<コロナショックからの経済回復を急いだ知事の思惑は空回りして......> インドネシアの世界的観光地であるバリ島のあるバリ州が、9月11日から州として独自に海外からの観光客を受け入れる方針を明らかにして、沈滞する地元観光業界などから大きな期待が寄せられていたが、バリ州政府は24日までに9月の受け入れ再開方針を撤回した。そして2020年一杯は受け入れを禁止することとして、ジョコ・ウィドド政権の方針と足並みをそろえて2021年初頭からの受け入れ再開を目指すことになったと発表した。 このバリ州政府の方針変更は、そもそもインドネシアの中央政府が2020年内の海外からの観光客受け入れ禁止方針を示す中で、観光業への依存度が高く、現状では州経済や観光関連業者への影響が致命的になるとして、「バリ島は特別扱い」を強調して独自に進めてきた方針だ。 それだけに9月11日からの海外観光客受け入れ方針を明らかにした時は「これで島に活気が戻る」「ようやく仕事が増える」と諸手を挙げて歓迎する意向を示した人々がいる一方で、「中央政府が禁じている海外からの観光客をバリ島だけが受け入れることなど果たして可能なのか。絵に描いた餅で終わるのではないか」と極めて冷静な見方をする人がいたのも事実である。 今回のバリ州政府の受け入れ年内禁止措置は、期待を寄せていた人々や業界を見事に裏切るとともに、懐疑的に見ていた人々に妙な納得感を与えている。 バリ州政府、特に先頭に立って「世界から観光客の受け入れを再開するのだ」と内外に広くアピールしていたワヤン・コステル州知事の責任は極めて重いといわざるを得ないとの見方がバリ島ではでている。 バリ観光復活3段階の最後で挫折 島内の主要産業が観光業とその関連というバリ島では、コロナウイルスの感染拡大に伴う移動制限、外出自粛、飲食業制限により内外からの観光客が激減したことで産業の約80%が何らかの影響を受けているという。 島内には長期滞在中の外国人、在住許可を所持している外国人をのぞき、以前は街中や観光地、海岸などにあふれていた外国人の姿はみられなくなった。 国内線航空機への搭乗制限に加えて首都ジャカルタなどの大都市部では「大規模社会制限(PSBB)」という外出・移動の制限、事務所・工場の営業・操業自粛、飲食店の店内飲食禁止などでインドネシア人生活も大きく制約を受ける時期が続いた。 そうしたなか、それでもバリ島は世界的な観光地であることを理由にインドネシアの他の都市とは異なる独自の観光産業復活方針を掲げた。 まず一時全面禁止されていた海岸や観光スポットを7月9日以降、地元バリの住民や島内に滞在している外国人などに解禁した。そして7月31日からはインドネシア国内からの観光客の受け入れに踏み切った。 ===== 現在インドネシア政府は原則として海外からの観光客を受け入れていないため、バリ島に国内旅行で渡航が可能なのはインドネシア人かインドネシア在住の外国人に限定される。さらに国内線航空機でのバリ渡航には搭乗地で事前にコロナウイルス検査を受けることが義務付けられている。 それでもバリ島の人気は高く、8月に入ってからはバリ島のングラライ国際空港には国内線のフライトで1日に2300人から2500人が到着する盛況ぶりが続いているという。 ジャカルタに事務所を構える日系の旅行代理店もこうした国内観光客受け入れに対応するため在宅勤務の日本人駐在員などを対象にした「ジャカルタを脱出してバリのリゾートで海を眺めながらテレワークしませんか」という仕事とバケーションを兼ねた「ワーケーション・プラン」を売り出した(関連記事:「バリ島、コロナ終息待てず完工再開高級リゾートのテレワーク格安プランを提供、ただし国内限定」)。 そして仕上げの第3段階として9月11日から海外観光客の受け入れ開始、となる予定だったのだが、これが延期となって州政府が描いたバリ島観光再生計画は最後の段階で水泡に帰すことになってしまったのだ。 往生際の悪い州知事の言い訳 バリ島への海外観光客受け入れが2021年まで延期となったことについてコステル州知事は地元メディアに対して「中央政府は依然として外国人観光客の受け入れを2021年まで禁止している。この政策に沿って我々も年末までバリ島の玄関口ドアを開けることはできなくなった。バリ島を含めたインドネシアの(コロナウイルス感染の)現状から外国人観光客を迎え入れるには十分に安全ではないこともある」との立場を明らかにした。 しかし9月11日からの外国人観光客受け入れ方針を明らかにした7月31日の時点ですでに明らかになっていたことを理由として羅列しているに過ぎないとの批判もでている。 さらに州知事は「たとえばオーストラリアは2021年まで自国民の海外旅行を禁じている。中国、韓国、日本、欧州各国も自国への海外観光客をまだ受け入れていない。こうした方針は自国民へのコロナ感染の拡大を懸念した安全確保の立場から取られているものだ」と海外の例を挙げて、バリ島の今回の判断を正当化している。 しかしこうした言い分も期待を寄せていたバリ島観光業関係者には「虚しく聞こえるだけ」「観光客の安全を真剣に考えたら早期解禁にはならないだろう」(バリ島ホテル関係者)という。 コステロ州知事は「政府はバリ島の外国人観光客の先行解禁を支持してくれていたが、我々はより警戒して、解禁を急ぐ必要はなくさらに準備することが重要と判断した。バリが失敗すれば世界がインドネシアをみる目が変わってしまいかねないからだ」と往生際の悪い言い訳と責任転嫁のような説明を続けた。 そして最後に、今後は現在続けている国内観光客のさらなる誘致で「バリ島観光業をはじめとする経済の再生に努力したい」と強調した。 ===== 失業者、無給待機者、不動産売り出し 観光業が危機的状況に陥っているバリ島では経済状況も悪化しており、これまでコロナ禍の影響による観光業での失業者は2667人に上り、無給での待機状態となっている人は7万3631人になっているという。 最近はバリ島内で倒産の危機に見舞われているホテルをはじめとする不動産が多く売りに出されているものの、価格をかなり低く設定しても買い手が付かない状態が続いているという。 8月23日現在のインドネシア全体のコロナ感染者数はフィリピンに次いで東南アジア域内で2番目の15万3535人、感染死者数は域内で最悪の6680人となっている。このうちバリ島は感染者4513人、死者42人となっている。死者数はこの1カ月で4人増加しただけだが、感染者数は現在も依然として毎日約100人の増加を記録しており、国内観光客を受け入れてはいるもののまだまだ安全であるとは言い難い状況が続いている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【関連記事】 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・韓国、新型コロナ第2波突入 大規模クラスターの元凶「サラン第一教会」とは何者か ・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。