<「直で話すことでしか人のつながりは生まれない」「接待費を削った会社は成長を止めてしまう危険性がある」と、日本ロレアルの「最高デジタル責任者」などを歴任した注目のマーケターは言う。その真意とは?> 日本ロレアル初のCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)、インスタグラム初代日本事業責任者などを務め、デジタル時代のトップマーケターとして知られる長瀬次英氏。 2019年には独立し、新たなビジネスを始めると同時に、さまざまな企業・事業に参画し活躍を続けている。 新型コロナウイルスの感染拡大以前から、企業の飲み会や接待について、各媒体や講演で繰り返しポジティブなコメントをし、話題になっていた。自分自身を「誰よりもアナログなCDO」と呼んだりもしている。 なぜ飲み会や接待を積極的にする会社は伸びるのか。それはアフターコロナの時代でも通用するのか。 このたび、初の著書『マーケティング・ビッグバン――インフルエンスは「熱量」で起こす』(CCCメディアハウス)を出版し、その豊富な経験をもとに新時代のマーケティング・コンセプトを打ち出した長瀬氏に話を聞いた。 長瀬氏曰く、海外でニッポン的「飲みニケーション」への関心が高まっているという実情もあるという――。 ※インタビューは全2回。1回目はこちら: 「日本人にアルゴリズムは通用しない」元インスタグラム・長瀬次英が語る日本のSNS 外資系企業の代表とか日本初のCDOとか、華やかな経歴のせいで誤解されやすいのですが、僕のキャリアの出発点はKDD(現在のKDDI)。現在はどうか分かりませんが、当時の新入社員は誰よりも早く来てオフィスの掃除をして、上司のデスクを拭いておく。朝はなぜか体操から始まって、勤務中は基本的に上司やチームの空気を読んで行動するのが良しとされていました。さらに業務が終わったら、深夜まで取引先やチームで飲み会なんてザラ。今の時代にそぐわない慣習・仕事の進め方かもしれませんが、こうした経験はマーケターとして、さまざまな企業から仕事の依頼をいただくようになった今でも、非常に役に立っています。まず日本企業の人と仕事をするとき、どんな文化の中で彼らが仕事をしているか自分も体験しているので、共感しやすい。何より、現在の日本企業を動かしているオジサンたちも同じような経験を積んで偉くなったので、僕の新人時代の話をすると、一気に距離が縮まる(笑)。どちらもビジネスにおいて、とても大切ですね。 KDDの後、長瀬氏は世界最古の広告会社ジェイ・ウォルター・トンプソン、ユニリーバなどを経て、インスタグラムの初代日本事業責任者に就任。いずれも日本企業の文化とは程遠い印象があるが、上司や部下、同僚とのコミュニケーションの取り方においてさほど差はないのだという。 【関連記事】「酒に酔うと外国語がうまくなる」:欧州の研究者らが実験で確認 ===== 日本で働く多くの人が誤解していますが、実は海外のほうが上司と飲みに行く機会が多いし、ゴマすりもえげつない。なぜかというと、外資の場合、直属の上司が人事権を持っているからです。採用や評価はもちろん、解雇さえも上司の権限で行えてしまう。なかなかシビアですよね。そして、上司以外と飲みに行く機会も非常に多い。僕が在籍していたフェイスブックやインスタグラムでも、しょっちゅう飲み会を開催していました。これは、前回(「日本人にアルゴリズムは通用しない」元インスタグラム・長瀬次英が語る日本のSNS)言及したインフルエンサーたちにも通じますが、「直で話すことでしか人と人とのつながりは生まれない」ということを理解しているからでしょうね。実際、フェイスブックはユーザーを会社に呼んで、直接会ってヒアリングする機会を設けています。デジタル上でユーザー情報は手に入るはずなのに、リアルの大切さを知っているからこその施策です。こうした経験から、僕自身も社内外問わず、さまざまな人と会って話すことを大事にしてきました。 長瀬氏はその後、インスタグラム・ジャパンが軌道に乗ったタイミングで日本ロレアルに電撃移籍。 同社初のCDO、いわば「最高デジタル責任者」としてデジタル施策全般を牽引し、そのデジタルシフト改革に大きく貢献した。国内でCDOという役職ができたのは日本ロレアルが初めてで、日本初のCDOでもあったという。 そして多岐に渡る経験とキャリアが縁になり、EXILEをはじめとする人気アーティストが所属するエンターテインメント企業、LDHジャパンの執行役員兼CDOに就任。その後2019年に独立を果たした。 そんな、さまざまな企業を渡り歩き、多くの業務を執り行ってきた長瀬氏ならではの「とにかく会って話をする」ことを大切にしているこんなエピソードがある。 僕は転職した際、どの会社・どの業務においても、社員全員と会うことを心掛けてきました。ほとんどの人は効率を考えて、一斉メールで入社の挨拶をしてそれで終わりだし、大きい会社だと、業務で関わる人以外、社内の同僚の顔さえ知らないなんてよく聞きますよね。でも僕は新しい会社に入ったら、社員みんなのことを知りたいと思うし、僕のことも知ってほしいと思う。だから、直接会う機会を積極的に作りました。さすがに大きな会社だと全社員と1対1で会うのは難しいので、部署ごとにランチに行ったり、飲みに行ったり。とにかく全員とコミュニケーションをとりました。結果、いろいろな人と関係性ができて、その後のやりとりがスムーズになる。何より社内に自分の仲間が増えることも大きいですよね。おかげ様で、会社を辞めた後も、みんなと非常に良好な関係が続いています。 飲み会の重要性は社内だけにとどまらない。むしろコロナ危機の今こそ、社外の飲み会や接待が企業の成長を促すための「マーケティング」の一部だという。飲み会や接待もマーケティングとして捉える......マーケター独自の視点だ。 【関連記事】「マルチタスク」など存在しない、効率がいいのは一つのタスクに集中する「ワンタスク」 ===== 現在のマーケティングの役割とは「顧客を知ること」「顧客により近づくこと」です。これを接待に置き換えると、取引先は「顧客」です。もっと相手のことを知り、相手に近づき、関係性を築く。接待であれば、食事やゴルフなど、相手の好み通りにセッティングできれば、必ず満足してもらえる。これって、完璧な「カスタマーリレーション」ではないでしょうか。さらに次の予定も決められたら、関係性がどんどん深まっていく。そうすれば、仕事で何か問題が生じたときにはすぐに対処してもらえるだろうし、接待の中で新たな提案ができるかもしれません。もちろん、こんな状況下なので誘い方は慎重に進める必要がありますし、マーケティングの観点からも「顧客」が嫌がる施策を行うべきではありません。だからこそ、取引先と直接会って話ができる貴重な機会をたくさん設けられる会社が今後伸びていくでしょう。コロナ危機を受けて経費削減のために接待費を削った会社は、そういった機会損失だけでなく、社外のネットワークを作れず、会社自体の成長を止めてしまう危険さえあります。 しかし今の時代、社内外の「飲み会」は誘いづらく、「接待」という言葉自体に拒否反応を起こす人も少なくない。企業としても悩ましいところではないだろうか。 確かにそうですよね。だから、クライアントからそういった相談を受けたときは、「『飲み会』や『接待』ではなく、新たに『ソーシャライジング』と呼ぶことにしよう」と答えるようにしています(笑)。真面目な話、今の日本は、そういった後ろめたいイメージで「飲み会」や「接待」の悪い部分ばかりがクローズアップされている印象がある。でも、昭和的な日本のビジネスの進め方には優れた点がかなりあります。実際、海外でもフェイスブックを筆頭に、さかんに飲み会を開いたり、接待に対して寛容な会社は、こんな状況でも底力があるなと感じますね。 自粛ムードが続くなか、なかなか外で飲む気になれないという意見も多い。だが、飲みにいくだけが接待ではないと長瀬氏は語る。 繰り返しになってしまいますが、飲み会や接待の目的は「相手を知ること」「相手により近づくこと」です。もちろん、一緒に飲み会やゴルフに行くことができるのが理想ですが、それ以外の方法なんていくらでもあります。ランチでもいいし、手土産を持って行ってもいい。オンラインゲームに誘うのもいいかもしれない。相手に合わせて、直接会う機会と会いたいと思ってもらえるシーンを作っていくことが大切です。そして、コロナ危機が去った後、気軽に飲みに行ける関係性ができていれば最高ですね。 ※インタビューは全2回。1回目はこちら: 「日本人にアルゴリズムは通用しない」元インスタグラム・長瀬次英が語る日本のSNS 『マーケティング・ビッグバン ――インフルエンスは「熱量」で起こす』 長瀬次英 著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) 【話題の記事】 ・手術されるインターセックスの子供たち トップモデルが壮絶な告白 ・日本一「日本」を伝える中国SNSの女神「林萍在日本」 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。