<大統領選への介入疑惑があったロシアと比べても中国のスパイ能力は「別格」だと防諜当局者たちが証言> アメリカの当局者たちは本誌に対して、中国こそがアメリカのスパイ対策上の最大のリスクだと指摘し続けてきた。前例のないその脅威は、企業や団体の専用回線網への大規模な侵入など、大統領選挙への介入をもはるかに超えるレベルに達していると。 FBIは本誌に宛てたコメントで、「中国ほど、アメリカの思想や技術革新、経済の安定に対して幅広い、包括的な脅威をもたらしている国はない」と指摘した。「さまざまな形でもたらされているその脅威は、FBIの防諜活動における最優先事項だ」 米国家情報長官室も同様の分析をしており、本誌への回答でこう述べた。「中国は長年、防諜コミュニティーが最も注目する存在であり続けている」 アメリカでは、ロシア政府が2016年の大統領選挙の結果に影響を及ぼそうと画策したことの衝撃が今も消えておらず、2020年の大統領選挙が本格化するなか、外国勢力による違法な選挙介入の兆候がないか目を光らせ、警戒を強めている。だが諜報コミュニティーにとって、国際舞台でアメリカの最大の戦略的ライバルと見なされつつある中国の脅威は別格で、彼らは中国について、これまで以上に注意すべきだと警鐘を鳴らしている。 標的は民間企業の監視下にある情報や技術 FBIのクリストファー・レイ長官は7月、FBIが「約10時間ごとに、中国関連の新たな防諜活動を開始している」ことを明らかにした。2月には、FBIが捜査中の(中国による)スパイ疑惑が約1000件にものぼっていると語った。 中国は「政府の総力」を挙げ、大規模なスパイ活動をしてきているとFBIは本誌に述べた。さまざまな技術を駆使してあらゆる形の情報を入手し、中国共産党の目標を前進させることがその目的だ。 「中国は国家安全保障上の優先課題を後押しするために、サイバースパイ活動を利用し続けており、アメリカや同盟諸国の政府、米企業などをその標的にしている」とFBIは主張した。「アメリカの民間産業を標的としたサイバースパイ活動で最も顕著なのは、防衛関連企業や、世界中の民間部門ネットワークを支えているIT・通信会社を標的としたものだ」 民間部門のネットワークには多国籍企業や研究機関、学術機関も含まれており、こうした組織は政府のセキュリティで守られていない。 「防諜とは、つまり窃盗を防ぐことだ」と、かつてFBI防諜部門の責任者を務めたスコット・オルソンは本誌に語った。「重要なもの全てを政府が管理しているならば、窃盗を防ぐのはとても簡単だ。だが今は、政府が全てを管理している訳ではない。重要なものが、民間企業の監視下にある」 <参考記事>FBI:中国は米大学にスパイを送り込んでいる <参考記事>アメリカの産業スパイ事件、9割に中国が関与 ===== 中国では、重要産業の多くに政府が関与しており、国にとってきわめて重要な情報は、国の支援の下で守られるようになっている。政府は諸外国のデータベースの一括管理も行っており、年々ハイテク化が進む世界最大の軍である人民解放軍のツールを利用することもある。 「中国は2015年以降、軍によるサイバー攻撃とスパイ要員を統合することで、サイバー攻撃能力を強化している」とFBIは本誌に語った。 中国の習近平国家出席は2015年、人民解放軍の大規模な再編を命令。これにはサイバー攻撃などを担当する戦略支援部隊の創設も含まれた。FBI防諜部門の元アシスタント・ディレクターであるフランク・フィグリッツィは本誌に、人民解放軍は全大隊を動員してデータ収集を行ってきた(大隊は最大1000人の兵士が所属する複数の中隊によって構成されている)と語った。 フィグリッツィは、2020年大統領選を外国勢力による干渉から守る上でFBIが重点を置いているのはロシアだが、その理由は中国の能力が不十分だからではないと指摘。ロシア政府と中国政府では目指すところが違うからであり、一部の政治評論家は両者を「誤った方法で対等に扱っている」と述べた。 支配したい中国、ぶち壊したいロシア 「もしも中国が本気でアメリカの選挙に干渉しようと決意すれば、ロシアとは別格の脅威になる。投入できる資源の量が違うからだ」とフィグリッツィは言い、ロシアは「厚かましい、積極的なアプローチ」を追求したが、「巧妙さと長期的な展望においては中国が上手だ」と語った。 FBIにとって、ロシアと中国はそれぞれ異なる目標を持つ敵だ。 「中国はアメリカを支配したいと考え、ロシアはアメリカをぶち壊したいと考えているのが、一つの違いだ」とフィグリッツィは指摘した。「そして中国は長期的な視野の下に資源や資金を投じ、計画を立てているのに対して、ロシアはチャンスさえあればいつでも奇襲攻撃を仕掛けて、私たちを痛めつけようと狙っている」 諜報当局のある幹部(匿名)は、ロシア政府の脅威の規模について、「多くの議員が『中国の脅威』に注目しているが、ロシア政府の触手は西洋社会のさまざまな側面に入り込んでいる」と語った。「ロシアは優れた偽情報キャンペーンを介して、情報戦争に勝利しつつある」 しかし中国にとって米政府との対峙とは、まず第一にアメリカのグローバル覇権に挑戦することを意味する。 <参考記事>FBI:中国は米大学にスパイを送り込んでいる <参考記事>アメリカの産業スパイ事件、9割に中国が関与 ===== 「アメリカは、軍事力で支配的なだけでなく科学技術でも支配的な力を持っている」と、ワシントンの研究機関「ジェームズタウン財団」の非常勤フェロー、マット・ブラジルは本誌取材に語った。「インターネットから生物学の研究、人工知能まで、アメリカがすべての標準だ」 中国はアメリカをはじめ世界各国との良好な経済関係を維持しながら、地政学的なパワーバランスを変化させようとしている、とブラジルは言う。 「もしあなたが中国で、利害関係が対立するアメリカが中国周辺の国々を同盟国で固めようとしていれば、中国は単にアメリカと競争するだけでなく、世界各国が先進分野で中国に従い始めるように流れを変えなくてはならない」 中国の究極の目標は? 中国の政府高官は、政府方針は純粋に国防のためで、国家間の相互協調に基づいていると自己弁護する。外務省報道官の趙立堅(チャオ・リーチェン)は26日の記者会見で、「アメリカは同じ事を自身に向かって言えるのか」とたずねた。 「世界中に数百カ所の軍事基地を持つのは一体誰か? イラクやリビア、シリアなどの国々に対して違法な戦争や軍事作戦を仕掛けたり、遠方の海域に艦船や航空機を派遣して軍事行動を広げているのは誰か?」と問い掛けた。「冷戦下の思考で行動し、国際条約や国際組織から脱退し、こん棒や拳を狂ったように振り上げているのは誰か?」 「アメリカの政治家が事実を直視するならば、その質問の答えは簡単に分かる」と、趙は続けた。 しかし米国防総省情報局(DIA)の元副長官ダグラス・ワイズは、中国が台湾や香港の統治を主な目標として掲げる一方で、中国の究極の目標はかつて世界の頂点に君臨した歴史上の立場を取り戻すことにあると指摘する。 「中国が欲しているのは、アメリカに対する競争上の優位だ。情報、経済、技術、イノベーション、国防、政策のすべての分野で」 アメリカの情報コミュニティーは、大統領選への短期的な脅威と考えられているロシアに注目している。その一方で、現役または引退した情報担当は中国を警戒している。 「中国の脅威の大きさ、領域の広さにアメリカが対抗するには、膨大な防諜活動のリソースが必要だ」と、F B Iに関する新著が来年発刊される予定のフィリウッツィは言う。「中国の脅威に対抗するのは、大規模な洪水を方向転換させようとするようなもの。どれだけ多くのリソースをつぎ込んでも、結局は水があふれて被害が出てしまうだろう」 【話題の記事】 ・在日ウイグル人をスパイ勧誘する中国情報機関の「手口」 ・中国が台湾総統選に干渉──元スパイの告白で「メディア操作」疑惑も浮上 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他