<演説で中国政府を「独裁的」と批判したポンペオ。「中国の人々と関わり、力を与える」と述べたが、その対中強硬路線には落とし穴がある> 7月23日、ポンペオ米国務長官は、対中政策に関する演説で中国への苛烈な批判を展開した。「(中国は)国内ではより独裁的になり、世界では自由への敵対姿勢をより強めている」と言い切った。 ここ数カ月、米中の対立が深まっている。7月21日には米政府が在ヒューストン中国総領事館の閉鎖を突如求め、24日には中国政府が四川省成都の米総領事館の閉鎖を要求。ポンペオはこれ以前にも、南シナ海に関する中国政府の主張に明確に反対する声明を発表していた。 ポンペオが示した考え方は、最近ワシントンで広がりつつあるものだ。歴代の米政権は中国政府と暗黙の取引をして、経済成長により双方が経済的恩恵を受けるのと引き換えに、中国に対するイデオロギー的批判と地政学的封じ込めを抑制してきた。だがポンペオのように、この姿勢は誤りだったと考える人が増え始めている。 ポンペオは演説で、米政府の新しい対中戦略を打ち出した。それは、「中国の人々と関わり、力を与える」というものだ。「中国の人々は、自由を愛する活力旺盛な人たちであり、中国共産党とは明確に区別すべきである」とのことだった。 しかし、この戦略がうまくいくかは疑わしい。共産党は中国の人々の暮らしと密接に結び付いているし、「共産党なくして新しい中国はない」というスローガンは小学校でも教え込まれている。 汚職の蔓延や新型コロナウイルスへの対応など、個別の問題に関しては、政府に怒りを抱いている国民も少なくない。それでも、その不満が共産党体制の終焉を望む考え方を直接生み出していることを示す材料はない。共産党を嫌っている国民も、敵対的な外国政府との対立では共産党政権の味方をするだろう。 そもそも、トランプ政権はこれまで「中国の人々と関わり、力を与える」ことを全くしてこなかった。トランプ大統領は中国への差別的な発言を繰り返し、米政府は中国国民へのビザ発給を大幅に厳格化させてきた。草の根レベルのボランティア活動なども打ち切っている。 それに、アメリカと中国の経済を切り離す「デカップリング」が実行されれば、途方もない経済的ダメージが発生する可能性が高い。 ポンペオは23日の演説で言及しなかったが、アメリカの一般消費者にとっては、デカップリングにより、安価だった中国製品の価格が大幅に上昇することになる。アメリカの企業も打撃を受ける。生産拠点の移転などにより莫大なコストが生じ、既に行った巨額の投資も無駄になるのだ。 【関連記事】米中衝突を誘発する「7つの火種」とは 【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない ===== 実際、トランプは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席との取引(ディール)を望んでいる。トランプは公然と習を称賛してきたし、ボルトン前国家安全保障担当大統領補佐官によれば、新疆ウイグル自治区での中国当局による強権的な措置に理解を示し、2019年の香港の民主化デモには無関心だったという。政権内のビジネス重視派も、デカップリングには慎重なように見える。 それでも、ポンペオの発言などによって米中間の緊張が高まれば、中国側が主導してデカップリングへ向かわざるを得なくなる可能性もある。 アメリカに譲歩することは、習にとって政治的なリスクが大きい。その点を考えると、中国政府が対立のエスカレートを回避するための賢明な選択をすることも期待できそうにない。 From Foreign Policy Magazine <2020年8月4日号掲載> 【関連記事】米中衝突を誘発する「7つの火種」とは 【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない 【話題の記事】 ・中国は「第三次大戦を準備している」 ・ヌード写真にドキュメントされた現代中国の価値観 ・アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか? ・大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月4日号(7月28日発売)は「ルポ新宿歌舞伎町 『夜の街』のリアル」特集。コロナでやり玉に挙がるホストクラブは本当に「けしからん」存在なのか――(ルポ執筆:石戸 諭) PLUS 押谷教授独占インタビュー「全国民PCRが感染の制御に役立たない理由」