<世界的著名人が(たぶん)善意でやっているはずの行動がときに反感を買うのはなぜ?> アメリカで1カ月以上にわたり展開されてきたキャンペーン「#パス・ザ・マイク(マイクを回そう)」が7月1日、大成功のうちに終了した。 これは、セレブが新型コロナウイルス感染症対策の最前線に立つ人に話を聞き、その様子をソーシャルメディアで流すというシンプルなもの。大量のフォロワーがいるセレブのプラットフォームを専門家に提供することで、新型コロナに関する正しい情報を広めようというわけだ。 リレー方式のキャンペーンのトップバッターに立ったのは、女優ジュリア・ロバーツ。話を聞いた専門家は、米政府のコロナ対策の中心人物の1人であるアンソニー・ファウチ国立アレルギー・感染症研究所所長だ。これは大きな話題となり、キャンペーンは好調なスタートを切った。 とはいえ、セレブは注目を浴びるのが大好きな人種だ。それだけに(おそらく)使命感に燃えてやったことが、大ひんしゅくを買うなど、裏目に出ることも少なくない。 全米の多くの都市で自宅待機命令が出た後の3月18日、女優ガル・ガドットはインスタグラムで、「今日で自己隔離6日目」と語るビデオを公開した。そして「ここ数日は、ちょっと哲学的になっている」とため息をつくと、突如ジョン・レノンの名曲「イマジン」を歌いだした。 驚きはそれだけではない。画面は次々と切り替わり、女優クリステン・ウィグ、俳優マーク・ラファロ、人気テレビ司会者ジミー・ファロンら多くのセレブ友達が自宅で「イマジン」を歌う姿が映し出された。ガドットの素朴な独白ビデオと思われたものは、実はばっちり編集されたミュージックビデオだったのだ。 ニューヨーク・タイムズ紙の音楽評論家ジョン・カラマニカは、このビデオを「自己満足の極致」と切り捨て、「音楽性もゼロ」と酷評した。その数日後には、歌手のマドンナが、花びらを散らしたバスタブの中から「コロナウイルスの前では誰もが同じ」と語り、世界の失笑を買った。 なぜ、セレブたちはこんな失態を犯すのか。あるメディアは、「もう1つのコロナ:自粛中のセレブのイタいビデオ」という記事を掲載した。 極端に演出された「普通」 セレブが「普通っぽさ」を強調するのは新しい現象ではない。ハリウッド黄金期の映画会社は、子役時代のジュディ・ガーランドが野球ファンであることに目を付け、「健康的な普通の女の子」のイメージを強調した。もちろんガーランドの子供時代が普通とも健康的とも程遠かったことは、今や誰もが知っている。 最近はソーシャルメディアの普及で、極端に演出された「素顔」がセレブの大きな魅力と見なされることも増えた。だが、普通っぽい素顔を演出する一方で、普通とは全く異なる生活ぶりが垣間見られる写真や動画は、セレブに難しいバランスを強いている。 間違いなく金持ちのセレブが、「所有物が一切ないことを想像してごらん」と歌っても、多くの人には利己的で偽善的に響くばかり。ガドットらの「イマジン」がむしろ反感を買ったのは、現実を分かっていないという印象を人々に与えてしまったからだ。 だが、社会的に大きな事件が起きたとき、使命感に駆られたセレブの行動に厳しい目が向けられるのは、これが初めてではない。 20年前の「イマジン」 2001年9月11日の米同時多発テロ後、俳優ジョージ・クルーニーは、危険を顧みずに救援活動に従事した消防隊員や警察官をたたえ、彼らや事件の遺族を支えるチャリティーコンサート『アメリカ:ア・トリビュート・トゥ・ヒーローズ』を企画した。 コンサートは多くのテレビ局で生中継され、有名ミュージシャンが1曲歌っては、事件現場やハイジャック機内で展開された勇敢な行為を紹介するという体裁が取られた。このとき俳優トム・ハンクスは次のように語っている。 「あの日以来、あらゆる年齢、人種、信条の人が『自分には何ができるだろう』と考えてきた。私たちは英雄ではなく、アーティストにすぎないが、このコンサートに出演することで本物の英雄たちをたたえ、結束を示し、遺族がサポートを受けられるように、できるだけのことをしたいと思う」 米同時多発テロ後のコンサートに出演したハンクス KMAZUR-WIREIMAGE/GETTY IMAGES これは、セレブが自らのスターパワーを利用して、別の人物や物事に注目が集まるようにした好例と言える。 実はこのコンサートでは、カナダ出身の歌手であるニール・ヤングが「イマジン」を歌っている。だが、このときは不適切だとか、偽善的だという批判の声は上がらなかった。なぜなのか。 確かに米同時多発テロも現在のコロナ禍も、全米に大きな衝撃を与えた。だが新型コロナでは低所得層や黒人に、不平等と言えるほど多くの感染者と死者が出ていることが分かっている。 だからガドットやマドンナが、「新型コロナはあらゆる人を同じように襲う。だからみんなで一緒に立ち向かおう」と言ったところで、人々の心に響かないのだ。 では、ロバーツと「#パス・ザ・マイク」はどうなのか。セレブが過度に普通ぶらずに、そのスターパワーを誰かと共有すると、セレブ自身の価値が高まる。(一見したところ)脇役に徹することで、セレブは主人公に戻る力があることを見せつけるのだ。 本人たちは軽い気持ちだったのかもしれないが、このような非常時の大衆の反応を、セレブは真剣に受け止めたほうがいい。そこには、大衆が平等や社会全体の幸福についてどう考えているかを教えてくれる、多くのヒントが詰まっているのだから。 Lorraine York, Distinguished University Professor, Department of English and Cultural Studies, McMaster University This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article. <2020年8月11日/18日号掲載> ※画像をクリックすると楽天ブックスに飛びます2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか