<コロナと戦う医療人への感謝を表すキャンペーンに当の医療人が反旗、それをろうあ者団体が批判。いったい韓国はどうなってるのか──> 今年の春は新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するとともに、休むことなくコロナと闘う医療従事者の人びとへ、感謝の気持ちを伝えるキャンペーンを見かけることが多かった。 ヨーロッパやニューヨークで多く行われた、朝と夕方のベランダからの拍手キャンペーンや、Twitterなどでハッシュタグと共に「ありがとう」のメッセージを送るなど、世界各地で様々な方法がとられてきたが、お隣の国・韓国では、ある感謝のキャンペーンが波紋を呼んでいる。 「おかげ様チャレンジ(덕분에 챌린지)と呼ばれるこのキャンペーンは、コロナウイルスと闘う医療従事者に感謝の気持ちを表すため、今年4月頃からオンライン上で始まった。韓国の手話で「感謝」の意味を表す手のポーズ(右手は親指を上げる「いいね!」の手で、左手をその下に添える)で写真を撮り、「#おかげ様チャレンジ」「#医療陣のおかげ」などのハッシュタグを付けてSNSに投稿する運動だ。 一般人はもちろん、元フィギアスケート韓国代表選手のキム・ヨナさんや、男性アイドルグループのSHINeeやEXOのメンバー、大人気キャラクターのペンスといった芸能人や著名人も多数参加。4月28日には文在寅大統領とその側近らも一緒に参加し韓国政府のHPに写真が掲載され話題となった。 ところが最近、このチャレンジを逆手に取って、手話の「感謝」の動作を逆さまにした「おかげ様としながらチャレンジ」が医大生を中心とした医療関係者が始めて話題を集めている。 これは、白衣を脱ぎ腕にかけて、左手をブーイングするときのように下に向けて、右手をその手の上に添える動作で写真を撮り、おかげ様チャレンジ同様SNSを中心に写真投稿するキャンペーンである。 アンチおかげ様キャンペーン、その意味は? 7月末、韓国政府は、これまでの医科大学の定員約3000人を、2022年から毎年400名ずつ増員して、10年間で4000人増の年間合格者7000人とする計画を発表した。さらに、地方に医大も新設し、地方医師希望者には卒業後10年間その地方で勤務することを条件に奨学金を出すという。 この新しい政策に対し、全国の医大生と医学専門大学学生協会、また医師たちが一斉に反発し立ち上がった。学生らを中心に「おかげ様としながらチャレンジ」を開始し、現在授業のボイコットも始まっている。 そして、8月上旬にはまだコロナの感染が収まっていない中、医師たちによる24時間集団診療ストライキにまで発展してしまった。さらに8月末にも第2ストライキが決行され、韓国政府は、休診した病院に対し「業務開始命令」を下した。韓国政府によると、第二ストライキが開始された26日には、全国約3500以上の病院が休診したとし、命令を拒否した場合には法的に処罰すると表明した。 ===== アンチキャンペーンは「手話を冒涜」? ところが、この騒動は思わぬ方向へ飛び火してしまう。 なんと、ろうあ者協会がこの「おかげ様としながらチャレンジ」に抗議したのだ。物議の中心となったのは、医大生たちが行って写真を撮った手の動作だった。これが「手話を冒涜している」という主張である。 元となった"おかげ様チャレンジ"の動作が、「感謝」の意味を表す手話が由来だったため、それを皮肉ったポーズとはいえ、手話を歪曲して広まるのが許せないと、先月21日「韓国ろうあ者協会」と、障がい者団体「障害の壁を崩す人々」代表らは、国家人権委員会に陳情を提起した。 ちなみに、この団体の会見によれば、この「おかげ様としながらチャレンジ」のポーズは韓国手話辞典に正式に載っているわけではないが、あえて言い換えるとすれば、あなたを呪います。というような意味あいになるという。 ろうあ者達の抗議を受け、「おかげ様としながらチャレンジ」を始めた韓国医大協会は、翌日22日に謝罪文を公開した。文面では、おかげ様と医療陣をおだてておきながら、いざ医療政策においては現場の意見を全く聞きもせず反映させない政府への抗議であったことを強調し、手話辞典に登録されていない動作も既存の言葉と対比することによって、不快な気持ちを抱かせてしまうかもしれないと、事前に察知できていなかったことへの反省が説明されていた。また、このポーズを今後使用することは取りやめ、新しいポーズで反対運動を続けると約束した。 筆談を断られるなど、日ごろの不満も爆発 これでひとまず騒動は収束するかと思われたが、ろうあ者たちの怒りは収まることはなかった。謝罪文では再発防止の努力について記されておらず、実際「おかげ様としながらチャレンジ」ポーズの写真は検索すればインターネット上に散乱している。障がい者団体は、医大協会へ陳情を通じ、「手話通訳者付きの映像謝罪文掲示」と「障がい者差別防止に対する方案提示」の2点を要求した。 また、陳情後の会見では、ろうあ者代表のキム・ヨス氏が医師から受けた差別体験を話し差別の根絶を訴えた。キム氏は、今年の初めコロナウィルスが蔓延しだした頃、息子が熱を出したので病院に駆け込んだが、医師がマスクを着けているため、読唇術が使えず説明がまったく分からなかったという。 自分がろうあ者だということを伝えて筆談を要求したものの断られ、30分もの間、病院の中で右往左往したそうだ。キム氏は「同じような問題は今もどこかで起こっている」「おかげ様としながらチャレンジの写真は手話を冒涜し、見下されている気がして夜も眠れなかった。もっと社会的弱者の心の理解を」と訴えた。 韓国人は、デモや訴える方法がバラエティ豊かで、マスコミを利用するのが上手だ。今回のポスターも、そういった意味では政府のチャレンジを皮肉ったインパクトあるポスターだった。ところが、それが思っても見なかった手話という分野にまで問題が飛び火してしまった。 韓国は今、新型コロナ第2波到来で連日200人を超える新規感染者が現れる一方、重症患者用の病床に余裕がなくなり医療崩壊の危機に直面しており、ロックダウンに近い「ソーシャルディスタンス2.5」段階に突入したばかりだ。今回問題となった医科大の定員拡大などの問題と医療関係者によるストライキが一刻も早く解決して、皆が安心して医療に力を注げる環境になるように願うばかりである。 ===== アンチおかげ様キャンペーンとは? 韓国政府の医療制度改革案に対して医療人は反対を表明。医学生らを中心に「おかげ様としながらチャレンジ」を開始したが...... JTBC News / YouTube