<腕立て伏せや鞭打ちなどする国はあったが、インドネシアでは驚愕の罰則を科した> コロナウイルスの感染者数、感染死者数の増加が一向に減少しないインドネシアで政府が率先して進める保健衛生上の感染防止対策として国民に励行を義務付けている「マスク着用」「手洗い励行」「社会的距離確保」の3ルールのうち、「マスク着用」の違反者に対する罰則が厳しくなっている。 これまでの社会奉仕活動と罰金に加えてついに9月2日からは首都ジャカルタの一部でマスク非着用者に対して棺桶の中に横たわるという変則的な「罰則」が適用された。 しかしこの様子を伝える地元の新聞テレビの写真や映像が瞬く間にネットなどを通じて拡散し「非人道的」「人権侵害」「やりすぎ」など非難囂囂の状態になり、「棺桶に横たわる」という罰則を科していた地元の「風紀取締隊(Satpol PP)」は今後別の罰則に切り替えたい、と中止を示唆する事態になっている。 ところがその一方でジャワ島東ジャワ州の地方都市プロボリンゴでは9月7日から、市内の市場で始まった「マスク非着用者の摘発」でマスク非着用が咎められた商売人や市民が普段はコロナ感染死者を医療機関からコロナ死者専用指定墓地まで運ぶ「霊柩車」の中に数分間留まるという新たな「罰則」を課していることが明らかになり、話題となっている。 棺に横たわり100まで数える罰 ジャカルタ東部にあるカリサリ地区とパサール・レポ地区で4日から始まった「風紀取締隊」による「マスク着用チェック」でマスクを着用していなかった市民に対して「棺桶に横たわり1~100まで数える」という「罰則」は大きなニュースとなった。棺桶は蓋をするわけでなく、また時間も約1分強と短時間だった。 通常ジャカルタ州政府のマスク非着用者への罰則は「罰金」か「後日の社会奉仕」と決められているが、金銭的余裕がなく罰金が支払えない市民や社会奉仕の時間的余裕がないことからその場で手軽に済む「棺桶の臨死体験」を選択する違反者が多かったという。 社会奉仕は道路清掃や下水、側溝、ドブなどの清掃が科され、後日指定された日時、場所での従事が求められることになる。 ところがこうした罰則も風紀取締隊の個人的判断に任される部分が多く、男性違反者はその場で腕立て伏せを強制したり、違反者が女性や未成年者の場合には大きな声での国歌斉唱や誰もが小学校で習うインドネシアの国家5原則「パンチャシラ」を復唱したりすることが科され、テレビニュースなどはそうした光景を「微笑ましい罰則」などとして伝えていた。 ===== ただこうした罰則は「微笑ましい」だけに効果が薄く、累犯者も多く、効果が一向に上がらないことに業を煮やした一部の風紀取締隊が思い付きで「棺桶臨死体験」を始めたという。 当初はマスコミの取材に「違反者が自ら選択したもので、(棺桶内の横たわり)は我々が強制したものではない。とはいえマスクを着用しないと死んで棺桶で葬られるという体験はルール厳守を再認識させる効果がある」と話していた。 ところが批判が殺到した結果、7日までに「ジャカルタ州政府の罰則は社会奉仕と罰金であり、今後はこの2つの罰則を厳格に適用していくこととしたい」と棺桶による罰則を撤回する方針を明らかにした。 もっとも「棺桶に入るという罰則はあくまで違反者が希望したことであり、我々は一切強制などしていない」と弁解することも忘れなかった。 棺桶に続き今後は霊柩車で臨死体験 こうしたジャカルタでの棺桶による罰則が全国的に話題となり非難を浴びる事態になっているのにも関わらず、東ジャワ州プロボリンゴ市内のマロン市場で7日に実施された「マスク着用抜き打ち検査」の結果、マスクを着用していなかった市場の売り子、店員と一般買い物客約50人が今度は霊柩車の中に数分間留まるという罰則を受けた。 地元マスコミなどによると約50人は普段コロナ感染で死亡した患者を医療施設から専用の墓地に運ぶ時に実際に使用している霊柩車の後部座席に数分間閉じ込められたという。 後部座席には感染死者用の棺桶があるが、棺桶に入ることは求められず、棺桶の脇に滞在することが求められ、霊柩車に乗る際には風紀取締隊からマスクを与えられ、それを車内では着用したという。 現地の風紀取締隊関係者は地元マスコミに対して「コロナ感染の恐ろしさを再認識してもらうことが目的である」として棺桶に横たわるわけでもなく、霊柩車での体験も強制ではない、と強調している。今回の検査は地元自治体関係者も同行した抜き打ち検査で、今後34カ所の市場でも同様の検査を実施するとしている。 プロボリンゴ市ではマスク非着用者への罰則は下水掃除や市場清掃で、売り手の場合は1週間の店舗閉鎖、買い物客などは身分証明書の3カ月没収も科している。 ===== 「さあマスクを着用しよう」と呼びかけるジョコ・ウィドド大統領のサイネージ(撮影筆者) 徴収した罰金総額40億ルピアの意味 ジャカルタ特別州はインドネシア34州で最も感染者が多く、プロボリンゴ市のある東ジャワ州は感染死者が最も多い州となっていることから感染拡大が深刻な両州で「棺桶」と「霊柩車」の違いはあるものの、「臨死体験」を通して市民に「マスク着用」の徹底を呼びかける一環として実施された「思い付きの罰則」とみられている。 ジャカルタ特別州は5月から8月までに保健衛生上のルール違反で徴収した罰金が40億ルピア(約2900円)に上ることを8月31日に発表している。 マスク非着用が初回違反の場合罰金は25万ルピア(約1800円)であることなどから、いかにジャカルタでは市民がルール違反を重ねているかの証左ともいえるとして、州政府や中央政府はとにかく現在「マスク着用」の徹底を呼びかけている。言い方を変えるともう「マスク着用」以外に打つ手がないという手詰まりの状況が生まれているともいえる状況だ。 ジャカルタ市内の主要なオフィスビル、商業ビルのエレベーターや掲示板に設置された動画スクリーンには最近「さあマスクを着用しよう」と呼びかけるジョコ・ウィドド大統領の静止画像が頻繁に登場している。国家元首自らがそうした「マスク着用」を呼びかけざるを得ないほど、インドネシアのコロナ感染は深刻化していることをこの画像は象徴している。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など 【話題の記事】 ・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。 ===== マスク着用ルール守らぬ者へ驚愕の罰則 ジャカルタの一部でマスク非着用者に対して棺桶の中に横たわるという変則的な「罰則」が適用された。 KOMPASTV / YouTube