<民主党優勢の州からの移住者増加によって、共和党の牙城は崩れつつある。「早ければ11月の大統領選で結果に結び付く」との見方も。本誌最新号「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集から> その昔、アメリカ東部のバージニア州は赤(共和党のシンボルカラー)の牙城だった。が、今は青(民主党)だ。 同じことは西部のカリフォルニアやオレゴン、ワシントン、コロラド、ニューメキシコ、そして北東部のニューハンプシャー各州にも言える。南のアリゾナやノースカロライナも青に染まりつつある。もしかしたらジョージアやテキサスも。 ジョージアでは11月の選挙に向け共和党の現職上院議員が苦戦している。ノースカロライナでは民主党の上院議員候補が優勢で、赤いはずのサウスカロライナでも共和党現職の大ベテランに民主党新人が肉薄する。 次の次の大統領選が行われる頃には、南部諸州の多くは青く塗られていることだろう。2018年のジョージア州知事選で共和党の牙城に挑んだ黒人女性ステイシー・エイブラムスが言うように、温暖な地域における民主党支持層の拡大は「向こう30年の国政選挙の趨勢を大きく左右する」可能性が高い。 人口学者や選挙のプロは早くからこうした傾向に気付いていた。今はそれを裏付けるデータがあり、早ければ11月の選挙でそれが結果に結び付く気配もある。そうなれば民主党は南部を取り返せる。 いや、南部の保守的な住民が急に内なる進取の気性に目覚めたわけではない。青く染まりつつある要因は人口学的なもの、いわゆる「世代の入れ替わり」だ。こうした州でも都市化が進み、北の青い州から移り住む人が増えている。彼らの多くは民主党支持で、その投票行動や政治姿勢は南部に来ても変わらない。 共和党にとっては由々しき事態だ。作家でアナリストのクリスティン・テイトに言わせれば、それは「赤いアメリカに対するリベラル派の侵略」。会社も人も高税率・低成長の青い州を逃げ出して低税率・高成長の赤い州に移ってくる。「私の住む(テキサス州)ヒューストン周辺でもカリフォルニアからの移住がすごく増えた。ここなら中流家庭でも家を買えるからだ」とテイトは言う。 経済的な理由で北から南へ これが21世紀版の人口大移動。その概況については32ページの地図(※本誌ママ、下記地図)を参照されたい。私たちはブルッキングス研究所の人口統計学者ウィリアム・フレイらの協力を得て、2000年以来の人口移動のデータと大統領選における票の出方を州ごとに比較検討した。州の色は、共和党の票が増えれば赤く、民主党の票が増えれば青く染まっていく。 本誌2020年9月15日号 31ページより 【関連記事】「赤い州」に誕生する民主党知事、「異変」が起きている 【関連記事】米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想 ===== 2018年上院選では共和党現職のテッド・クルーズに民主党のベト・オローク(右)が肉薄 TOM FOX-POOL/GETTY IMAGES 大方の予想を裏切った前回(2016年)の結果も、長期的なトレンドを覆すものではない。例えばテキサス。まだ青ではないが、確実に青みが増している。2000年には共和党のジョージ・W・ブッシュが21ポイントの大差で勝利したが、2016年のドナルド・トランプが民主党のヒラリー・クリントンにつけた差は9ポイントにすぎない。明らかに差は縮まっている。2018年の上院選では共和党現職のテッド・クルーズが民主党新人のベト・オロークに勝ったが、1978年以来の大接戦だった。 いったい何が起きているのか。単純に言えば、赤い州に引っ越す青い人(民主党支持者)が増えている。その理由は? ノースカロライナ州立大学のアーウィン・モリス教授によれば、移住者の大半は若い世代で、たいていは経済的な理由だ。つまり雇用を求めている。ついでに太陽と、素敵なビーチも求めているに違いない。 またオクラホマ州立大学のセス・マッキー教授らによれば、中西部からの移住者はやや民主党寄りで、西海岸からの移住者はほんの少し共和党寄り。そしてコロラドやカンザスなどの山岳・大平原地帯からの移住者は共和党色が強い。しかし最大の変数は北東部からの移住者で、彼らは圧倒的に民主党支持だ。そして数で見れば、2012年段階で南部への移住者の34%は北東部出身。31%が中西部出身で、残りの35%が西海岸と山岳・大平原地帯だった。 そうであれば、共和党にとって移民は大敵。ただしメキシコからの移民ではない、恐るべきはニューヨークからの国内移民だ。 例としてノースカロライナを見てみよう。この州は今のところ色分けしにくい。青が勝ったり赤が勝ったりしている。同州ソールズベリーにあるカタウバ・カレッジのマイケル・ビッツァー教授によれば「最近の世論調査でも、民主・共和両党の支持率は拮抗している」。ただし大統領選と同日に行われる州知事選では、民主党現職が共和党新人に8ポイントの差をつけている。 そもそも、超保守派の大御所ジェシー・ヘルムズが君臨していた時期(つまり20世紀末まで)のノースカロライナでは住民の大半が地元の人間だった。今は違う。ノースカロライナ州立大学の人口学者レベッカ・ティペットによると、1990年には州民の70%が州内の生まれだったが、今は56%だ。 2000年から16年にかけては、州外からの転入者が100万人いた。2018年には転入者の62%が北東部を中心とする青い州からの移住だった。 【関連記事】「赤い州」に誕生する民主党知事、「異変」が起きている 【関連記事】米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想 ===== 共和党による恣意的な選挙区割りの変更には反発が強まる(ワシントンで) TASOS KATOPODIS/GETTY IMAGES もちろん、青い州から来た人の全員が民主党に票を投じるわけではない。現役を引退し、温暖な気候を求めて移り住む高齢者には共和党の支持者が多いだろう。しかし彼らの暮らす家を建て、彼らに介護サービスを提供するには何倍もの数の若い労働者が必要になる。そういう働き手の多くはヒスパニックで基本的に民主党支持、つまり青い。 国勢調査の数字を見ると、ノースカロライナではヒスパニック人口が過去10年で20万近く増えた。今のところ、彼らの多くは国籍を取得していないか、国籍があっても投票できる年齢に達していないかのどちらかだ。人口構成の変化が票の出方に反映されるにはそれなりの時間が必要だが、いずれ事態は動く。 そして世代も入れ替わる。20世紀の老兵は去りゆくのみだ。移住者や少数民族、若者の投票傾向に極端な変化がない限り、遠からずノースカロライナは青に染まる。 テキサスはどうか。ここでも山岳・大平原地帯からの保守的な移住者と、北東部・中西部からのリベラルな移住者がせめぎ合い、そこにヒスパニックの移民が加わる構図だ。他州から転入してくるヒスパニックも多いから、いずれ彼らが州内で最大の民族集団となるのは確実だ。 ジョージア州でも白人の比率は低下する一方だ。ここでは、かつて自由と機会を求めて北部に移住したアフリカ系アメリカ人の子孫が、父祖の地に回帰する傾向が目立つ。 いずれにせよ、ベビーブーム世代の退場と黒人やヒスパニックの台頭という流れは変わらず、共和党の地盤をむしばむ。だから南部諸州が青に転じるのは時間の問題だ。しかし、それがいつになるかは分からない。 データは嘘をつかない 確かなのは、大統領選や上院選(そして州知事選)のほうが、下院選(や州議会選)よりもその時期が早く来るということ。下院選や州議会選では、州内の選挙区割りの変更が影響を及ぼすからだ。区割りを決めるのは州議会の権限で、当然のことながら多数派の意向が反映される。 統計によれば、共和党の支持率は国全体で50%に満たないが、全米の州議会の58%を制している。そして自分たちに有利なように、せっせと区割りを書き換えている。2013年に共和党主導のテキサス州議会が決めた区割り変更は法廷闘争に持ち込まれたが、連邦最高裁は2018年にそのほとんどを合憲と認めた。既に判事の過半数を共和党系が占めていたからだが、それでも1件は人種差別的ゲリマンダリング(特定の政党に有利な区割り)と認定された。 ノースカロライナでも、2010年に共和党が州議会の両院で安定多数を確保して以来、何度か区割り変更が議決され、そのたびに訴訟が提起された。ようやく決着がついたのは昨年末。法廷の命じた区割りで選挙が行われた場合、民主党は下院で2議席を上積みする「可能性が高い」とブルームバーグは伝えている。 【関連記事】「赤い州」に誕生する民主党知事、「異変」が起きている 【関連記事】米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想 ===== 見てきたとおり、赤から青への変色は人口学的な必然だが、それは長い目で見ての話。今秋の選挙で結果が出る保証はない。現職の大統領は極端過ぎる男だし、経済は最悪で、新型コロナウイルスの危機もある。投票率が上がるか下がるか、無党派層がどう動くか、ネット上の言論操作や外国の介入がどう影響するか。いずれも予想し難い。 テキサスやノースカロライナ、アリゾナ、ジョージア、そしてフロリダは、どちらに転んでもおかしくない。夏休み中は民主党のジョー・バイデン候補の支持率が現職トランプを上回っていたが、選挙戦が本格化するのは9月になってからだ。 それでもデータは嘘をつかない。時間はかかるとしても、赤くて大きな州は徐々に青く染まっていく。そして赤(共和党)には、この流れを止める手段がほとんどない。 <2020年9月15日号「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集より> 【関連記事】「赤い州」に誕生する民主党知事、「異変」が起きている 【関連記事】米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想 【話題の記事】 ・大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出 ・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......? ・地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される ・中国は「第三次大戦を準備している」 ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。