<土地販売にセットで花嫁が? 人権無視のような広告には当地ならではの理由が──> インドネシアで住宅予定地の土地を売りに出している男性がインターネットに投稿した不動産広告の中で、「土地の購入者は売主の義理の妹と結婚することも可能」としていることが明らかになり、大きな話題となっている。すでに外国人数人が土地購入と義妹との結婚希望を申し入れたが、これまでのところ「契約成立」には至っていないという。 女性と不動産を「セットで売り」に出すことはインドネシアでは珍しいことではないものの、それをメディアやSNSで公に募集するケースは極めて特殊な例といえる。 2015年に一軒家の所有者である女性が自身の結婚と家の購入を写真付きで公募したことが大きなニュースとなったことがある。このときはほぼ「契約成立」となり自宅の売却とともに自身の結婚も実現間際までいったものの、購入者のインドネシア人男性が既婚者だったことを隠していたことなどから、最終的に家は売却できず、縁談も破談になったという。 土地や家などと一緒に結婚相手を探すという特殊事情も関係したインドネシアの結婚事情を探った。 結婚は付録ではなく、双方合意が条件 7月23日、Face Bookに中部ジャワ州クドゥスに住むアリス・ソフィヤント氏がクドゥスのゴンダンマニス地区にある「グリヤ・タマン・バハギヤ」という住宅街区内にある72平方メートルの土地の買い手を求める広告を掲載した。 広告には「土地には0.5メートル幅の舗装された取りつけ道路のアクセスもあり、価格は1億ルピア(約75万円)。買い手の人はもし条件が合致すれば結婚を前提とした真面目な交際を望んでいる自分の義理の妹と結婚することもできる」として自分の義理の妹である、デウィ・ロサリア・インダさん(26)の写真も掲載した。 たちまち話題となったこの広告、地元メディアなどの取材にアリス氏は「写真まで掲載した義理の妹は決して土地を売るための宣伝効果を狙ったおまけや付属、ボーナスといういい加減なものではない。あくまでも義妹と相手の本人同士の条件がマッチしたら結婚という真剣なものである」と述べて、中途半端な気持ちや宣伝効果を狙ったものではないことを強調している。 ===== デウィさんも「結婚相手は誰でもいいという訳ではなく、お互いを理解し、責任ある人であることなどの条件がある」として、即座に土地購入とプロポーズを申し込んだ「シンガポール人とマレーシア人の男性はすでにお断りした」ことを明らかにした。 「まだ全然知らない相手なのにいきなりプロポーズされたので断った。土地を購入することで知り合い、お互いを理解してから結婚はしたい」という理由からだという。 これまで2度結婚失敗したというデウィさんには4歳と1歳の子供がいることから「まず私の2人の子供を受け入れてくれ、私を含めた今後の人生にきちんと責任をもってくれること。今の私をそのまま受け入れて愛してくれることなどが必要で、相手の男性の外見などの条件はない」とメディアに心の内を明らかにしている。 過去には契約成立直前に既婚発覚し破談も 今回のようなケースは2015年にジャワ島中部のジョグジャカルタで、持ち家の住宅を売りに出した女性ウィナ・リアさん(当時40歳)が「ついでに私を嫁にもらって」と宣伝広告して当時大きな話題となった。 「家付きの花嫁が結婚相手募集」などと外国メディアも面白おかしい話題として取り上げたことからウィナさんとの結婚希望者が殺到した。 そしてウィナさんは自宅を購入してくれたインドネシア人の男性と結婚することになった。ところが地元メディアがこの男性には離婚歴が1度あり、さらにその後再婚した女性との婚姻関係がまだ継続中であることをスクープして報じた。 この男性の妻は夫と死別した幼馴染の女性でメディアの取材に対して「私と離婚してくれればウィナさんと結婚しても構わないが、経済的には苦しく、結婚前に私と約束した豪邸や車の購入、メッカへの巡礼も実現してくれず、生活費もほとんどくれない」と実情を訴えた。 報道を知ったウィナさんは「既婚者とは聞いていない、ショックとともに失望した」として自宅売却はキャンセルし、結婚は寸前で破談となってしまった。しかしこの一連の騒動でウィナさんは地元で一躍有名になり、自ら経営していた美容院も繁盛することになった、と当時メディアは伝えていた。 ===== イスラム教の一夫多妻制の影響も こうした女性の結婚と関連した不動産や財産などの付加価値は「女性に付加価値が付いてくるのか、付加価値に女性が付いてくるのか」とその判断に迷うところではあるが、インドネシアの女性団体や人権組織などからはこれまでのところ「女性を売り物にする人身売買の側面がある」とか「女性蔑視、差別の助長になる」などという手厳しい反発は不思議と起きていない。 それというのもインドネシアは10歳台後半で結婚、出産、離婚を経験して「幼い子供を抱えて仕事をする若い女性」が圧倒的に多い。日本でも同様の例はあるとはいえ、「理想的な結婚」に「財政的に不自由のない裕福な男性」を求めて、結婚によってそれまでの生活環境を一変させたいという願望がインドネシア人女性の間には相当に根強くある。 そうした多くの女性が抱く「普遍的な理想」に加えて、人口2億6700万人の約88%を占めるイスラム教徒女性としての宗教的側面もあるとの指摘もある。 イスラム教は「一夫多妻」を認め、妻を4人まで娶ることが可能とされている。ただそれは男性に対して「全ての妻をあらゆる面で平等に扱う」「第2夫人との結婚には第1夫人の了承が求められる」などの条件をクリアしなければならないとされている。 イスラム教徒の一夫多妻は元来「戦禍で夫を失った女性の救済」という社会的な意味合いを負っていたもので、それゆえに「女性差別や人権侵害」が入りこむ余地はないといわれている。 そうした社会の中で若くして子供抱えて寡婦となったり、中年まで結婚の機会に恵まれなかったりした女性にとっては「第1夫人でなくてもいいから、財政的責任と庇護を与えてくれる男性」を求めることがイスラム教徒女性としての安定した生活への鍵であり、近道となるといえる現実がある。 そのためには「土地や家などの不動産といった付加価値を伴う結婚」つまり「嫁入り道具のひとつ的感覚」で相手への負担を減らすことで、ハードルを下げて「幸福を追求したい」というイスラム教徒の「女心」の表れとも解釈できるというのだ。 2015年のウィナさんのケースは男性の側が既婚であることを隠して結婚しようとしたことで破談となった。今回のデウィさんの場合は相手の男性に対して「責任と愛情」以外の女権を提示していないが、男性にとっての第2夫人という立場でもいいのかどうかは明らかになっていない。 メディアからの過去2回の離婚原因に関する質問に関してデウィさんは過去の問題に触れたくないのか一切コメントしていないというが、インドネシアの各メディアはそんなデウィさんに「白馬の王子」か「玉の輿」が出現するのを待ち構えている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【話題の記事】 ・コロナ危機で、日本企業の意外な「打たれ強さ」が見えてきた ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・がんを発症の4年前に発見する血液検査 ・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。 ===== 良物件として広告された「美麗な花嫁付き土地」 良物件として広告された「美麗な花嫁付き土地」の花嫁ことデウィ・ロサリア・インダさん tvOneNews / YouTube