<トランプ再選に必須の白人キリスト教徒福音派の支持率が、新型コロナウイルス感染症拡大のころから下がり始めた。大統領選への影響は?> 米大統領選に向けた共和党の全国大会が8月24日に開幕したが、初日の柱は宗教だった。トランプ支持者は「宗教を破壊しようとする民主党」と戦う「宗教の自由の擁護者」として、トランプと共和党を褒め称えた。 宗教は、共和党やドナルド・トランプにとって新しいテーマではないが、トランプの再選運動は重要な節目を迎えている。このところ支持基盤の中核を占める白人のキリスト教福音派の支持率が低下しており、トランプ再選の可能性に赤信号が灯っているのだ。 福音派は聖書を文字通りに理解し、信仰する保守的なプロテスタントの総称で、アメリカ国民のおよそ30%前後を占め、最大の宗教勢力と言われている。なかでも白人の福音派は、2016年大統領選におけるトランプの勝利に大きく貢献した。 開会の祈りを捧げたニューヨークの大司教、ティモシー・ドーラン枢機卿はもちろん、次々に演壇に立ったトランプ支持者たちが口にした宗教的な表現は、アメリカ政治に浸透している典型的な「ゴッド・ブレス・アメリカ」といった表現よりもさらに宗教色の強いものだった。 トランプの息子も先頭に立って民主党を攻撃し、それを「信仰と無法の戦い」と呼んだ。 「信仰心の厚い人々は攻撃されている」と、トランプの長男で選挙運動幹部のドナルド・トランプ・ジュニアは語った。「教会に行くのは許されないが、道がデモで大混乱になるのは許される。この選挙は『教会、仕事、学校』と『暴動、略奪、破壊行為』の対立だ」 「神様、トランプにあと4年を」 共和党大会初日の夜に登壇した人々は、宗教はトランプと共和党にとって最優先事項であることをオンラインの視聴者に印象付け、2016年にトランプの勝利を助けた白人福音派に直接訴えかけた。トランプは、神と信仰にめざめた一部の支持者から熱烈な支持を受けた。 議会におけるトランプの擁護者の一人であるジム・ジョーダン下院議員(共和党・オハイオ州選出)は、「民主党は人々を教会に行かせようとせず、デモに送り出そうとする」と語った。 「私は毎晩『神様、彼にもう少し時間を与えてください』と祈る」と、元NFL選手のハーシェル・ウォーカーは演説した。「トランプにあと4年、与えてください」 2016年の大統領選でトランプは白人福音派の票の81% を獲得した。ここ数カの世論調査でも依然、白人福音派の過半数の支持は維持しているものの、数字は落ちている。 4~6月の調査では支持率は6ポイント下落し、白人福音派の支持率は72%となった。別の調査によると、3月のトランプの大統領としての支持率は全体で77%だったが、それが5月末には62%と15%ポイント下落した。同じ世論調査で、白人カトリック教徒の支持率は3月には60%だったが、5月下旬には37%と23ポイント低下した。前回の選挙ではトランプは白人カトリックの票の60%を獲得した。 <参考記事>トランプ、支持基盤のキリスト教福音派雑誌が批判「過激なまで不道徳、強欲、汚職、人種攻撃......」 <参考記事>トランプはもう負けている?共和党大会 ===== 「トランプにとってアメリカのためのビジョンは、礼拝のために教会を訪れることを恥ずかしいと思わず、信仰を表明しても非難されない国にすることだ」と、語るのは、ミズーリ州の男性マーク・マクロスキー。彼は妻と共に、非武装のBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動のデモ参加者に銃を向けた罪で起訴された。 保守系の若者のグループ「ターニングポイントUSA」の26歳のリーダー、チャーリー・カークは、「トランプは、私たちの生活様式、地域、学校、教会、価値観を破壊しようとする暴徒から、私たちの家族、つまり愛する人々を守るために選ばれた」と語った。 「トランプ大統領のアメリカでは、国民は祈りのためにひざまずき、星条旗のために立つ」と、現在トランプ陣営の関係者でドナルト・ジュニアと交際している元FOXニュース司会者キンバリー・ギルフォイルは言う。 白人福音派に対するトランプの支配力が衰え始めたのは、3月の新型コロナウイルスの流行以降だ。それ以来、トランプは宗教問題に焦点を移した。歴史的な教会の前で聖書を掲げた写真を撮影するために、ホワイトハウスの前で平和的に活動していたBLM運動のデモ隊を排除したのもその一例だ。 トランプはまた、感染防止のための自宅待機や休業が続く中、医学の専門家や当局者の助言に反して、教会の再開を認めるよう州に働きかけている。 この世の終わりから救われたい人々 だが、いくら世論調査の数字が悪くなろうと、実際には何も変わらない可能性が高い、と南カリフォルニア大学宗教市民文化センターのリチャード・フローリー専務理事は言う。なぜなら、この手の有権者は、何があっても共和党に投票する可能性が高いからだ。 「福音派が民主党候補に投票するなんて、自然に反している」と、フローリーは言った。「結局のところ、彼らはトランプを支えるだろう。自分たちが聞きたいことを言ってくれるからだ。恐怖はアメリカの福音派の深い部分に訴える。なぜなら彼らは、この世は終わる、我々には救いが必要だ、と考えているからだ」 トランプは2016年大統領選で最終的に白人福音派の81%を獲得したが、選挙前までの白人福音派の支持率は20%ポイントも低かった。また6月のピュー・リサーチの調査によると、白人福音派のトランプ支持率は72%に低下したが、トランプに投票するという人は82%に上っている。 トランプは8月初めにイスラエルとアラブ首長国連邦の歴史的な国交正常化合意を発表した。おかげで、旧約聖書の一節を「神がイスラエルをユダヤ人に与えた」と解釈している白人福音派のトランプへの支持率は、わずかに上がるかもしれない。 フローリーの結論はこうだ。福音派の「一部は(トランプ支持から)脱落するかもしれない」が、「大きな変化はないと思う」。 (翻訳:栗原紀子) 【話題の記事】 ・米ウィスコンシン州、警官が黒人男性に発砲し重体 抗議活動で外出禁止令 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他