<少々異なる点もあるが、「残念ながらかなり近い」と当の記者が語る『オフィシャル・シークレット』。告発の行方は> アメリカの現職大統領が自分の政治的利益のために他国の政府に圧力をかけたとされ、弾劾裁判が行われた今にふさわしい映画かもしれない。 舞台は2003年。イラク戦争開戦の直前に、イギリスの諜報機関である政府通信本部(GCHQ)で通訳として働いていたキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)が、機密情報をマスコミにリークした。 それは、イラク侵攻に有利な国連安保理決議を引き出すために、米国家安全保障局(NSA)がGCHQに対し、違法な工作活動を要請するメールだった。英オブザーバー紙は記者のマーティン・ブライト(マット・スミス)を中心に、1面でこのスクープを報じた。 GCHQ内で情報漏洩の調査が始まり、同僚たちが厳しい取り調べを受けたため、ガンは自分が内部告発者だと名乗り出た。彼女は逮捕され、公務機密保護法違反で起訴された。 彼女の弁護士ベン・エマーソン(レイフ・ファインズ)は政府に対し、法務長官がイラク戦争を合法とした見解について法廷で追及すると迫った。裁判は開廷したものの、起訴は突然、取り下げられた。 『オフィシャル・シークレット』は基本的に事実をなぞっているが、実話を基にした他の映画と同様、いくつか脚色がある。事実と創作を区別するためにも、ガンとブライト本人、そしてギャビン・フッド監督に話を聞いた。 フェイクニュース攻撃 【以下、ネタバレあり】 「言うまでもなく、1年に及んだ出来事を2時間に圧縮している。そのためにインパクトのある場面をいくつか選んだ」と、フッドは語る。 映画の中でガンが経験する出来事の多くは、実際よりも時間を圧縮して描かれている。例えば、ガンがトルコ出身の夫を移民収容施設から連れ出そうと奔走するシーンは、現実には3日間、夫がどこにいるのか分からなかった。 「強制送還のような攻撃は、後々まで私のストレスレベルを跳ね上げた」と、ガンは言う。ただし、自分がメールを印刷したメモが新聞の1面に掲載されたときに感じた不安とは、比べものにならない。「あのメモは、私の人生にとって最大のストレスだった」 ガンと実際に話をして、映画の最後に登場する当時の映像を見ると、ナイトレイが彼女の外見や話し方をまねしていないことは明らかだ。 「髪をブロンドにするか、眼鏡を掛けるか、特殊メークを使うか検討した」と、フッドは振り返る。「でも、あるときキーラが言ったんだ......今回は飾らない、メークも流行のおしゃれもないキーラ・ナイトレイで臨みたい。私のデスクにあのメールが届いたら、私はどう思うだろうか......と」 【関連記事】イラク戦争はどうアメリカを弱らせたか 【関連記事】戦争映画『ハート・ロッカー』の幻想 ===== ガン(キーラ・ナイトレイ)とブライト(マット・スミス)の告発の行方は NICK WALL ©OFFICIAL SECRETS HOLDINGS, LLC 映画の重要なシーンの1つで、ある単純なミスから、ガンとブライトは危機に直面する。オブザーバー紙の編集アシスタントがメモを転記した際に、アメリカ式のつづりをイギリス式に書いてしまったのだ。米保守系政治ニュースサイトのドラッジ・リポートはこれをネタに、メモの信憑性を攻撃する。映画は事実と少々異なる点もあるが、「残念ながらかなり近い」と、ブライトは言う。「その気の毒な女性は実在する。入社してまだ2週間だったから、彼女にとって本当に恐ろしい出来事だった。今では『フェイクニュース』と呼ばれるものとして、ドラッジ・リポートから攻撃されたことも事実だ」 もっとも、映画ほど劇的な展開ではなかった。映画では、ブライトと編集長が編集室にいるときにこのミスが発覚し、国外メディアのインタビュー取材が相次いで中止となる。しかし実際は、「基本的に電話でのやりとりだった。(記事が掲載された)日曜版の編集部は、日曜日と月曜日が休みだった」 ドラマを盛り上げるために小さな装飾はあるが、『オフィシャル・シークレット』は「いかなる形でも真実を勝手に書き換えて」はいないと、ブライトは語る。 「ギャビンは本当に大変だったと思う」と、ガンは言う。「普通の表現方法とは違っていたから。彼が私に話を聞いていて、最初にこれはかなり難しいと気が付いたのは、多くのことが私の頭の中だけにあったと分かったとき。私が考えて、私が感じたことばかりだった。彼は『どうすればこれを映像にできるんだ?』と考え続けた」 法廷で語れなかったこと 「問題のメールを私たちが読んで議論するシーンは、実際にはなかった。(実際は)私はメールを見てすぐに思ったの。『何てこと、ひど過ぎる』。ギャビンが(話し合いのシーンを)追加したのは、私の思考プロセスを共有するためでしょう」 クライマックスの演出も難題だった。ガンは徹底的に追い込まれながら、結局、起訴は何の前触れもなく取り下げられた。 「フィクションとして描くなら、最後の法廷の場面はもっと長くなるはずだ。でも、現実の意外なほどあっけない結末にも、みぞおちにこぶしを食らうような重みがある」と、フッドは言う。「ただし、彼女とベンは、正式な記録が残る場で自分たちの無実を証明する機会を与えられなかった。ここから先はジャーナリズムの問題だ。起訴を取り下げた本当の理由を法務長官と検察幹部に直接、問いただすつもりがあるのか、と」 OFFICIAL SECRETS 『オフィシャル・シークレット』 監督╱ギャビン・フッド 主演╱キーラ・ナイトレイ、マット・スミス 日本公開は8月28日 <本誌2020年9月1日号掲載> 【関連記事】イラク戦争はどうアメリカを弱らせたか 【関連記事】戦争映画『ハート・ロッカー』の幻想 【話題の記事】 ・12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる ・介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他 =====