<国際的に評価の高い日本人監督が、次回作では外国映画の現場に飛び込むという> 新型コロナ・ウイルスの世界的なパンデミック以降の数カ月間、目にする映画関係の報道内容といえば、「公開延期や撮影中止」「映画館の売り上げ最低を記録する」など暗いニュースばかりだった。しかし先週、久々に日韓映画界の明るい未来を照らすかのようなビックニュースが飛び込んできた。 映画『誰も知らない』『海街diary』など数々の素晴らしい作品を世に生み出し、2013年カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『そして父になる』や、2018年に同じくカンヌで最高賞を受賞した『万引き家族』などを手掛け世界からも人気の高い是枝裕和監督。カンヌ受賞後は、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の日仏合作映画を手掛けたが、次回作は来年韓国で映画を撮るというのだ。 発表された作品名は、まだ仮題だが『브로커(ブローカー)』という。約5年前から韓国側の制作陣らとオリジナル脚本の企画開発が行われてきた。現在、監督がシナリオ作業中だそうだ。 赤ちゃんポストをめぐる人びとを描く 是枝監督の作品の大きなテーマといえば家族の形である。今回の『ブローカー』(仮)は、赤ちゃんを育てることが出来ない人が、匿名でこっそりと赤ちゃんを置いていくことができる、いわゆる「赤ちゃんポスト」を通じ繋がっていく人たちを描いているという。 この報道は、韓国でもかなり大きく報道されている。日本人監督の起用もそうだが、特にそのキャストの豪華さが注目を集めているようだ。制作決定の第一報と共に公開されたメインとなる俳優は、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナの3名である。ソン・ガンホとカン・ドンウォンは、2010年に韓国映画『義兄弟 SECRET REUNION』で素晴らしいコンビネーションを見せて以来、久々の競演に注目が集まる。ペ・ドゥナは、2009年の是枝監督作品『空気人形』に主演していたため気心も知れた仲だろう。 韓国映画マニアでなくても、映画好きならこの3人の名前や顔を見たことがあるかもしれない。と、いうのもソン・ガンホは言わずと知れた映画『パラサイト 半地下の家族』の主人公であり、カン・ドンウォンは、今年のカンヌ映画祭に招待されていた映画『半島』(『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編)の主人公だ。カンヌ映画祭がもし開催されていたら、これまで以上に世界から注目を集めていたであろう。 ペ・ドゥナも世界各国から出演のラブコールを受けて、これまで『空気人形』の他にも日本映画『リンダ リンダ リンダ』、アメリカ映画『クラウド アトラス』『ジュピター』、アメリカドラマ『センス8』等に出演する韓国を代表する国際派女優である。 今回の映画『ブローカー』は、韓国の映画会社ジプが制作し、投資・配給は韓国映画業界ナンバーワンのCJENMが行う。これまで多かった日韓合作とは異なり、韓国映画に日本人監督が起用されたという形だ。今一番世界に近い韓国俳優と、世界から認められた監督をそろえた。そこには、今年の2月映画『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー4冠受賞で、一気にハリウッドへの足がかりを掴んだCJENMが、ここでさらなる展開を見せようという強い意思がうかがえる。 ===== 極めて異例な韓国映画での外国人監督起用 これまで、外国人監督を起用した韓国映画は他に何があるだろうか。オダギリジョーや、國村隼、上野樹里、リーアム・ニーソンなど、完全なる韓国映画に外国人俳優の起用は数あれど、監督のみの起用は珍しい。 アニメーション映画『さよなら、ティラノ』は、日本人の静野孔文氏が監督を務め、企画や投資、開発を韓国が行った。しかし、アニメ製作は手塚プロが担当し、純制作資金49億ウォンのうち85%が韓国、15%を中国が出資しているため、これは日中韓合作の要素が強い。 『キムチを売る女』で有名な中国出身のチャン・リュル監督も、韓国で多くの作品を撮っている。しかし、監督は韓国系中国人であり、インタビューでは韓国語を話し、延世大学で教授をするなど生活の基盤が韓国にあるようで、是枝監督のケースとは違っている。 では逆に、スタッフキャストのほとんどが日本人の作品で、韓国人が監督を努めた作品と言えば、映画『彼岸島』のキム・テギュン監督が思い浮かぶ。また、映画『サヨナライツカ』もイ・ジェハン監督も日本制作で日本人俳優起用の中メガホンを取ったが、こちらは韓国人スタッフもかなり参加していたため、どちらかと言うと合作作品の要素が強い。 日韓を問わず、合作映画の現場ではさまざまなトラブルが発生する。同じ国同士のスタッフでさえ衝突が起き、ただでさえストレスの溜まる現場で、言葉の意思疎通がうまくできない問題は大きい。また、日韓でいえば、似ているとはいえ少しずつ異なる撮影システムに、意見がぶつかり合うことが多い。 そして、映画の現場や専門用語に精通した通訳/シナリオ翻訳者なども数人採用しなくてはならないため、費用問題も付きまとう。 韓国映画であるための必須条件とは? さらに、意外と知られていないのが、韓国で映画を映画として認めてもらうために必ず通過しなければならない映像物等級審議委員会による「等級審議」の問題もある。 韓国では国内映画を守るため、国内で上映できる外国映画の本数を制限するスクリーン・クオータ制が取り入れられているのは有名だが、等級審議でも外国映画との差別化がされ、10分単位の審議費用が約2倍違うなど、韓国映画はかなり優遇される。 では、合作や今回のように監督だけ外国人のような場合、韓国映画と外国映画の線引きはどうやってされているかというと、実は点数制で決められている。主演俳優何人が韓国人00点/監督が韓国人00点/原作00点のように採点し、ある一定の点数を超えると韓国映画と認定される。 今回のような大作ではそこまで痛手にはならないが、少しでも制作費を押さえたい低予算の作品などでは、まだまだ合作に手が出しにくいのが現実だろう。 今年は『パラサイト 半地下の家族』と、ネットフリックスによる韓国ドラマの再ブームなどで、韓国エンタメの力を世界に見せつけた年になった。これまで韓国作品に興味がなく、触れたことなかった人たちも、これを機会に初めて観てみたというケースも多いのではないだろうか。 これまで共通点の無かった初対面の韓国人と会話をする時「ああ、そういえば最近映画館で『パラサイト 半地下の家族』観たよ」「『梨泰院クラス』見たよ。あれ面白いね」と、話のきっかけづくりができる。それが作品の力だと信じている。 コロナ禍で先が見えない状況のなか、撮影準備を進めるのは通常より何十倍も苦労が伴うかもしれないが、この映画『ブローカー』も日韓双方の人たちが「あれ、良かったね」と話が弾むような素晴らしい作品になることを期待している。