<日本では国民食といえる存在のインスタントラーメン。アメリカでは今年、都市封鎖時の非常食として売上が伸びている> 今年の春、空前のコロナウイルスのパンデミックで世界各国で都市封鎖が始まっているなか、飛ぶように売れた商品といえば「トイレットペーパー」だった。筆者の住んでいるアメリカのスーパーマーケットでも、トイレットペーパーやペーパータオルの売り切れが続出し、その後通常通り製品が棚に並ぶようになっても、つい最近まで「一人2個まで」という制限付きだった。 そんなトイレットペーパー・パニックの陰で、同じく飛ぶように売れていたものといえば「インスタントラーメン」だ。アジア圏での人気が高いと思われがちだが、インスタントラーメンはアメリカでもすっかり定着している。報道によると、欧米での新型コロナの感染が拡大し出した2月23日〜3月21日の約1カ月間で、アメリカでのインスタントラーメンの売り上げが、なんと578%もアップしたそうだ。非常食として、小麦粉やパスタと共に買い求める人が急増したのだろう。 韓国のインスタントラーメンを日本のスーパーで見かけることは珍しくなくなったが、アメリカでもアジア系スーパーではない一般のスーパーマーケットで、辛い韓国風のラーメンをよく見かける。 韓国・農心、前年同期比35%売上伸びる もちろん、今回の売り上げアップにより、アメリカでの韓国インスタントラーメンの売り上げも好調のようだ。「辛ラーメン」でおなじみの食品会社「農心」は、今年アメリカでの上半期の売り上げが前年比35%もアップし、1億6400万ドルと歴代最高額に達したと発表した。全米に広く展開している大型スーパーマーケットのウォルマートでは35%、コストコで51%、ネット通販のアマゾンでは、なんと79%もアップしたという。 ===== スナックから主食へ「格上げ」 ここまで急激に売り上げが伸びた要因は様々だが、やはり冒頭にも挙げたようにコロナウイルスによる世界的巣ごもり生活の非常食として買い求める人が多かった点が大きいだろう。また、それまではインスタントラーメンと言えばただ安くて、料理をしたことがない人でも手軽に作れる食品として、貧乏学生や一人暮らしのおやつというイメージが強かった。実際日本でもおなじみの会社「マルちゃん」の袋入りインスタントラーメンは、たったの40円程度で購入できる。 一方では、ここ最近日本や韓国の多様なラーメンがどんどん輸入されるようになり、1個1ドルを超える商品も増えてきた。しっかりした味付けに具材の豊富さ、また日本語の"ラーメン"という料理名の普及により、スナック感覚だったインスタントラーメンが、主食になるものという認識に変わってきたのも、アメリカでの売り上げアップに繋がったといえる。 NYTのレビューで韓国ラーメンが躍進 それでは、なぜ数多くあるライバル商品の中から韓国のインスタントラーメンに注目が集まるようになったのだろうか? それは今年の6月17日、ニューヨークタイムズ紙のレビューサイトであるワイヤーカッターが発表した「The best instant noodles(世界で一番おいしいインスタント麺)」ランキングで、なんと1位に「辛ラーメンブラック」が選ばれたことが影響している。数年前から、筆者の地元のスーパーマーケットでも、通常の「辛ラーメン」より2倍近い高額で売られている「辛ラーメンブラック」が売り切れているのをよく見かけるようになった。 NewYorkTimes「The Best Instant Noodles, According to Chefs, Cookbook Authors, and Ramen Fanatics」より編集部作成 辛ラーメンブラックは、特製豚骨粉末スープが付くなど、よりおいしさを追求した商品である。徐々にマスコミに注目されるようになり、興味を持った消費者が興味本位で購入して食べて見ると美味しかったのでリピート買いしているのではないかと推測される。 また、今年2月に韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が米国アカデミー4冠に輝くと、作品内に登場したインスタントラーメン料理「ジャパグリ」が注目を集めるようになった。ジャパグリとは、農心食品が発売している汁無し麺「ジャパゲッティ」とラーメン「ノグリ」を合わせて作る創作メニューのことだ。 実は2013年の6月にMBCで放送された人気バラエティー番組『パパ、どこ行くの』で紹介され、韓国で一世風靡した食べ方である。それが、『パラサイト』に登場し、世界中から映画が注目されるとともに、ジャパグリの知名度も上がっていった。こういった波をキャッチするのが上手い韓国だけに、農心もさっそく「ジャパグリの作り方」を各国の言語字幕付きで世界へ発信を開始し話題となった。 ===== 実は世界第6位のラーメン大国 実はアメリカは、インスタントラーメンの消費量世界第6位を誇っている。世界ラーメン協会の発表によると、去年1年間のアメリカのインスタントラーメン消費量は46億3000食だったそうだ。そんなアメリカでは、ラーメンも文化に合わせて独自の進化を遂げている。 麺類をすすって食べることが無礼とされる西洋文化に合わせて、同じ商品でもアメリカ用のインスタントラーメンは、日本より麺の長さが短めに作られているものが多いことは有名だ。ほかにも日本や韓国など本場のインスタントラーメンとの違いをいくつか紹介しよう。 日本で人気のカップ焼きそば等、汁なしインスタントヌードル商品もアメリカで売られているが、大きな違いは、作り方が違うこと。作り方を見ると日本と同じ方法も紹介されているが、具を先に入れ、穴から湯切りし、ソースを入れる手順がややこしいからか、全部一度に容器へ入れて電子レンジで作る方法も一緒に記されていて、こちらの作り方の方がアメリカでは定番化している。 アメリカのカップヌードルは日本のものと違う? アメリカのスーパーマーケットに並ぶ日清のカップヌードルには「NO ADDED MSG」の文字が。 photo by Azumi Warrick また、同じインスタントラーメン商品のはずが、海外では日本で食べたときよりも味気なく、不味く感じた経験をした方もいるかもしれない。それは、MSG(グルタミン酸ナトリウム=うま味調味料)が入っていないからと言われている。日本でおなじみの日清カップヌードルもアメリカで発売している商品には「NO ADDED MSG」の文字がしっかり正面に印刷されている。 また、日本ではラーメンに野菜や卵などをちょい足し、韓国ではキムチやチーズのちょい足しすることが主流だが、アメリカでは特に主流なちょい足しは無い。ただ、スパイシーな味が好きな人が多いらしく、シラチャーソースという辛いチリソースをかけて食べる人も多いと聞く。そう聞くと韓国ラーメンが人気だということも納得いただけるだろう。 日本から生まれたインスタントヌードルは、今や世界に羽ばたき、今回の新型コロナの危機で買い物すら思い通りに出来ない状況にあって、人々の非常食として支えとなった。これからも世界各国でその土地の食文化に適応し、進化を遂げ続けていくだろう。 ===== 『パラサイト』で話題になったチャパグリのレシピ 『パラサイト 半地下の家族』に登場して世界的に注目を集めたチャパグリのレシピ動画 nongshim/ YouTube