<著名起業家が語る学び続けることの大切さ、人種差別抗議デモへの思い、そして経済戦争の戦い方まで> 著名な起業家で、NBAのダラス・マーベリックスのオーナーでもあるマーク・キューバンは、起業志願者のプレゼンを受けて投資先を決めるABCの人気番組『シャーク・タンク』のレギュラー出演者でもある。歯に衣着せぬ発言で知られる彼がジャーナリスト、ジョーダン・ハービンジャーのポッドキャストに出演。人種差別への抗議運動に対する考えや、彼ならではの起業家論、中国との経済戦争などについて語った。 ■コロナ禍における経営者へのアドバイス 私が言うのはいつも同じだ。まず、隠し事をしないこと。2つ目は誠実であること。3つ目は信頼に足る人間であること。4つ目は話をすることだ。誰もがパニックになっている今こそ対話しなければ。誰もが怯えているときにその恐怖と向き合う最良の方法は、みんなが1つになることだという点を心得るべきだ。 ビジネスは、自分が大切だと思う価値観を共有できる相手と行いたいものだ。また、従業員や株主を大事にしなければ、あなたのブランドには永遠に傷が付く。若い子たちはこれから何十年もその傷ついたイメージを抱き続けることになるのだから。自分たちを世間にどう見せ、社会とどう向き合い、従来型のトップダウンではなくボトムアップで事業をどのように進めていくかが、その後何十年にもわたる自社ブランドを定義付けることになるという点を大企業は理解しつつあると思う。 ■人種差別への抗議運動が起きるのは時間の問題だった 人々は怒っている。(アメリカ社会には)組織的な人種差別が存在する。ストレスが解き放たれた原因は、生まれてこの方ずっと不利な立場に置かれてきた人々の、日々対処しなければならない心配と不安だ。 4000万人もの人々が職を失い、時短勤務や賃金カットに見舞われた人に至っては数え切れない。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の到来で、マイノリティー社会は大きな打撃を受けた。医療従事者のうち、マイノリティーはかなりの割合を占める。つまりコロナとの戦いの最前線には(人種・民族的な)不均衡が存在するのだ。それだけで大変なストレスだ。 (公民権運動の指導者)マーチン・ルーサー・キングは、暴動とはそれまで耳を傾けてもらえなかった人々の声だと述べた。驚くとしたら、ここに至るまでにこれほど長い時間がかかったということだ。 【関連記事】日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード 【関連記事】ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来 ===== ロボットやAIが政府の規模と効率を変える TOMOHIRO OHSUMI/GETTY IMAGES ■人工知能(AI)は政府を変える 私は2年くらい前から言っているのだが、AIによってわれわれは今にも増して政府を「サービス」として見ることができるようになる。テクノロジーとその行く先を理解している政治家がいれば、AIの進歩に伴いさまざまなリスクが出てくるということを認識できるだろう。 もっとも問題をクリアできれば、サービスとしてのAIは昔ながらの使えない役人たちに取って代わっていく可能性がある。政府の規模は小さくなる一方で効率的に仕事をこなすようになり、今より多くの資金を国民や国民が必要とするサービスに割けるようになるかもしれない。 ■なぜ今が事業立ち上げの好機なのか あなたが進化のスピードに取り残されたくないと思う新しいもの、つまりロボット工学やプレシジョン・メディシン(精密医療)、AI、統計学や数学は、何であれ常に研究に値する。だがカギとなるのは「学び方を学ぶ」ことだと私は思っている。なぜなら不変なのは「物事は変わる」ということだけだからだ。 パンデミック以前には、在宅勤務などわれわれの頭の片隅にもなかったし、「(テレビ会議アプリ)ズーム(Zoom)の音量を上げるにはどうしたらいいんだろう」などと考えたこともなかったはずだ。つまり、チャンスにつながる変化は常にある。そしてたぶん、今ほどビジネスを始める好機はないだろう。あらゆる物事がリセットされているからだ。 ■学び続けることの大切さ 社会に大きな影響を与えそうな新技術が出てくるたび、私はそれを学びたくなる。AIはすごいことになると思ったから、機械学習に関する個別授業を受けている。YouTubeでニューラルネットワークの入門講座も見ているし、強化学習に関する論文も読んでいる。おかげで(AI関連の)企業投資を始められたし、本物とがらくたを見分けられるようになった。 ロボット工学についても掘り下げた勉強を始めたところだ。ソフトウエアの観点からはきちんと理解できているのだが、ハードウエアの側面はそうでもないからだ。 ■メイド・イン・USA 製造業を海外から国内に回帰させる唯一の方法は、(途上国の)安価な労働コストや環境保護に対する無関心に打ち勝つことだ。それもロボット工学を用いてやらなければならないだろう。ただし混乱は避けられない。従来型の製造業の一部はたぶん、退場させられることになる。どんなタイプの雇用を創出できるか、それをどのように広げていけるかについて理解できれば、全体として多くの雇用を創出できるはずだ。 だがトランプ政権の方法論を採用し、1985年頃のアメリカの製造業を現代に再現し、国民を守るために関税を引き上げたりすれば、アメリカは火だるまになる。中国やドイツ、ロシア、日本などの国々がロボット工学でどんどん前進しているという観点が抜け落ちているからだ。それに中国は「どうやったらこのビジネスでアメリカをたたきのめせるか」を日々、考えている。それを理解し、投資し、主権国家として前進しなければ火だるまになる。 【関連記事】日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード 【関連記事】ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来 ===== ABCの投資番組では他の投資家と共に起業志願者のプレゼンを厳しく審査 ANDREW ECCLES-ABC/GETTY IMAGES ■排除すべきものは何か 特許全般、それに許認可だ。ルイジアナ州だったか、他人の髪を洗うのに免許が必要で、200時間ものくだらない実地研修を受けなければならないところがあるが、まさにばかげている。 ダラス市では、会社を起こすにはまずインターネットにつないでいくつかの書類に記入して、ボタンを押し、クレジットカード情報を入力して99ドル払うだけでよかったはずだ。そんな感じにビジネスから厄介事を取り除かなければならない。くだらない許認可は、守られる必要のない人々を守るためにある。 ■起業したきっかけ あまりに仕事熱心でやる気満々だったせいで、上司に疎まれてクビになった。当時は仕方なかったんだ。最初の3つは長くて9カ月......。それで自分で起業するしかないと気付いた。当時は寝室3部屋のアパートに男7人で住んでいて、大学を卒業した年の失業率は10%を超えていた。そんな状態が何年か続いて、簡単には仕事にありつけそうになかった。 ■起業家になるには 生まれながらの起業家もいる。私がそうで、生まれつき起業のこつが分かっていた。とにかく売って売って売りまくっていた。売ることができれば起業家になれる。会社をつくって、売るのが得意なものを売ればいい。だがそうじゃない場合は、ビジョンがあって、やり遂げるための努力も惜しまないなら、準備が大事だ。時間をかけて学ぶ必要があるが、大抵はやりたがらない。 つまり起業できる可能性は誰にでもある。それでも「自分はどんな会社を始めたいか」と考えているようでは、まだ早い。「何をしたらいいでしょうか」と誰かに尋ねたり、「自分はこの会社を始める準備ができているか」と自問したりするうちも、まだだ。「参入できて取引先さえ見つかれば、この件についてはこの会社やこの会社より詳しい」と思えるなら、準備OKだ。 ■中国をたたき出せ 中国で生産しても構わない。だが、中国で生産しなくても済むように、何としても彼らを負かすべきだ。(出演中の投資番組の起業志願者に)「中国生産を勧める気か」と視聴者から批判されるが、そうじゃない。これまで私が製品を製造するときはどれも、まずアメリカで製造しようとした。ただし今はやり方を変えて、国内製造をする米企業と協力するようにしている。ロボット関連のコストが下がり、ソフトウエアが向上しているからだ。 ロボットは人間に比べればまだ手先が不器用で、できないこともあるが、それでも中国企業をたたき出せるくらいにならなくては。現状ではアメリカで生産するだけでグローバルに渡り合うのが難しくなる。 【関連記事】日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード 【関連記事】ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来 ===== 黒人への暴力に白人も抗議 IRA L. BLACK-CORBIS/GETTY IMAGES ■読ませる売り込みとは 経歴の部分は「インディアナ大学に進学、1年生でこれこれをやり、2年生のときはスキーで骨折したせいでこれこれができなかった」という書き方じゃ駄目だ。「自分にしか作れそうにないソフトウエアを製作、以下の問題が解決できます。オハイオ州シンシナティ在住。利用できるリソースは限られています。続きを読んで御意見をいただけますか」。これなら続きを読むよ。 ■相手を思いやる 「MAGA(Make America Great Again)=アメリカを再び偉大にする」というロゴが入った赤い帽子とTシャツで、リベラルなニューヨークの街中を歩いたり、リベラル派のデモに参加したりしたら、どうなるだろう。さぞ不安になるんじゃないだろうか。こんな格好で店に入ったら、じろじろ見られるんじゃないか。帽子もTシャツも脱いではいけないとしたら、どこへ行っても何をしても他人の視線が気になるだろう。みんな帽子とTシャツしか見てないんじゃないか。毎日どんな気持ちがするだろう。 それでもアフリカ系アメリカ人など人種的・民族的少数派の人々が毎日どんな思いをしているかを考えたら、まだましだ。彼らの気持ちを代弁しようなんてつもりはない。ただ、われわれ白人はもう少し努力するべきだ、せめて理解しようとするべきだと言うとき、MAGAの帽子とTシャツ姿の自分を想像してみることは、彼らの置かれている状況や味わっているストレスが、私たちとは懸け離れていることを理解するきっかけになる。 ■「平等」と「同じ」は違う マーベリックスの球団内部のセクハラ問題で、考え方が一変した。平等に扱うというのは同じに扱うのとは違うと、痛いほど分かった──女性スタッフはなおさらそうだろう。私はずっと、男も女も白人も黒人も方程式みたいに考えていて、全く同じに扱うつもりだった。実際はそれぞれ力学が違い過ぎて同じに扱うなんて不可能だということに気付かなかった。 文字どおり平等に扱うなんて無理だ。相手がどんな人間で、どういう出自で、どんな壁にぶつかっているかを認識できなくてはいけない。そう気付いたら経営状態は大幅に改善した。ほかにもCEOのシンシア・マーシャルからいろいろ教わったが、まだ学んでいる最中だ。 【関連記事】日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード 【関連記事】ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来 ===== ■リッチはいいことずくめ 請求書のことで気をもまなくていい。先月の電気代がいくらだったか知らないんだ。子供たちが一体どれくらい使ってるやら。請求書を気にせずに済むようになったのが最大の変化だ。 億万長者で困ることなんて何もない。今と正反対の極貧生活も経験し、クレジットカードを止められたこともある──さっきも言ったが寝室3つのアパートに男7人で住んでいた。当時はすっからかんで、真夜中に値引きされるのを待って鶏肉を買っていたよ。子供たちのことで気をもむのは、ほかの親たちと同じだ。16歳の娘が車を運転するようになったら、車のドアが閉まるたびにびくびくした。それはカネでは変えられない。 ■今こそチャンス ビジネスを始めるなら今がチャンスだ。どこも営業再開で手探り状態だから、どんなビジネスでも通用するといっていい。大企業は守りに入っている。中企業も同じだ。小企業はとにかく適応しようと必死だ。ゼロから始める場合、例えばレストランなら、最初から社会的距離と冷暖房空調設備に対応し新型コロナ対策を考慮した店舗にできる。サービス業なら、みんな既にズームに慣れているから在宅勤務でも快適に働けて、オフィスを探さなくて済む。いろいろ有利だ。 抗議デモと暴動もかすかな希望を、進歩できるかもしれないという希望を感じさせる。白人エスタブリッシュメントも今度は耳を傾ける。だからこそ私は声を上げようとしてきた。マイノリティーのコミュニティーに関わり、彼らのイベントに足を運び、彼らが経営する会社や店を訪れた。略奪などの被害に遭った企業に救いの手を差し伸べている。だが特に今最も不利な状況にある人々とつながり助けようと努力している。 <本誌2020年8月25日号掲載> 【関連記事】日本人には分からない人種差別問題のマグニチュード 【関連記事】ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来 【話題の記事】 ・12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる ・介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。