<トランプが感染対策のアドバイザーとして新たに起用したアトラス医師は、感染予防より感染を広げるアプローチを提唱。ファウチら常識的な対策チームの影響力はさらに小さくなりそうだ> ドナルド・トランプ大統領の新型コロナウイルス対策チームに、新たに加わったスコット・アトラス博士は、これまで頻繁に保守系テレビ番組FOXニュースに登場、新型コロナについて「メディアは騒ぎ過ぎ」と批判してきた人物だ。 過去1週間の新型コロナに関するホワイトハウスの会見で、トランプの傍に控えていた医師はアトラスだけだった。 かつてトランプの会見に立ち会っていた新型コロナ対策チームを率いる国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長、デボラ・バークス医師の姿はどこにもない。この事は、彼ら専門家とトランプ政権との溝が広がったことを示している。ファウチらは、コロナの脅威を軽視するトランプの意見に真っ向から反対し、マスクの着用やソーシャルディスタンスを支持し、学校再開に反対したことで、保守派やトランプ支持者からも敵視されるようになっている。 アトラスは元スタンフォード大学医療センター神経放射線学部長で、感染対策は現状より緩やかでいいと主張。それをトランプは公的に支持している。 7月初めにFOXニュースに出演した際、アトラスはアメリカが休校した学校を再開しないのは異常で、それはニュースメディアがパンデミック「ヒステリー」を生み出したからだと語った。 みんなで感染すれば怖くない? 政府によるロックダウンのせいで、「自然感染による集団免疫」の獲得が妨げられている、とアトラスは批判する。地域の大半の人が感染して免疫ができれば、感染拡大をスローダウンできる。その結果、免疫のある人だけでなく地域の住民全員が守られる。 アトラスは以前、子供はウイルスに対して本質的に「リスクゼロ」であるため、若くて健康なアメリカ人がコロナウイルスにさらされるのは「良いこと」だと唱えていた。 だがAPの記事で、医学の専門家らがこの説を否定。その根拠として、新型コロナウイルスに感染した若年成人の35%が、陽性になってから2~3週間後の時点でも健康な状態に戻っていなかったという研究を引用した。 トランプはアトラスの対策チーム入りを発表する際に、「スコットはとても有名で、非常に尊敬されている」と記者団に語った。「すばらしいアイデアをたくさん持っているし、これまで私たちがやったことについても高く評価してくれている」 ホワイトハウスのジャッド・ディアー報道官は、アトラスを「世界的に有名な医師」と紹介する声明を発表した。 <関連記事>欧州各国で感染が急増するなか、「集団免疫戦略」のスウェーデンは収束へ <関連記事>新型コロナ回復患者の抗体水準、2─3カ月で急低下 集団免疫の獲得は無意味か? ===== だが公衆衛生の専門家や医師は、それほど楽観的ではない。「アトラスに新型コロナ対策チームを率いる資格は全くないと思う」と、公衆衛生を専門とするジョージタウン大学法学部教授のローレンス・ゴスティンはAPに語った。「彼の学位は感染症や公衆衛生とはかけ離れた分野で、伝染病の流行に対処した経験もない」 7月初旬にアトラスはサンディエゴ郡監督委員会のジム・デズモンドとの対話で、新型コロナの感染による死亡率は「70歳未満では0.04%」しかなく、インフルエンザより低いと主張した。しかし、APによるとそのような論文は今のところ1本しかなく、しかも査読前だという。 だがアトラスは、それが正しいと信じて疑わない。「この数字があまり報道されないのは、メディアは悪いニュースだけを煽情的に報道したがるからだ。恐怖やパニックを鎮める効果があるニュースは取り上げない」 今年4月、アトラスが新聞の論説欄に寄稿した記事によれば、「新型コロナ感染者の入院に備えて、何百万人ものアメリカ人のための重要な医療が、延期または中止された」が、最終的には、それほど大きなスペースを新型コロナ感染者のために確保する必要はなかったという。「完全な隔離政策」によって引き起こされる「代償」として、多くのアメリカ人が命を落としたことも指摘した。 「予防接種が存在しないなかで、リスクの高い人々を隔離することができるならば、社会全体にウイルスが広がるようにしたほうがいい」と、アトラスは述べている。 (翻訳:栗原紀子) 【話題の記事】 ・イタリアを感染拡大の「震源地」にした懲りない個人主義 ・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。