11月の米大統領選で民主党候補のバイデン前副大統領が勝利すれば、トランプ大統領のように、「ちびのロケットマン」と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を罵倒したり、「ラブレター」のような親書を交わしたり、派手な首脳会談を開催することはなくなるだろう。 バイデン政権になれば、米国の北朝鮮政策は金正恩氏との個人的なつながりを強調するものではなくなり、同盟関係や実務レベルの外交に重きを置くようになる可能性が高いーーこれがバイデン陣営のアドバイザーや元政府当局者の見立てだ。 トランプ氏はこれまでに、再選されれば「すぐに」北朝鮮とディールをまとめると述べている。 しかし北朝鮮の当局者によると、金氏はトランプ氏とはなおも良好な関係にあるが、北朝鮮側としてはトランプ氏が敗北する場合を見据える必要がある。 昨年は、北朝鮮側はバイデン氏の発言を金氏への侮辱と受け止め、バイデン氏は「狂犬病にかかった犬」で、「たたき殺されるべきだ」と非難した。 バイデン氏は今年1月、北朝鮮側からのそうした脅しに言及した上で、前提となる条件が満たされなければ自分は金氏と会わないと述べた。 トランプ氏と金氏は一時、何カ月も脅しとののしりの応酬に明け暮れ、金氏は金氏でトランプ氏を「狂った老いぼれ」と呼ぶなどした。しかし、2018年にはトランプ氏はシンガポールで、現職米大統領としては初めて米朝首脳会談を実現。首脳会談はその後も2回行われ、トランプ氏が「美しい手紙」と呼んだ親書も交わした。しかし、北朝鮮の核兵器問題を巡る膠着は解決できていない。 バイデン氏のアドバイザーの1人はロイターに、「ラブレターの時代」が終わるのは間違いないと話した。 バイデン氏は米ニューヨーク・タイムズ紙に対し、金氏と個人的な親交を自分は続けるつもりはないと表明。そんな顔合わせをしても「中身はない」とし、朝鮮半島の非核化の進展につながる実際的な戦略が伴う場合だけ、会談は行われるべきだと語った。 ===== 同盟関係重視へ バイデン氏のアドバイザーによると、バイデン氏は北朝鮮との外交の扉を閉めるつもりはない。ただ、交渉実務者の権限を強め、同盟国などとの持続的で協調的な取り組みを通じて北朝鮮に非核化の圧力をかけ、そうした方向への転換を促すという。一方で、現在の米外交政策に欠けている、北朝鮮による人権蹂躙への目配りも重視するとしている。 バイデン氏はオバマ前政権の副大統領。バイデン氏の北朝鮮政策の一部は、オバマ政権時代の「戦略的忍耐」に似たものになる可能性が高い。北朝鮮の孤立化を図り、北朝鮮が挑発してきても外交的な見返りは一切与えないという政策だ。 韓国大統領府の元外交政策高官で、バイデン氏の側近と一緒に仕事をした経験のあるチャン・ホジン氏は「バイデン氏陣営のアドバイザーの多くは、以前の戦略的忍耐チームの出身者だ。彼らは同盟関係を重視し、北朝鮮政策を含め外交政策では正統的なアプローチを取る」と指摘する。バイデン政権になれば北朝鮮は、トランプ氏が突然に持ち出すような軍事行動の懸念に直面しないが、代わって「ねじを巻かれる」可能性が高いという。 一方、バイデン氏が同盟国と緊密に協調していくと約束していることは、韓国の文在寅大統領にとっては戦略が複雑化する可能性がある。文氏は北朝鮮の関与強化と対北朝鮮制裁の緩和に向けて圧力をかける一方、北朝鮮の人権問題は軽視しているからだ。韓国の牙山政策研究所のジェームズ・キム主任研究員は、バイデン氏の戦略は「韓国との不協和音をもたらしかねない」と指摘した。 北朝鮮は挑発行動か バイデン氏が副大統領だった時代に比べ、金氏は軍事能力を飛躍的に発展させている。これまでで最大級の核爆弾や、米国の全域を射程に収めるミサイルの実験にも成功している。 かつて北朝鮮との交渉を担当したエバンス・リビア氏によると、バイデン政権になれば軍備管理派の意見が強まる可能性が高く、彼らは北朝鮮が今や核兵器の保有国になっているとの考えを受け入れるときだと主張するだろうという。ただ、そうしたアプローチを取れば、実質的に北朝鮮が長く目標としてきた核兵器国としての地位を固めることを許すことになり、バイデン氏が強硬姿勢を強めることが確実な以上、北朝鮮側からの反撃を誘う可能性が高いとも話す。 リビア氏は「バイデン氏が11月に勝てば、北朝鮮は年内に劇的な措置に踏み切ることが予想できる。恐らくは核実験か大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験で、それによってバイデン新政権が現行路線から決別しないよう警告してくる」とした。 元中央情報局(CIA)分析官で、現在はブルッキングス研究所に勤務するジュン・パク氏は、バイデン氏陣営に非公式に助言を与える立場。同氏は、どんな北朝鮮側の挑発もバイデン政権にとっては利用できるとの見方だ。「核実験であれICBMの実験であれ、バイデン新政権にとっては、金正恩体制の脅威に脚光を当て、一貫した北朝鮮政策に基づいて米国が同盟国とコンセンサスや合意醸成を図れるチャンスになる」。つまり、「絶好の危機」をみすみす無駄にするな、ということだという。[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・米ウィスコンシン州、警官が黒人男性に発砲し重体 抗議活動で外出禁止令 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他