<世界有数の鉱山で起きた武装組織による襲撃事件。当局は組織をパプア独立運動とは関連付けないというがその訳は──> インドネシアの東端に位置するパプア州の州警察本部長が8月17日、州都ジャヤプラで記者会見して、今年3月に同州で発生したニュージーランド人殺害事件を実行した組織の拠点を治安部隊が攻撃。同組織の地域司令官を殺害したことを明らかにした。 パプア州警察のパウルス・ワタルパウ本部長は記者会見で16日に同州南部ミミカ県にある武装組織「西パプア民族解放軍(TPNPB)」の拠点に対する作戦を実施したという。 作戦には警察官196人、陸軍兵士92人が重武装で参加し、拠点を攻撃して激しい銃撃戦となったという。 この作戦で武装組織のパプア人1人が死亡し、3人が負傷したものの3人とも付近のジャングルに逃げたため身柄の拘束には至らなかったという。 死亡したパプア人の身元について以前に逮捕したTPNPBのメンバーから提供された写真などから、同組織の地域司令官の一人で行方を探していたヘンキ・ワンマング(別名ヘンドリック)容疑者であることが確認されたと州警察は発表した。 3月の鉱山襲撃事件の実行組織 3月30日に同州ミミカ県にある米資本「フリーポート・マクマホン社」とインドネシアの鉱山開発会社「フリーポート社」が共同で開発している世界有数の金・銅鉱山「グラスベルグ鉱山」の事務所、従業員住宅地区が襲撃され、ニュージーランド人のグラエム・トーマス・ウォール氏(57)が殺害され、インドネシア人従業員2人が負傷する事件が起きた(関連記事:「武装組織襲撃で外国人含む3人死傷 独立運動で治安悪化が続くインドネシア・パプア」)。 TPNPBはこの襲撃事件直後に犯行声明を出しており、治安当局のその後の捜査などからTPNPB内にある複数の組織のうちヘンキ容疑者が率いるグループが関わっていたとの疑いを強め、同グループ司令官であるヘンキ容疑者とその仲間の捜索を続けていた。 【話題の記事】 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見 ・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる   ===== 過去にも襲撃事件に参加、指揮 治安当局によるとヘンキ容疑者は2009年に3人が死亡、11人が負傷したグラスベルグ鉱山襲撃事件に参加しており、その後も同鉱山やその関連施設への攻撃をたびたび実行したという。そして2018年にTPNPBのミミカ県を中心とする中央山岳地帯を活動拠点とするグループの司令官になったとしている。 16日の作戦で治安部隊はヘンキ容疑者らが滞在していた拠点から手製武器とともに銃弾381発、現金約1500ドル相当、複数の携帯電話、掲揚や所持が禁じられているパプア独立旗3枚を押収したという。 治安当局では攻撃の際に負傷して山間部に逃げ込んだ3人の行方を追うとともに同グループの壊滅を目指して作戦を継続中で「メンバー拘束にはその生死を問わない」との指示が出ているという。 独立組織と犯罪組織の違い パウルス州警察本部長は記者会見でヘンキ容疑者が率いるグループ「TPNPB」について「犯罪組織」との表現を使って独立を求める武装組織とは異なるとの立場を強調した。 パプア州、西パプア州からなるパプア地方では長年インドネシアからの独立を求める「自由パプア軍(OPM)」による抵抗運動が1965年以来小規模ではあるが現在も続いている。 TPNPBはOPMの分派の一つで、パプア州中央山岳地帯を中心にさらに複数のグループに細分化され、それぞれが「司令官」に率いられて治安部隊や政府組織、鉱山施設などへの襲撃を繰り返している。 インドネシア側はTPNPBなどの分散化した組織を「独立運動組織」とは認めず単なる「犯罪組織」と位置づけることで、一般のパプア人住民に対し「情報提供」を呼びかける対策を取っている。 パプア州の中央山岳地帯では2018年12月に道路建設工事現場が襲撃され、非パプア人労働者19人が殺害される事件が起きている。この事件も警察は「犯罪組織の犯行」として、750人の治安部隊を増派して摘発を強化した経緯がある。 さらに2019年8月に東ジャワ州スラバヤのパプア人大学生寮に踏み込んだ地元警察官がパプア人大学生の連行に際し、集まった周辺の住民と共にパプア人に対し「サル」「イヌ」「ブタ」などと差別発言を繰り返したことで全国的にパプア人による「差別反対」のデモや集会が拡大した。 その後「差別反対」の抗議運動は「パプア独立の是非を問う住民投票実施」という独立運動に変質して拡大。パプア地方にも飛び火したこのデモや集会は一部都市で暴動化。死者約40人がでる事態を招き、治安当局はさらに約3000人の要員をパプア地方に増派して事態の沈静化に乗り出した。 このようにパプアの治安が悪化するたびに軍や警察は要員を増派して治安維持に当たっているが、一方で治安要員によるパプア人一般市民の不当逮捕、暴力行為、一方的殺害などの人権侵害も深刻化していると伝えられている。 【話題の記事】 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見 ・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる   ===== TPNPB側は抵抗激化を宣言 今回ヘンキ容疑者が殺害されたことを受けてTPNPBの報道官は地元メディアに対してSNSを通じて「今回の事態はインドネシア治安当局の我々への宣戦布告を意味する。司令官が1人殺されても我々には33人の司令官がおり、各司令官は約2500人のメンバーを率いている。我々はインドネシア治安部隊に必ず報復をする。負けることも降伏することもない」と武装闘争の激化を示唆した。 インドネシアの独立記念日だった17日、例年は首都ジャカルタの大統領官邸で盛大な記念式典が行われるが、今年はコロナウイルスの感染拡大防止の観点から式次も参列者も大幅に割愛、縮小して行われ、VIPもインターネット中継で参加した。 その映像の中にインドネシア各地で国旗に敬意を表する人々が映し出されたが、その中にはパプア地方で民族衣装を身に付けたパプア人たちの姿もあった。これはジョコ・ウィドド大統領がパプア問題を重視している姿勢の表れとともに「パプアもインドネシアの一部である」とのメッセージであり「独立も独立運動も認めない」との強い姿勢を改めて表明したものと受け止められている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【話題の記事】 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見 ・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。 ===== TPNPBの司令官、銃殺さる 当局は300人体制でTPNPBへの襲撃作戦を展開した。 jawapostv official / YouTube