<昨年の連続爆破テロをきっかけに一度政権を退いた親中派の兄弟政治家が復活。インド洋の覇権をねらう中国の影響力が一段と高まるおそれがある> 2019年4月21日、279人の命を奪ったスリランカ連続爆破テロは、過激派組織IS(イスラム国)に呼応したとみられるグループの犯行だったが、卑劣なテロに対するスリランカの怒りは皮肉にも、インドの南にあるこの島国を戦略的要諦とみなす中国に近いラジャパクサ兄弟が政権に復帰する道を開いた。南アジア一帯における中国の活動を封じ込めようとするアメリカとその同盟国は、親中のスリランカという重荷を背負うはめになったのだ。 ラジャパクサ兄弟のうち兄のマヒンダは大統領として、弟のゴタバヤは国防次官として2005年から10年間、スリランカの政界を支配し、反政府テロ組織タミル・イーラム解放のトラとの戦いに勝利を収めて人気を集めた。2015年の選挙で、隣国インドや欧米との融和を訴える統一国民党(UNP)に敗北し、政権から退いていた。 ところが2019年4月21日、復活祭の日曜日に首都コロンボを始め国内の8カ所で教会や高級ホテルが爆破されるテロが起きると、国民はテロを阻止できなかった一因は政府の怠慢にあると考え、憤慨。燃え上がったナショナリズムは、昨年11月の大統領選挙でゴタバヤ・ラジャパクサを勝利に導いた。そして今月5日投票のスリランカ議会選で、ラジャパクサ兄弟の支持勢力が過半数の票を得て圧勝、政権の基盤は盤石となった。 中国マネーの侵略 ゴタバヤ・ラジャパクサは兄マヒンダを首相に任命し、スリランカ政界の支配を再び確立した。権力がラジャパクサ兄弟に一手に握られたことで、中国との関係はさらに勢いよく拡大するとみられている。 中国はすでに、芸術劇場から戦略的に重要な港湾まで、スリランカのインフラ整備に数十億ドルを注ぎ込んできた。スリランカは、中国の一帯一路構想(BRI)にとってきわめて重要な拠点であり、アジアからインド洋を経てアフリカにいたる中国の海上交通路戦略「真珠の首飾り」の一部になっている。 アメリカは中国のこうした動きは、周辺の国々をだまして海上交通の要諦を支配しようとするものだ、と非難している。 「わが国は一貫して、中国が多くの国に押し付けている略奪的な融資のやり方に懸念を表明してきた。すでに多額の借金とパンデミックが経済に及ぼす影響に苦しんでいる発展途上国は、とどめを刺されるかもしれない」と、米国務省の報道官は本誌に語った。 「中国政府は、透明性と債務の持続可能性の点で国際基準に達しない不透明な国家支援をもちかけ、その合意を通じて融資を行うが、それはたいていの場合、中国企業が考えた経済的価値の疑わしいプロジェクトに資金を提供する形になっている」と、報道官は指摘した。「それによって現地の民間部門の競争力は損なわれ、持続可能性がどこより必要な場所で持続可能性が妨げられている」 <参考記事>スリランカで準独裁体制が復活すれば、海洋覇権を狙う中国を利するだけ <参考記事>中国に懐柔された二階幹事長──「一帯一路」に呑みこまれる日本 ===== 報道官によると、米国務省はスリランカのような国々に対して、「別のアプローチ」を奨励している。「持続可能な成長をもたらし、貧困を減らし、技術革新を促進した実績と透明性のある民間主導の投資やビジネスモデルを優先」することだ。 今年2月、大統領に当選して以来初のインド訪問中に、一帯一路構想について批判されたマヒンダ・ラジャパクサは、スリランカは一帯一路の恩恵を受けたと地元ヒンドゥスタン・タイムズ紙に語った。「中国に対するスリランカの債務は、対外債務全体の12%に過ぎず、債務不履行にもなってない。その資金は全て、わが国のインフラの構築に使った」 中国大使館は本誌の取材に対し、当時の外務省報道官の趙立堅(チャオ・リーチエン)の発言を引用した。 「中国とスリランカは、誠実な相互援助と永続的な友好関係に基づく戦略的協力パートナーシップを共有している」と、趙は記者会見で語った。「中国はスリランカの開発ニーズに基づいて、インフラ整備や国民の生活に資する主要プロジェクトを支援するための融資を行った」. 趙はさらに、中国政府は受け入れ国の債務の持続可能性と政府の意志に注意を払っていると主張した。中国の資金は、スリランカ政府が新しいインフラを構築するハードルを乗り越え、独自の開発を促進する役に立ったと言う。 恩恵と懸念のはざまで スリランカ国民はといえば、大きな利益と大きな懸念の両方を感じている。 「スリランカは中国の一帯一路構想の要諦のひとつとみなされている」と、スリランカのケラニヤ大学博士課程に在籍するマヤ・マフエランと、中国海洋大学に在籍していたヤシル・ラナラジャは本誌に語った。2人は「一帯一路構想スリランカ」というNGO組織の共同ディレクターだ。 「だから、中国はスリランカへの投資に熱心だ。スリランカが中国と同じビジョンをめざして協力するならば、中国の技術、才能、豊富な経験、ノウハウによる恩恵を受ける絶好の機会となるだろう」 「しかし、スリランカの一帯一路プロジェクトの一部は、透明性と経済的持続可能性の欠如で批判されている」と2人は続け、同国で論争の的になっている南部ハンバントタ港のケースを挙げた。中国の融資で開発したこの港は完成後も債務返済に十分な利益があがらず、中国側に運営権を差し出さなければならなかった。 中国の投資の動機は「主に世界経済の相互関係を高めるためにつながりを強化すること」だと2人は指摘したが、「中国の経済的、安全保障上の利益を強化する効果もあるかもしれない」ことは認めた。 <参考記事>スリランカで準独裁体制が復活すれば、海洋覇権を狙う中国を利するだけ <参考記事>中国に懐柔された二階幹事長──「一帯一路」に呑みこまれる日本 ===== 特に、ゴタバヤ・ラジャパクサが元海軍司令官のジャヤナス・コロンボー提督を上級外交官に任命したことを指摘し、それは「ラジャパクサ政権がいかにインド洋の地政学的支配に焦点を当てているか」を示していると語った。 スリランカが一帯一路に協力することにアメリカが反対するのも、南アジアの地域覇権を握ろうとする中国を押し返すためだ。中国にはそれを可能にするだけの経済力と、南シナ海で示した軍事的拡張の能力がある。 南アジアで一帯一路に対抗するアメリカの「自由で開かれたインド太平洋構想」には、オーストラリアや日本が加わっている。インドはもちろんその重要なメンバーだ。インド政府はラジャパクサ兄弟とは因縁付きの歴史を持ち、中国とは、アジアの2大国の衝突を象徴するような国境紛争の真っ只中だ。 マフエランとラナラジャは、スリランカはアメリカとインドを含む地域の大国すべてと関わりを持っていくだろうと予測しながらも、「親中とみられるラジャパクサ政権の下、中国の影響力が強まっていく」と見る。 アメリカとインドの接近は、インドの仇敵パキスタンとアメリカとの間に緊張をもたらしているが、そのパキスタンは既に中国と密接な協力関係にある。米政府とアジアの同盟国はその上、中国と手を結んだスリランカに対抗しなければならないのだ。 【話題の記事】 ・中国の三峡ダム、豪雨で危険水位20メートル上回る 設計最高水位に迫る ・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......? ・中国ステルス機2機が中印国境に到着、空中戦準備の可能性も ・「一帯一路」参加でイタリアは中国の港になってしまうのか ・日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他