<NATO諸国に対する「最後の砦」ベラルーシの混乱をロシアが放って置けるはずはない?> 現政権への抗議デモに揺れる隣国ベラルーシに、混乱の収拾を口実にしてロシアが軍事介入する可能性があるとみて、NATOは警戒を強めている──2人の米当局者が本誌に明かした。 ベラルーシでは今月9日に行われた大統領選後、野党支持者らが選挙の不正を糾弾。混乱が広がるなか、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に支援を求めた。ロシアにとって今も自国寄りの政権が支配するベラルーシは、NATOの勢力拡大に対抗するための最後の防波堤だ。ベラルーシと国境を接する旧東欧圏のラトビア、リトアニア、ポーランドはすでにNATOに加盟している。ベラルーシを失うまいと、ロシアが軍事介入に踏み切る可能性は十分あると、米当局者は言う。 「ベラルーシはNATO加盟国ではないから、(ロシアが軍事介入をしても)NATOは対応できない」と、この当局者は匿名を条件に本誌に語った。「しかも、ロシアには前歴がある。(ウクライナ危機の際にも)欧米勢が混乱をあおったと虚偽の主張をし、それを口実に介入した」 加えて、COVID-19の「パンデミックの影響でNATOの即応力が低下している」こともあり、「(ロシアの介入に)好都合な条件がそろっている」と、この当局者は指摘する。 プーチンにすがる独裁者 「出動命令を下すのに最善のタイミングは社会が混乱しているとき、とりわけ権力の空白が生じたときだ。選挙の不正が問題になっていることを考えると、ロシアが『国民投票』を仕掛け、偽りの民意を形成して」、それを口実に介入する可能性もあると、彼はみる。 米国防総省の高官も、匿名を条件に、この当局者の発言を裏付けた。この高官によれば、ロシア軍はNATO各国の軍隊 に比べ、COVID-19の影響をさほど受けていない。「ロシア軍も多少は機動力が低下しただろうが、盛んに軍事演習を行い、迅速に出動できる態勢を誇示している。一部の演習は今も続行中だ」 抗議デモが吹き荒れているベラルーシに、「重要なインフラを守るためと称して、ロシアが治安部隊を送り込む可能性は十分ある」と、この高官は言う。 プーチンとルカシェンコは8月16日に電話で協議した。ロシア政府の公式発表によると、この会談で「ロシア側はベラルーシが直面している問題を解決するため、必要な支援を提供する用意があると改めて保証した」という。公式発表によれば、これは「ロシア・ベラルーシ連合国家創設条約」と、ロシアとベラルーシのほか、旧ソ連の共和国であるアルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが調印している「集団安全保障条約」に基づく支援だ。 ベラルーシ側の公式発表でも、ルカシェンコはプーチンとの電話協議で「外部からの脅威」があった場合はロシアの支援を受けたいと述べた、とされている。 <参考記事>ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運 <参考記事>ベラルーシとの合同演習は、ロシア軍駐留の「隠れ蓑」? ===== ルカシェンコはソ連崩壊後、1994年に実施された初の大統領選で勝利して以来、連続6選を果たし、26年間政権の座に居座ってきた。国内で強権支配を固める一方、安全保障面では、NATOが国境地帯で軍備を拡大していると主張し、国境沿いに重点的に陸空軍を配備、常に臨戦態勢を取るよう指示して、大規模な軍事演習を実施してきた。 本誌の取材に対し、NATO報道官は8月18日に行われたイエンス・ストルテンベルグNATO事務総長とポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領の会談の公式発表に言及した。 公式発表には「ベラルーシ政府は言論の自由、平和的な抗議運動の権利など基本的な人権を十分に尊重すべきであり、NATOは引き続き警戒を緩めず、あくまで防衛に徹し、同盟国に対するいかなる侵略をも抑止する準備を維持すべきだという点で、2人の指導者の意見は一致した」と書かれている。 公式発表はさらに「NATOはベラルーシに脅威を及ぼしておらず、この地域で軍備を増強してもいないと、事務総長は強調した」と述べ、「全てのNATO加盟国はベラルーシの主権と独立を支持する」との事務総長の見解を明らかにしている。 ドナルド・トランプ米大統領は先日、ドイツ駐留米軍の一部をポーランドに再配備する協定に署名した。この動きにロシアは神経を尖らしている。 旧東欧諸国を歴訪したマイク・ポンペオ米国務長官は8月15日、ポーランドの首都ワルシャワで記者会見を行い、今回の歴訪では「ベラルーシの人々が主権と自由を勝ち取れるよう、できる限りの支援をする」ための方策を、各国首脳と話し合ったと述べた。 この発言に、ロシアはさらに警戒感を募らせているはずだ。 プーチンは旧ソ連圏に相次いで介入 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は8月19日、国営テレビのインタビューで「外部の勢力がベラルーシの人々と指導層が直面している内政上の困難な問題を利用して、(選挙やデモに)干渉しようとする試み」を懸念していると語った。 本誌の取材に対する、ロシア外務省の回答によれば、ラブロフ外相は「ただの干渉にとどまらず、外部の勢力が自分たちに利するやり方をベラルーシに押し付ける」危険性を懸念しているという。「これが地政学的な問題、ソ連崩壊に伴って生じた問題であることは公然の秘密だ。ソ連崩壊後には各地でさまざまな問題が起きた。これもその1つだと、われわれは認識している。前回のケースは、言うまでもなくウクライナだ」と、ロシア外務省は回答した。 ウクライナでは2014年に親ロシア派政権の退陣を求める運動が広がり、ロシアが戦略的に重要なクリミア半島に介入。住民投票を仕掛け、投票の正当性に対する国際社会の批判を無視して、住民の大多数がロシア編入を望んでいると主張し、武力による併合に踏み切った。以後、今日までウクライナ東部では分離独立を求める武装勢力が攻撃を続けており、その背後でもロシアが糸を引いていると、欧米勢は非難している。 ウクライナ紛争をきっかけに、ロシアと欧米諸国の関係は悪化の一途をたどり、NATOはロシアの侵攻を警戒するポーランド及びバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアに駐留する多国籍軍を増強してきた。 ロシアはウクライナ以前にも、ジョージアからの分離独立を求めるアブハジアと南オセチアを軍事的に支援。モルドバとウクライナとの国境地帯に位置し、モルドバからの独立を宣言したトランスニストリア(沿ドニエストル)にもテコ入れしてきた。これらの地域は国際的には承認されていないが、いずれもロシアの庇護下で事実上の独立状態にある。 <参考記事>ベラルーシ独裁の終わりの始まり──新型コロナがもたらす革命の機運 <参考記事>ベラルーシとの合同演習は、ロシア軍駐留の「隠れ蓑」? ===== しかしベラルーシについては、ラブロフ外相は「ベラルーシの人々は今の状況を彼ら自身の知恵で打開できると確信して」いると述べ、今のところ介入の可能性を否定している。 プーチンも表向きは同様の姿勢を見せている。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、ロシア国営タス通信の記者に直接的な支援に乗り出す可能性はあるかと聞かれて、「そんな必要ない」と断言した。「仮にもそうした考えが入り込む余地はないし、全くもって論外だ」 だがNATOとその最新鋭の軍備が過去20年間、旧東欧圏にじわじわと入り込んできた状況を考えると、最後のとりでであるベラルーシが欧米勢に取り込まれるのを、プーチンが許すはずがないと、一部のウォッチャーは言う。国防総省情報局(DIA)の副長官を務めたダグラス・ワイズは本誌に「ルカシェンコを取り巻くベラルーシの状況は、プーチンにとって、あらゆる意味で悪夢であり、一刻の猶予もならない危機にほかならない」と語った。 国境の向こうで大規模なデモが起きている状況を、プーチンが手をこまねいて見ているはずはない。「ルカシェンコの『支援要請』を口実に、ロシアの常套手段であるハイブリッド戦争を仕掛けるだろう」と、ワイズは言う。「反政権派を標的にしたサイバー攻撃、軍の情報機関であるGRUの工作員の投入、そしてクリミア半島の重要拠点を占拠したリトル・グリーン・メン、つまりロシア軍への帰属を隠すため、記章を付けていない特殊部隊の兵士を投入するなど、成果を実証済みの戦術を総動員する戦争だ」 ロシアにとってのベラルーシの重要性を考えれば、プーチンは既に布石を打っているはずだと、ワイズはみる。「今の段階ではぎりぎりの線で軍事介入を避けつつ、着々と準備を進めて、最終的には一気に軍隊を投入する」そんな魂胆が透けてみえる、というのだ。 【話題の記事】 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・米大学再開をぶち壊す学生たち、乱痴気騒ぎでクラスターも発生 ・ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由 ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。