<バイデンの良識的な主張は、自ら危機を作り出して強いリーダーを演じるトランプにかなわない?> アメリカ各地で警察による暴力や黒人差別への抗議デモが激しさを増すなか、ドナルド・トランプ米大統領と民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領がいずれも「法と秩序」の重要性を強調している。だが主張の中身は全く別物だ。 バイデンは8月31日に行った演説の中で、市民による暴動が起きたのはトランプのせいだと主張した。 「トランプは、アメリカ人を恐怖に陥れることで自分を売り込んでいる」と、バイデンはフィラデルフィアで行った演説で述べた。「彼は『法と秩序』の人間などではない。彼は(暴力の)解決策ではなく問題の一部だ」 一方トランプは、警察の暴力に端を発したデモと一部のデモ参加者による略奪や破壊行為を、バイデンや民主党指導部のせいだとする。 トランプ陣営のアドバイザーを務めるジェイソン・ミラーは記者団に対し、「バイデンはずっと隠れていたくせに、まるで何カ月も前から暴力反対を訴えていたような顔をしている」と批判。「警察組織がこぞってジョー・バイデンよりもトランプ大統領の方を支持しているのは道理だ」 トランプ支持者が民兵に トランプ陣営は(2016年の大統領選に向けた選挙活動の時と同じように)、トランプを「法と秩序」の候補者として印象づけたい考えだ。そのため各都市や州に対して、デモの鎮圧にあたっては連邦軍の派遣も辞さないと繰り返してきた。 「ジョー・バイデンが率いるアメリカでは、アメリカ人は安全に暮らせない」とミラーは語った。 そのバイデンは、自分こそが国を団結させ、新型コロナウイルス危機と経済危機からの再建ができる大統領候補だと主張する。 「ドナルド・トランプが再選されたらアメリカの暴力が減る、と本気で信じている人などいないだろう」とバイデンは述べた。「私たちは幾つもの危機に直面している。ドナルド・トランプが大きくしている危機だ」 各地でデモが激しさを増すなか、多くの衝突が起きている。バイデンは、自警団や民兵を自称するトランプ支持者者たちが街頭でデモ参加者と衝突し、多くの場合それで死者が出ていると指摘。トランプは彼らを放任していると批判した。 「トランプは、法と秩序という言葉を口にすれば自分が強く見えると思っているのかもしれない」とバイデンは言った。「だが自分の支持者に対して、民兵として活動するのをやめるように言えないのは、彼の弱さだ」 <参考記事>トランプの岩盤支持層「白人キリスト教福音派」もトランプ離れ <参考記事>米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想 ===== バイデンは新型コロナウイルスの感染が最初に急拡大した春以降、選挙活動をほぼ行わない時期が続いていた。先週の共和党の全国大会に登壇した演説者たちは、バイデンについて「何度かバーチャルで姿を見せただけ」だと口々に批判した。 大統領選挙までわずか2カ月と迫るなか、激戦州での両候補の支持差は縮まっているようだ。政治情報サイトのリアル・クリア・ポリティクスによれば、6月25日の時点では、バイデンは複数の激戦州でトランプに平均6.2%の差をつけてリードしていた。だが現在では、両者の差は2.7%。多くの世論調査の誤差の範囲内だ。 ギャラップ社が毎月実施している調査によれば、国民はアメリカが直面している最も重要な問題として、犯罪と人種差別の問題に懸念を募らせている。3月の調査では、人種差別が最大の懸念事項と答えた人は全体の3%、人種差別と答えた人は1%に満たなかったが、8月の調査では犯罪が4%、人種差別が10%にそれぞれ増えている。 トランプは民主党の市長や知事が率いる都市や州を声高に批判し、暴力や犯罪はそれら民主党の市長・知事のせいにした。そしてペンシルベニアやアリゾナのような激戦州を含む、複数の地域の警察組合の支持を勝ち取ってきた。 抗議と暴動は違う ペンシルベニア州バトラー郡の保安官マイケル・スループは8月31日、トランプ陣営がお膳立てしたビデオ会見の中で、「トランプ大統領は法執行機関の仕事を支持しており、安全に賛成で犯罪に反対の立場だ」と記者団に語った。「いま抗議デモを行っているのは、トランプではなくバイデンの支持者だ」 バイデンは、抗議活動と無法状態はまったくの別物だと語った。 「暴動は抗議ではない。略奪は抗議ではない。放火は抗議ではない」と彼は述べた。「これらの行為はどれも、抗議ではない。明らかな違法行為だ」 <参考記事>トランプの岩盤支持層「白人キリスト教福音派」もトランプ離れ <参考記事>米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想 【話題の記事】 ・12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」 ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる ・介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。主導国なき「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・テクノロジー・日本の行方。PLUS 安倍晋三の遺産――世界は長期政権をこう評価する。