<外国人労働者の法律相談を請け負う行政書士が遭遇した、在留資格など日本の法律をめぐる悲喜こもごものエピソード> 浅草で行政書士事務所を経営し、おもに外国人の在留資格取得や起業支援をしている細井聡(大江戸国際行政書士事務所)は、これまで多くの外国人と関わってきた。細井は、「10年後、20年後、いや5年後かもしれない、『同僚は外国人』という時代がすぐそこまで来ている」と言う。 ここでは、細井が最近上梓した『同僚は外国人。10年後、ニッポンの職場はどう変わる!?』(CCCメディアハウス)向けにコラムとして執筆されながら、紙幅の都合で割愛された在日外国人の在留資格をめぐるエピソードをいくつか紹介する。今回はその後編。 <未掲載エピソード紹介(前編):一夫多妻制のパキスタンから第2夫人を......男性の願いに立ちはだかる日本の「重婚罪」> ◇ ◇ ◇ 5.日本人なのにオーバーステイ!? 日本人なのに日本でオーバーステイになることがある。海外の話ではない。日本での話である。日本人と中国人との間に生まれたお子さんで、日本人のお父さんの戸籍謄本にはすでに実子として記載されており、紛れもなく日本人である。一方、中国でも出生届けが受理されているので、日中双方のパスポートを持っている。日本の法律では、22歳までに国籍を選択すればよい。しかし、中国は一切、二重国籍を認めていない。 その子は日本にやってくるときに、中国のパスポートを使って出国した。日本に入国するときにも中国のパスポートで入国した。中国のパスポートには短期滞在のシールが貼られ、入国のスタンプが押されている。実はこのとき、中国人のお母さんの在留資格を「日本人の配偶者等」に変更する手続きをしようとしていた。短期滞在からの変更申請は原則認められないのだが、認めてもらえる可能性のある数少ないケースのひとつが「日本人の配偶者等」への変更手続きなのである。 ところが、この手続きにはそれなりの日にちがかかる。お母さんの方は、変更申請手続きをしているので、まず出国することができない。だが、滞在期日を過ぎても2か月間の特例期間が認められるので、不法滞在になることはない。ところがお子さんの方は、日本国籍を持っているから日本には居られるのだが、中国のパスポートの査証を放置し、期日を過ぎると不法残留になる。日本人なので放っておけばよいとも言えるのだが、今度は中国に帰るときに困ったことが起こる。中国のパスポートで中国へ入国しようとすると、「オーバーステイなのに、なぜ日本に滞在できたのか」ということになるのだ。 ならば日本のパスポートで出国し、同じ日本のパスポートで中国に入国するとどうだろう? 中国人のお母さんと一緒に出国したはずのお子さんが、日本のパスポートで入国してくることになる。これについて中国側が目をつむってくれるかどうか......ご両親と議論した結果、危険は冒したくないということになった。結局、日本に住み続けるのだから、お子さんに中国籍を持たせておく必要はないだろうということになったのである。 そこで、まずオーバーステイを回避するために、ビザの抹消手続きを行った。戸籍謄本を添付し、パスポートを提出すると、「日本国籍のため査証を抹消する」という内容がパスポートに記載される。入管からは、「中国側から戸籍を抹消されますけどよろしいですね、依頼者は理解していますか?」とご丁寧に指摘があった。もちろん、それを承知で申請したのだが、入管職員のご指摘どおり、中国側からあっさり中国籍を抹消された。 6.証明書の誤記載 入管業務を始めたとき、諸先輩方から「外国の書類は間違いがあってあたりまえだから気をつけるように」というご指導をいただくことがあった。パスポートのスペルが間違っていて他の書類と違うためにトラブルになったとか、ぞっとするような話をさんざん聞かされたのだが、私も逆のケースは経験がある。つまり、パスポートではなく他の証明書の方が間違っているケースだ。 それは結婚証明書で、奥様の生年月日が違っていた。海外では戸籍のある国の方が少ないので、「家族滞在」で奥様を呼ぶときには結婚証明書を添付する。結婚証明書は、役所に結婚を届け出て、役所が発行してくれる方式のほか、結婚式のときにその国の公証人や法律家が作成することもある。依頼は何件かあったのだが、いずれも女性の方の生年月日の生まれ年だけが違っており、女性の年が若く記載されていた。 そのうち一件で、本人になぜなのか訊いてみたところ、「気を遣って、若く記載してくれたのかもしれない」と、なんとも意味不明な回答がきた。本当かどうかはわからないが、いずれも女性の方が年上だった。もしかしたらまだそういう感覚の国もあるのかもしれない。 しかし、パスポートの生年月日と結婚証明書の生年月日が違っていては証明書にならない。そこで改めて、公証人の前で「この記述は間違っているが、私と彼とは間違いなく夫婦である」旨の宣誓供述をしてもらい、公正証書を作成してもらった。しかし、もし公証人が気を遣って若く記載してくれたのが本当なら、公正証書もあまり信用できそうもないことになる。余計な気遣いではなく、単なる間違いであって欲しいと思う。 <参考記事:日本人が持つイメージより、はるかに優秀で勤勉な外国人労働者たちのリアル> ===== 7.家族あれこれ 本編(『同僚は外国人。』)ではほとんど触れなかったが、外国人が家族を呼びたいという相談がよくある。家族というのがどこまでを指すのかというと、在留資格の世界では夫婦と子どもまでである。「日本人の配偶者等」という資格の「等」は子どもを指す。家族滞在もそれに準じている。多いのが「親を呼びたい」という相談で、これはほとんど不可能なのだが、一定の条件を満たせば呼べることもある。告示などで定められているわけではないが、本国に身寄りがない、老齢で病気がちであるといった条件がそろえば、人道上の見地から法務大臣が特別に認めることがあるのだ。もちろん、養う側にしっかりとした生活基盤がなければ問題外である。 ここで、ではどれくらいから老齢かということが問題になる。基準が定められている資格ではないので、あくまで想定でしかないのだが、以前は65歳以上と言われていた。この案内をした外国人が連絡をしてきて、親が65歳になったので呼び寄せて日本で面倒をみたいと相談があった。ところが日本は高齢化社会である。最近では70歳を超えないと難しいと言われているし、すぐに75歳になる可能性もある。 だが、日本のような高齢化社会は稀で、アジア諸国では50歳を超えると引退してしまうこともめずらしくない。こういう方を呼ぶのはほとんど不可能なのだが、やはり親の面倒をみたいと思うのだろう、ときどき相談がある。だが、彼らが呼びたい親というのがほとんど私と年が変わらないので、その話をするとだいたい諦めてくれる。ある外国人は、「日本は先進国でよい国で、文明的な生活ができるが、生きていくのは必ずしも楽ではない」と言っていた。 もうひとつ多いのが、妹を呼びたい、兄を呼びたい、兄弟を呼びたいという相談だ。この「兄弟」というのが曲者で、実はいとこだったりはとこだったりする。場合によっては法的な意味で親族ではなく、赤の他人であることもある。そもそも家族としての在留資格の対象ではないのでどっちでもよさそうなものだが、短期滞在で親族を訪問するときに申請の理由書の作成を頼まれることがある。兄と思って書いていたら、最後の最後でいとこだったということがわかり、肝を冷やしたことがある。核家族化した日本人にはなかなかわかりづらい家族関係である。 8.出生地主義 私がビザの専門家であると知ると、興味本位で質問してくる人たちがいる。いろんな質問をもらうが、よくあるのが「外国人同士が日本で結婚して子どもができたら、日本の国籍はもらえないの」という質問である。 世界にはその国の領土内で生まれたら国籍がもらえる国がある。例えば、カナダ、アメリカ、ブラジルなどがそうだ。これを出生地主義という。親が短期滞在の旅行者であっても、不法入国者であっても、子どもが領土・領海内で生まれればその国の国籍が取れる(飛行機や船舶の中でも適用される)。これを狙って妊婦がアメリカに渡り、そこで出産して子どもにアメリカ国籍を取らせる。親はその扶養者として滞在が許可されるので、意図してアメリカで出産する人たちがいる、というのがアメリカでも問題になっている。ちなみに、トランプ米大統領はこの出生地主義を改めたいという発言をしている。 一方、日本は血統主義である。両親のいずれかが日本人であれば、出生により日本国籍を取得する。つまり、最初の質問の答えは「もらえない」である。外国人労働者の受け入れ論議の際、欧州のようになってしまわないかという指摘があった。欧州はほぼ血統主義ではあるが、一部の国では出生地主義を一部取り入れている。政府が「これは移民政策ではない」と主張していた背景には、この国籍法の違いを意識していたことがあったと思う。 例えばフランスでは、子どもがフランスで生まれ、5年以上フランスに住んでいると、フランス国籍が欲しいと意思表示をすれば国籍が取得できる。日本にはこういう例外はない。だから、フランスの極右勢力のルペン氏などは、日本の国籍法と同様にすべきだと主張するのである。 「外国人を日本人の養子にした場合、日本国籍はもらえないのか」という質問もある。これは、できなくはない。ただし6歳以下の子どもに限る。つまり特別養子の基準である。特別養子では実の親との関係が切れてしまうので、さすがに日本国籍を認めないと困ったことになるからだ。一方、一般養子では日本国籍は取得できない。一般養子に日本国籍を認めてしまうと、相続目的と同じように国籍取得を目的とした養子が横行するだろう。トランプ米大統領の移民政策やルペン氏の政策が過激だとよく話題になるが、日本の外国人政策の方がずっと厳しいとも言えるのだ。 <関連記事:日本人が持つイメージより、はるかに優秀で勤勉な外国人労働者たちのリアル> <未掲載エピソード紹介(前編):一夫多妻制のパキスタンから第2夫人を......男性の願いに立ちはだかる日本の「重婚罪」> 『同僚は外国人。10年後、ニッポンの職場はどう変わる!?』 細井聡著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) 【話題の記事】 ・新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・がんを発症の4年前に発見する血液検査 ・これは何? 巨大な黒い流体が流れる様子がとらえられる