<大学4年間の教職課程で、社会問題への関心や批判的な精神は薄められてしまう> 8月4日の日経新聞ウェブ版に「教員養成、現場の創造性高めよ 批判的な見方が必要」という記事が出ている。教員志望の学生を追跡してみると、学年が上がるにつれて現場と直結した実践的なことを学ぶ学生の比率が高まるが、その一方で社会問題や政治・選挙への関心は薄まるという(紅林伸幸・常葉大学教授)。 大学4年間の教職課程において、教員に必要な力量を身に付ける、凝った言い回しをすると「教職的社会化」を遂げるのだが、それは従順に飼い慣らされる過程とも言えるかもしれない。 最近の教職課程では、授業の技術に加え、トラブルへの対処や保護者との付き合い方など、いわゆる「ハウツー」に重きを置いていると聞く。早い段階から実習の機会も用意されるが、そのことが「未熟な自分と経験豊かな優れた教師」という枠組みを形成し、学生は物言わぬ従順な教師へと仕向けられるという(紅林教授)。 自由奔放な思想や行動が許される学生の時期までもが、今の教職課程では学校現場の色に染められてしまう。風変わりなことや批判めいたことを言うと嫌われるので、社会に対する関心、批判精神が薄れるというのは道理だ。 牙を抜かれた教員たち こういう学生が採用試験を突破し、学校現場にやってきたらどうなるか。教育委員会や管理職にすれば扱いやすい存在だろうが、現場に新風を吹き込む創造性など持たないだろうし、学習指導要領で重視されている「批判的思考」を育む授業も期待できない。 それはデータで裏付けられる。OECD(経済協力開発機構)の国際教員調査「TALIS 2018」では、授業において批判的思考を促すことがどれほどあるか、と問うている(対象は中学校教員)。肯定の回答(「A lot」「Quite a bit」)の比率を拾うと、日本は24.4%でしかない。対してアメリカでは82.3%にもなる。 調査対象の46カ国・地域を高い順に並べると<表1>のようになる。 日本の数値は最も低く、すぐ上のノルウェーとの差も大きい。ダントツのワーストだ。比率が低いことに加え、国際標準からも外れていることに注意しなければならない。 「批判的思考とは何か」を深く考えてしまったのかもしれないが、ここまで他国と違うとは驚きだ。従順に飼い慣らされ、批判的思考の牙を抜かれた教員が、批判的思考を育む授業をするのは難しい。教員が考えないのに、子どもが考えるはずがない。以前、日本の若者の創造性や冒険志向は世界最下位というデータを出したが(「世界一チャレンジしない日本の20代」本誌、2015年12月1日)、学校でどういう授業を受けてきたかの違いかもしれない。 <関連記事:日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき> <関連記事:政府が教育にカネを出さない日本に未来はあるか> ===== 「TALIS 2018」では、「批判的思考が必要な課題を出すことがどれほどあるか」も尋ねている。この設問への回答も加味し、2次元の散布図を描いてみる。<図1>は、横軸に批判的思考を促す頻度、縦軸に批判的思考が必要な課題を出す頻度をとった座標上に、46の国・地域を配置したグラフだ。 目を疑うような配置だ。日本は両軸ともダントツの最下位で、他国の群れから大きく取り残されている。外国の人が見たら、「日本人が大人しい理由が分かった」と膝を打つだろう。 このショッキングな事実の要因は色々ある。そもそも日本では批判的思考を促す授業に馴染みがなく、教員も多忙で、そういう工夫をした授業を練る時間も取れない。<表1>を見ると、上位には南欧や南米の国があるが、これらの国では教員の仕事の大半は授業だ。日本のように、仕事の半分以上が雑務などというのは考えられない。 こういう勤務条件の改善とともに、教員の研修も重要となるが、研修は入職前と入職後に分かれる。紅林教授の調査結果と、ここでの国際データを踏まえると、前者の入職前、すなわち教員養成の問い直しが求められていると言える。 未来の教員を育てる教職課程だからといって、職務と直結した実践的なことばかりに重きを置き過ぎ、疑似的な学校空間に学生を閉じ込めてはいないか。多様な学びの機会を奪い、社会から目を逸らさせてはいないか。 組織としての学校を成り立たせるには、ある程度の従順さや協調性は不可欠だが、創造性や批判思考がない人が教壇に立つと、未来を担う子どもの教育にも影を落とす。 試みとして、教職課程の学生の読書時間の調査をしてみてはどうか。教職課程の学生の読書時間が、他の学生と比べて短いようなら一大事だ。まずは問題を可視化し、改革の提言に説得力を持たせることが必要だ。 <資料:OECD「TALIS 2018」> <関連記事:日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき> <関連記事:政府が教育にカネを出さない日本に未来はあるか> =====