<アメリカの対中強硬派は文化・教育面でも中国との関係を断とうとしているが、若い世代との接点を失うことは賢明でも生産的でもない。その理由とは> 親密な関係の解消を「デカップリング」と呼ぶ。現在の米中両国の地政学的バトルを形容するにふさわしい言葉だが、トランプ米大統領と政権内の強硬派は一歩進めて、この戦略で中国パワーをそぐつもりらしい。 デカップリングの始まりは一昨年来の貿易戦争だ。これで両国間の貿易は大幅に縮小した。今は情報通信技術が主戦場で、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)などの中国企業を次々に排除しようとしている。アメリカ市場に上場する中国企業に対し、過去の監査記録を開示しなければ上場を廃止するとの意向も示しており、金融のデカップリングも始まっている。 経済面の関係遮断で中国を封じ込められる保証はない。が、いちおう理屈は通る。中国がアメリカとの経済関係で潤っているのは事実だから、それを断てば中国経済の成長は抑えられるだろう。 だが不幸にして、対中強硬派は文化や教育面の関係も断とうとしている。1月には議会共和党の圧力で、四半世紀来の平和部隊(日本の青年海外協力隊に相当)の派遣が中止になった。7月には中国による香港民主派に対する弾圧強化への報復として、フルブライト奨学生の招聘が中止された。アメリカの大学院で科学技術を学びたい中国人学生の入国を禁じる法案も、議会に提出されている。 ジャーナリズムも断ち切られた。今年2月、米紙ウォールストリート・ジャーナルが中国は「アジアの病人」だとする論評を載せると、中国は同紙の特派員3人を国外追放した。するとアメリカは米国内にいる中国メディアの従業員60人に国外退去を命令。対抗措置として、中国も米主要3紙の米国人職員のほぼ全員を追放し、これら3紙の中国における取材活動を事実上不可能にした。 だが文化や教育などの面で中国との関係を断つのは、賢明でも生産的でもない。それではアメリカ文化の流入をイデオロギー的侵略と見なしてきた中国政府の対応と同じレベルになってしまう。 イデオロギー戦の武器を放棄 平和部隊やフルブライト奨学生のような制度がなければ、アメリカは中国の一般市民、とりわけ若い世代との接点を失ってしまう。こうした仕組みを通じて、アメリカは自国の言語や文化を中国人に伝え、中国政府による反米プロパガンダの効果を相殺してきたのだ。その廃止は、イデオロギー戦における武装解除に等しい。 【関連記事】「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓 【関連記事】コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない ===== 米紙特派員3人の追放に対し、60人の中国人ジャーナリストを国外追放したのは過剰反応だった。厄介なアメリカ人記者を追放する絶好の口実を、中国側に与えることになったからだ。中国内で取材する有能なアメリカ人ジャーナリストがいなくなれば、アメリカの政治家は中国の内情を探りにくくなるはずだ。 それだけではない。科学技術系の中国人学生がアメリカで博士号を目指す道を閉ざされたら、彼らはアメリカ以外の先進諸国で研鑽を積み、その後はおそらく母国に戻って働くことになるだろう。 今までは、アメリカで博士号を取得した中国人学生の約90%は、少なくとも10年間はアメリカで働いていた。こんなに長くアメリカのために働いてくれる外国人留学生は、ほかにいないのだ。かくしてアメリカでは、せっかく育てた頭脳の流出が起き、中国は育ててもらった頭脳の逆輸入で恩恵を受けることになる。 米中関係は今や崩壊の瀬戸際だ。経済面のデカップリングは既定事実で、このままだと文化面の関係断絶も時間の問題。これは悲劇だ。そして敗者はアメリカだ。 ©Project Syndicate <2020年9月1日号掲載> 【関連記事】「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓 【関連記事】コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない 【話題の記事】 ・12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる ・介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他