議会が可決。ポンペオは6月下旬にも「香港の高度な自治の侵害」に関与した中国当局者へのビザ発給制限を発表、中国側も報復措置をちらつかせた。 ■留学生 5月29日、トランプは中国人民解放軍と関連のある中国人大学院生と研究者へのビザ発給の停止を指示。直接影響を受けるのは現在アメリカに留学中の中国人(約37万人と世界最多)のごく一部だが、中国人留学生を排斥・敵視する動きとみる向きも多い。 トランプ政権は一時、秋学期からオンラインのみで履修する留学生のビザを取り消す新規制も検討(結局、約1週間で撤回)していた。実現すれば影響ははるかに広範囲に及ぶ恐れがあった。 スパイ行為や大学に中国政府の影響が及ぶ可能性を懸念する声にはもっともなものもあるが、中国からの留学生はアメリカの大学で科学技術を学ぶべきではないという極端な主張をはじめ、大半は危険なほど外国嫌悪の論法だ。 【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない ===== ■新型コロナウイルス 米中間の緊張は引き続き新型コロナウイルス流行への国際社会の対応に影を落としている。トランプはかねてから中国寄りだと非難していたWHO(世界保健機関)からの脱退を7月6日付で正式通知、手続きに入った(気候変動に関するパリ協定と同じく脱退は正式通知から1年後なので、実現するかどうかは11月の米大統領選の結果次第だ)。 WHOは中国に専門家らを派遣してウイルスの発生源を調査している。6月の報道によれば、新型コロナの流行当初、表向きは中国の対応を称賛していたが、実際は中国からの情報の遅れや不足にいら立っていたようだ。 一方、トランプ政権側はむちゃくちゃな主張をして中国起源説を正当化している。対中強硬派の側近は新型コロナウイルスが夏の暑さでも消えないのは中国の生物兵器である証拠と示唆。トランプ自身も選挙集会で(カンフーとインフルエンザを合わせた)「カンフル」という人種差別的表現を使い続けている。 ■軍縮 トランプ政権はロシアとの新戦略兵器削減条約(START)の延長交渉に中国も加わるよう求めているが、中国は拒否。中国外務省は7月8日、「アメリカが(核兵器保有数を)中国と同水準に削減する」なら参加すると皮肉った(保有核弾頭数は米ロ各6000発超に対し、中国は推定290発)。一方で中国はイランと経済・安全保障のパートナーシップ協定を交渉中とも報じられている。 いずれも新型コロナと目前に迫った米大統領選がもたらす一時的な緊迫と考えたくなる。民主党のジョー・バイデン陣営はトランプ政権の対中政策を「発言は強硬で行動は弱腰」と批判。バイデン政権が誕生すれば口ばかりの好戦的な姿勢や陰謀論は影を潜めるだろう。だが新疆のジェノサイドや中国と周辺国の領有権争いなどの問題は依然残る(習は任期制限撤廃により終身国家主席も夢ではない)。 「新冷戦」の現実味は増しており、当分消えそうにない。 ©2020 The Slate Group <本誌2020年7月28日号掲載> 【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない 【話題の記事】 ・中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか ・国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉 ・中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは ・台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。