<英国の大学の研究者らが、水道水に含まれるリチウムの量と自殺率の関係について、過去に7カ国で行われた15の地域相関研究を対象にメタ分析を行った......> 水道水のリチウム濃度と自殺率の関係 リチウムが水道水に多く含まれる地域ほど、自殺率が低いことが明らかになった。過去に7カ国で行われた15の地域相関研究を対象に、英国の大学の研究者らがメタ分析を行ったもの。結果は、英国の精神科専門誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・サイキアトリー」に掲載されている。 メタ分析を行ったのは、英国のサセックス大学とブライトン大学が共同で運営している医科大学ブライトン・アンド・サセックス・メディカル・スクール(BSMS)や、英キングス・カレッジ・ロンドンの研究者らで、この類のメタ分析としては初めてのもの。 研究者らは、過去に発表された、公共水道水のリチウム濃度と自殺率について調べた論文を精査。その中から15件について系統的レビューを行い、メタ分析した。分析の対象となった地域は、米国、オーストリア、ギリシャ、イタリア、リトアニア、英国、日本の7カ国にある1286の都市や地域に及んだ。 本誌英語版によると、対象となった地域の人口は、一番少ない場所で110万9261人、一番多いところで2209万7948人だった。年間10万人あたりの自殺者数(自殺死亡率)は、7.53人から27人の幅があった。 水道水1リットルあたりのリチウムの平均濃度については、3.8マイクログラムだった地域もあれば、46.3マイクログラムだった地域もあった。中には、80マイクログラムを越えた地域もあったという(サイエンス・アラート)。 次のステップは水道水に人工的添加での実験? 研究の主執筆者であり、BSMSで疫学・公衆衛生を教えるアンジャム・メモン教授は、今回のメタ分析は介入研究ではないため、確定的な結果ではなく、示唆にとどまっていると説明している。とは言え、同教授はBSMSの発表文の中で、水道水に含まれるリチウムが持つ自殺抑止効果に期待を示した。 リチウムはほとんどの石に含まれており、雨水などと共に地下水や貯水池などに染み込んでいくため、最終的に水道水に含まれることになる。ボトル入り飲料水(ミネラルウォーター)は一般的にリチウム濃度が水道水より高くなるが、ボトル入り飲料水と自殺率については、今回分析した研究では触れられていない。 次のステップとしてメモン教授は、無作為に抽出したコミュニティで水道水に微量のリチウムを添加し、効果をテストする可能性を示唆した。ただし医療専門のニュースサイト「メディカル・ニュース・トゥデイ」は、水道水にリチウムを添加することへの倫理面での議論が起きる可能性があるとしている。 ===== とはいえ、2019年に英医療専門誌「パブリック・ヘルス・エシックス」(公衆衛生倫理)に掲載された、飲料水にリチウムを含ませることに対する倫理面を論じた記事では、リチウムの安全性が確認されれば、と前提条件を示した上で、虫歯予防での水道水へのフッ素添加をよしとするなら、リチウムも問題ないはずだとしている(フッ素もリチウム同様、もともと水道水に微量が含まれているが、虫歯予防を目的に水道水にフッ素を添加している国も少なくない)。 認知症の治療や予防にも期待 BSMSの発表文によると、「魔法のイオン」と呼ばれることもあるリチウムは、双極性障害や気分障害と呼ばれる症状に苦しむ人に対し、躁うつエピソードや気分の安定、自殺の防止などを目的に広く使われている。 さらに、衝動を抑えたり、慢性的な薬物乱用などに対処したりするために使用される場合もあるという。また最近の研究では、アルツハイマー型を含む認知症にも効果があることが示されており、認知症予防としてもリチウムへの期待が高まっている。 サイエンス・アラートによると、医療で使われるリチウムは通常1日200ミリグラム以上と比較的量が多く、副作用にも注意が必要だという。研究チームの1人、キングス・カレッジ・ロンドンのアラン・ヤング教授は、医療で使用されるリチウムと比べ、水道水に含まれるリチウムは長期間にわたり体に取り入れている可能性はあるものの、かなり微量だと説明している。 メモン教授は、世界では現在80万人以上が自殺し、15~24歳では死因第1位になっており、世界的に心の病が広がり自殺率が高まっていると説明。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受け、心の健康を損なう人が増えているため、メンタルヘルスを改善し、不安やうつ、自殺を減らす手段の活用はこれまで以上に重要であるとしている。