<レバノンのシーア派武装組織ヒズボラをテロ指定するアメリカから交戦中のイスラエルまでが次々と支援を表明。狙いは影響力の増大か> 8月4日にレバノンの首都ベイルートで大規模な爆発が発生したことを受けて、一方ではシリアとイラン、もう一方ではイスラエルとアメリカという、対立関係にある複数の勢力がそれぞれレバノン政府に支援を申し出ている。 レバノンの長年の盟友であるシリアのワリード・ムアレム外相は5日、レバノンのシャーベル・ワハビ新外相と話し、弔意と団結の意を表明した上で「可能な限りの支援を提供する意思」を伝えた。爆発はベイルートに大きな被害をもたらし、死者は130人以上、負傷者は数千人にのぼっているが、これはまだ早い段階の推定値にすぎず、現在も行方不明者の捜索が続けられている。爆発が起きた(原因はまだ分かっていない)港湾地区から立ち上った煙は、約80キロメートル離れたシリアの首都ダマスカスにまで到達している。 シリア外務省の公式発表によれば、前任者の辞任を受けて3日に外相に就任したばかりのワハビはムアレムの申し出に対して「両国の真の関係を反映する友愛に感謝を表明した」ということだ。外相同士のやり取りに先立ち、4日にはシリアのバシャル・アサド大統領がレバノンのミシェル・アウン大統領に電話をかけている。 「交戦中」のイスラエルも支援表明 20世紀前半に共にフランスからの独立を果たしたレバノンとシリアには、歴史的に深いつながりがある。1970年代にレバノンで内戦が勃発した時には、レバノン難民がシリアに流入し、シリアで2011年に内戦が始まった時には大勢のシリア人がレバノンに渡った。両国共通の仇敵が、領土をめぐる争いで大勢のパレスチナ難民を出しているイスラエルだが、今回の爆発に際しては、そのイスラエルの軍さえもが「今は対立を超越すべき時だ」として、レバノンに人道支援と医療支援の提供を申し出た。 レバノンもシリアも、厳密には現在イスラエルと「交戦中」だ。イスラエルは、同国とレバノン・シリアが領有権を争う地域で越境攻撃を受けたことへの報復として、この3週間だけでも両国内の複数の標的を攻撃してきた。イスラエルはこれらの越境攻撃について、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラをはじめ、中東内外に民兵組織のネットワークを持つイランとのつながりを指摘している。 そのイランのジャバド・ザリフ外相もまた、ベイルートの爆発直後にソーシャルメディア上で哀悼の意を表明。4日、ツイッターに「イランは必要なあらゆる方法で支援を提供する準備ができている」と投稿し、5日にはワヒバとも電話で話した後、レバノンの「災害救助を支援するために、仮設病院のためのチームと医薬品を現地に送る」と発表した。 <参考記事>ゴーン逃亡のレバノンが無政府状態に、銀行も襲撃される <参考記事>1982年「サブラ・シャティーラの虐殺」、今も国際社会の無策を問い続ける ===== イランのハサン・ロウハニ大統領もレバノンのアウン大統領に電話で連絡。今回の爆発が起きる前から既に経済危機やインフラの崩壊、新型コロナウイルスの影響などに苦しんでいたレバノンに対して、医療支援の提供を約束した。ロウハニは閣議で、イランの赤新月社に対して、できる限り迅速にレバノンに支援を送るよう命じた。 またイランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師と革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官も、レバノンにお悔やみのメッセージを送り、レバノン国家とヒズボラの両方に宛てた声明の中で「爆発の被害を受けた人々を支援するために、レバノンの政府と国民にあらゆる支援を提供する」と宣言した。 イラン軍の制服組トップであるモハマド・バゲリ参謀総長は、全てのイスラム教国に「宗教上、人道上の責務に従って」支援を送るよう呼びかけ、イラン軍は「親愛なる、悲しみの縁にあるレバノンのための救援・支援に参加する」と表明した。バゲリはまた、ヒズボラに宛てた別のメッセージの中で哀悼の意を表明。ヒズボラは「地域の最前線で反シオニズム運動を展開し、西アジアのイスラム領土の治安を見出すイスラエルの陰謀を潰してきた」と、その功績を称賛した。 トランプは「攻撃による爆発」と発言 アメリカのマイク・ポンペオ国務長官は4日に声明を出し、米当局者たちは爆発を受けて「状況を注視しており、レバノンの国民を支援するための用意はできている」と述べた。ドナルド・トランプ米大統領もその後の記者会見で支援を表明したが、爆発について「ひどい攻撃」と言及。爆発は、現場とみられる倉庫で保管されていた化学物質や花火、穀物が原因で起きた「事故」だとする有力な説を否定し、軍の高官たちから「なんらかの爆弾による攻撃」とみられるとの報告を受けたと述べた。 ===== 駐米レバノン大使のガブリエル・イッサは、トランプのこの発言のすぐ後に本誌に対し、「今回の爆発が意図的な攻撃、あるいは何らかの爆発物によって引き起こされたことを示す兆候は、これまでのところない」と語った。イッサによれば、爆発の原因はまだ分かっていないが、初動捜査で見つかった証拠は化学爆発を示唆している。米国防総省のある高官も4日、本誌に対して同様の見解を示していた。本誌は国防総省経由でホワイトハウスにコメントを求めたが、返答は得られなかった。 ポンペオは5日、レバノンのサード・ハリリ前首相(中東地域におけるアメリカのパートナーで、イランと対立関係にあるサウジアラビアと緊密な関係にある人物)と電話で話した後に、ハッサン・ディアブ現首相に電話をかけ、改めてアメリカとして「レバノン国民がこの恐ろしい出来事の結果に立ち向かうのを支援する、揺るぎない意思がある」と述べた。ディアブは1月に首相に就任。彼が率いるレバノンの新政府はヒズボラが大きな影響力を持つため、米政府との間の亀裂は深まっていた。 おそらくこれまでで最も大きな被害をもたらした危機への対応に苦慮しているレバノンに対しては、ほかにも数十カ国が支援を表明している。 【話題の記事】 ・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......? ・地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される ・科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める ・中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗っただけで71人が2次感染 ※画像をクリックすると楽天ブックスに飛びます2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか =====