トランプ米大統領が30日、ツイッターで、郵便投票で不正が起きる懸念があることを理由に11月3日の大統領選の延期に言及した。与野党双方の議員が早速反対の声を上げ、法律専門家も否定的な見方を示した。トランプ氏もその後、大統領選の延期は望まないと表明した。 だが、大統領選の結果が紛糾して決着までに数週間、場合によっては数カ月かかりかねない可能性も浮上している。 実際に起こりそうな事態と、その後に想定される展開をまとめた。 結果発表の遅れ 合衆国憲法は、大統領選の日程を変更する権限を持つのは連邦議会だけと定めており、現在下院の過半数を野党・民主党が握っている点からすると、選挙が延期される確率はゼロと言える。 しかし新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響で郵便投票が広く活用されるとなれば、開票結果の発表が大幅に遅れる可能性は高い。 多くの州では、選挙当日後に投票済み用紙が到着することがあり得るし、選管担当者は手作業で開票し署名を確認しなければならない。既に今年、主に郵便投票方式で実施された幾つかの大統領選予備選は、当日から何週間も経過してなお結果が確定しなかった。 民主党は、そうした遅れが、不正が行われたとの主張を勢いづけると懸念している。同党大統領候補指名が確実なバイデン前副大統領の陣営から説明を受けたある人物は、トランプ氏が激戦州の投票所での得票差を根拠に11月3日当日中に勝利宣言してしまうシナリオにバイデン陣営が備えていると明らかにした。 その後に人口の多い都市部での郵便投票開票が進み、トランプ氏に不利な展開に「変わった」としても、同氏がそれを認めない「悪夢のシナリオ」だ。 法廷闘争 郵便投票や不在者投票に関する法的要件は、州によって署名の筆跡一致や消印、申請の締め切りなどを巡ってさまざまに違いがあり、こうしたことが開票集計の正当性を巡って与野党の双方からの訴訟を引き起こす可能性もある。 今年の大統領選予備選でも、郵便投票者の急増に選管担当者や郵便局職員が対応しきれなくなり、投票済み用紙の期日内の処理に途方もなく苦労することが露呈した。 自分に何の落ち度もないのに投票済み用紙の返送が期日までにされない人も、実質的に選挙権を失うことになるかもしれない。与野党が接戦となる州では、こうした状況が裁判所への異議申し立てを誘発してもおかしくない。 各州で起こされた訴訟は最終的に連邦最高裁まで行く可能性もある。実際、2000年に共和党のジョージ・W・ブッシュ、民主党のアル・ゴア両候補が対決した大統領選ではフロリダ州の再集計を巡る争いが最高裁に持ち込まれた。 保守派が過半数を占める現在の最高裁は、選挙戦が制限を受けることを総じて容認しがちだが、だからといって大統領選結果についてトランプ氏に肩入れするとは限らない、というのが専門家の見方だ。 ===== 選挙人制度の混乱 一部の専門家は、訴訟よりもっと懸念されるのは大統領選挙人制度に関する混乱が生じることだとみている。 米大統領は、形式的には国民の直接投票ではなく、憲法で定められた選挙人団によって選ばれる。ほとんどの州では、勝利した大統領候補がその州の選挙人全てを獲得する。選挙人の数は州の「人口」に基づいて割り当てられる。今年の場合は、12月14日に各州知事が選挙人の投票結果を認定し、連邦議会に提出してその後、認証を得ることになっている。 ただアムハースト大学のローレンス・ダグラス教授(法学)は今回、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアという3つの激戦州で与野党の得票数が伯仲し、双方が勝利を宣言するシナリオを描く。 これらの州は知事が民主党、議会は共和党が握っており、知事がバイデン氏当選を認定しても、州議会がそれと別に、独自にトランプ氏勝利を認定することが想定されるという。 最高裁は最近、当該州で勝利した候補ではない別の人物に投票する「不誠実な選挙人」を州は罰することができるとの判断を示したが、十数州はそもそも、そうした選挙人に対するルールがまったくない。 また連邦法は最高裁ではなく連邦議会が、選挙人団を巡る紛糾を解決する責任を負うと定めている。しかしダグラス氏によると、この法律はあいまいで、「ねじれ」状態にある連邦議会では合意形成は簡単ではない。 同氏は「合衆国憲法の法体系が何らかの選挙危機に対処できるように設計されているかと問われれば、答えはノーになる」と話した。 強制退陣 たとえバイデン氏が勝利宣言しても、トランプ氏が敗北を認めようとしなければ、民主的な政治体制に深い傷がずっと残ることが最も気掛かりだとの声も聞かれる。 平和的な政権の交代は、米民主主義の代表的な特徴の1つに挙げられる。ダグラス氏は、ブッシュ氏とゴア氏の争いに終止符を打ったのは最高裁の判決ではなく、ゴア氏が敗北を受け入れたことだったと強調する。 バイデン氏は、トランプ氏が選挙で敗れても大統領の座に居座るようなら、退陣を「エスコート」するために軍が必要になるかのしれない、とまで示唆している。 トランプ氏の言動によって、彼の支持者が選挙は不正に操作されたとの確信を強め、ただでさえ人種差別抗議デモで不穏になっている米国社会をさらに混乱させる恐れもある。 ロヨラメリーマウント大学のジャスティン・レビット教授(憲法学)は、今回のトランプ氏のつぶやきについて、またしても、選挙を行う前からその手続きの正統性を否定しようとしていると指摘し、「深刻な不安定要素になっている」と嘆く。 ミシガン州で民主党のリーガルボランティアの研修を担当している弁護士のマーク・ブリュワー氏は、大統領選で延々と法的な争いが続くのを避ける最善の方法は、バイデン氏が大差で勝利することに尽きると述べた上で、「民主党は接戦にならないよう万全を期すべきだ」と訴えた。[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・がんを発症の4年前に発見する血液検査 ・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月4日号(7月28日発売)は「ルポ新宿歌舞伎町 『夜の街』のリアル」特集。コロナでやり玉に挙がるホストクラブは本当に「けしからん」存在なのか――(ルポ執筆:石戸 諭) PLUS 押谷教授独占インタビュー「全国民PCRが感染の制御に役立たない理由」