<なぜ休業要請と補償がセットではないのか。政府は何年先まで事業者を支援する用意があるのか。「夜の街」に伝えたいことは――。7月20日、西村康稔経済再生担当相が本誌の単独取材に応じた。2020年8月4日号「『夜の街』のリアル」特集より> ――第一波における日本の対策として、うまくいったと評価している点と、反省点は。 まず1番は、亡くなる方の数を人口当たりで見ても世界各国と比べて抑えられたことだ。1000人近くの方が亡くなられていることは本当に残念ではあるが、全体として非常に低い数に抑えることができたのは国民の皆さんの努力のおかげでもあるし、医療機関の現場の皆さんが頑張ってくれたおかげだ。 ただ、SARS (重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)を経験していないなかで、PCR検査の体制が十分にできていなかった点は大いに反省しなければいけない。検査を戦略的に広げていかないといけないので、今は濃厚接触者であれば症状のあるなしにかかわらずほぼ全ての人を対象にしている。 歌舞伎町などの接待を伴う飲食店の方たちにも積極的に受けてもらっている。店内に陽性者がいるか否かにかかわらず、全て行政検査として無料で受けてもらっている。リスクのあるところはこれで何とか感染を封じ込めていく。 ――専門家の中からは、反省点としてリスクコミュニケーションの問題を挙げる声が聞かれる。特に、北海道大学の西浦博教授が何も対策を取らなければ約42万人が死亡するという被害想定を出したことは、一部の国民からも大げさだったと批判された。政府が被害想定を発表するという選択肢はなかったのか。 そういう議論さえ全くなかった。専門家の皆さんからそういう話があったわけでもないし、われわれの全く知らないところで発表されたことなので、事前に説明を受けたりもしていない。被害想定については専門家会議でオーソライズされたことでもない。当時の専門家会議に入っているメンバーの中にもいろんな意見がある。 専門家会議は何時間もかけて提言をまとめていて、提言は専門家の皆さんの教示であると考えているが、政府とは関係なく自分たちで文章を書いているので、ある人の考えはみんなが賛同すれば入るし、そうでないものは入らない。そういう意味で、西浦さんは個人の見方として、学者の判断として警鐘を鳴らした。それをどうこう批判することはない。危機感はわれわれも共有していた。 ――専門家が独自にメッセージを発信していたことで専門家が政府のコロナ対策を主導しているかのような印象も広がっていたが、対策を最終的に決断するのは政府であり、そこに対する政治責任は政府にある。 当然だ。私は常に自分の責任はあると思っているし、自分の責任で会見もしていろんな批判も受けるが、最終的には政府、安倍総理をトップとする政府対策本部でいろんなことを決めていく。決まったことに関しては国民の皆さんにできるだけ丁寧に説明しないといけないと思っている。今は基本的には毎日会見し、できるだけ数字や科学的根拠やデータを挙げている。 もう1つ言えば、西浦先生のSIRモデル(感染症のモデル)にわれわれは頼ってきて、あれが最も基本であるということで日本を含め各国で使われてきたが、モデルにもさまざまな見方がある。緊急事態宣言を経験した今は、AI(人工知能)やスーパーコンピュータの「富岳」も使ってSIRモデルを検証することも始めている。 今を第二波と言うかは分からないが、秋以降にまた大きな波が来ることは当然想定しないといけないので、それに備えて、緊急事態宣言当時の対策がどうだったのか、SIRモデルをどう評価すればいいのかという分析をこの夏にやりたいと思い、シミュレーション開発について公募もしている。 ===== ――リスクコミュニケーションの問題として、最近は西村大臣と東京都知事の発言が食い違うことがあり、都民としてはどちらが司令塔かと混乱する。 まず各都道府県の知事はそれぞれのエリアにおける責任者だ。新型コロナ対策の特別措置法の責任者は私であり、大きな方針は国で決めて、後は地域の事情に応じて知事が判断していく。 緊急事態宣言の発出や解除の基準は私が判断しないといけない。ただそれぞれの地域で休業要請やアラートを出すか否かは知事の権限であり、知事が適切に判断して対応できるようサポートするのが私の仕事だと思っている。 ただ特措法第5条には、対策として国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は「必要最小限のものでなければならない」と明記されている。感染防止策として厳しくやる部分も当然あるが、一方で国民の経済や生活もあるし、やりすぎると私権の制約にもつながるので、バランスを取らないといけない。 知事の立場で何かやりすぎるところは、政府がちょっとやりすぎですよということは言わないといけない。例えば緊急事態宣言の際、ホームセンターや質屋も全て休業要請をするという案が東京都から出てきた。だがホームセンターは生活必需品を売っているし、質屋さんは金融機能を持っている。そこまで休業要請するのはやりすぎだという話をした。 一方で、もっとやらないといけないのに対策として不十分な場合、例えばガイドラインを守るように要請を出して、守っていないお店には行かないように自粛を求めるなどの措置には、特措法の24条9項を使っていただく。 それぞれのエリアの責任者は知事なので、最終的には知事が決めるが、やりすぎたり、足りなかったりする場合に、こういったことがあるのではと言って調整していくのが私の役割だ。私はお店に休業要請は出せないので。 ――特措法には休業補償についての規定がなく、自粛の呼びかけと補償がセットになっていない。なぜ特措法に休業補償の規定を含めなかったのか。 まず、事業体は本当にさまざまあって、中小企業だけで全国で300万社以上あり、個人事業主やフリーランスを含めると数百万社に上る。その方々のひとつひとつにどれだけ売り上げがあって休業要請でどれだけ損失が出たのかを算定して、その金額を1件1件について出すということは事実上不可能だ。 われわれは今回、売り上げが前年同月比で50%以上影響を受けた事業者には上限200万円の持続化給付金を支給し、中小企業が都道府県知事の要請で休業や営業時間を短縮した場合には、雇用調整助成金として従業員に支払う休業手当の10割を国が助成している。 また、地方創生臨時交付金として各都道府県に合計3兆円を確保しているので、それぞれの自治体でそれを使って協力金という形で支給することできる。観光都市の場合、旅館やホテルはとても200万円ではもたないのでより大きな金額で支援するなど、地域の事情に応じて対応していただく。法律に書くかどうかは別にして、私は事実上、補償していると思っている。 ===== 大臣室にて取材に応じる西村経済再生担当相 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN ――特措法を改正して、補償とセットにすべきという声もあるが。 今回、特措法を運用している中で課題はいろいろある。強制力がないという指摘も常々言われてきた。特措法の下では、休業要請、休業指示、公表までしかできない。罰則も含めてもう少し強力な措置をとれないのか、という議論もある。 知事会からは、休業要請と補償を法律に書けないのかという論点も出ている。これをやろうとすると法体系全体を見ないといけないので、事態が落ち着いたところで見直しを行っていく。 ――事業者にとっては、コロナ禍がいつ落ち着くのか、1年かかるのか2年かかるのか分からないという長期的な心配も大きい。政府は経済的支援をどれくらいしていけるのか。 長引けば当然、いくらでもやる。持続化給付金は既に3.5兆円支給した(7月20日時点)。雇用調整助成金は1.6兆円の予算を計上している(実際に支給された額は7月24日時点で4200億円)。都道府県には地方創生臨時交付金として3兆円を確保している。一律10万円の特別定額給付金は11.9兆円(7月17日時点)配っているので、総額で約15.82兆円は既に直接的に給付が行われている。 企業への資金繰り支援には94兆円の枠があり、資本制の資金供給として12兆円を確保する。さらに(現時点で具体的な使い道が決まっていない)10兆円の予備費があり、これも使える。かなりの部分、今の枠組みでできると思っている。 ――政府は2年先まで、事業者に対して支援する用意があると考えていいのか。 分からない部分もあるが、支援できると思っている。世界経済が悪化するなど厳しい状況が続けば臨機応変に追加の対策をやるし、日本経済・社会を維持するために必要なことはとにかく全部やっていく。 何年もつかと、明確には言えないが、もちろん2年続こうが3年続こうが4年続こうが、いくらでも支援するということだ。そうしないと生命・生活が全て失われていく。 ===== ――「夜の街」が名指しされている。リスクの高いところにいる人たちも社会の一員だ。 当然だ。これは夜の街とか、バーやクラブなど接待を伴う飲食業に限らず、例えばカラオケもそうだし、コールセンターもそうだ。大きな声を出す場所は、発声のなかで感染が広がる可能性がある。 特にバー、クラブなど接待を伴う飲食業で感染が広がっていることは事実だ。近い距離で会話をしたり大きな声でシャンパンコールなどを行ったりする業種なので、当然リスクがある。なので、リスクを管理しながら、つまり感染防止策を徹底しながら事業を継続していただくことが必要だと思っている。 もちろん、働いている方がたくさんおられて、生活もかかっておられるわけなので、自分の命を守るために、自分の健康を守るために、大事なお客さんの健康を守るためにも、徹底して感染防止策を講じていただきたい。(感染リスクの高い業種には)上限200万円の持続化補助金を持って支援している。これを使って、アクリル板や消毒液やフェイスガードを買い、換気を良くして、それぞれが、一人一人が感染拡大しないよう注意してほしい。 これは全ての業種について同じです。夜の街だけではない。接待を伴わない飲食店でも個室で飲み会をやって騒げば感染が出ている。全ての業種、全ての人たちが、みんなで感染防止策を講じていかないと新たな日常ではやっていけない。新しいビジネススタイルでやらないと、ワクチンができるまで継続できない。昔の日常に戻れば確実に感染が広がる。 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月4日号(7月28日発売)は「ルポ新宿歌舞伎町 『夜の街』のリアル」特集。コロナでやり玉に挙がるホストクラブは本当に「けしからん」存在なのか――(ルポ執筆:石戸 諭) PLUS 押谷教授独占インタビュー「全国民PCRが感染の制御に役立たない理由」