<9年前、エジプト革命の取材中に集団レイプされたアメリカ人女性記者がつづるのは怒りではない。同じく性的暴行に遭った現地の女性たちが支え合い、被害を語り、規範に立ち向かう姿に見出す希望だ> テントの中は熱気が籠もり、興奮に満ちていた。ホスニ・ムバラク大統領が辞任し、ナイル川を流れる水のようにずっと変わらないと思われていたエジプトの一時代が終わった。2011年2月のあの夜、首都カイロの街頭から見た政権崩壊の様子は圧巻だった。 男性ばかりのテントの中では、隣にいるエジプト人少年がしきりに私の注意を引こうとしていた。彼の父親にインタビューする間、何かと言葉を挟んでくる。彼の母親に会ってほしいのだという。米CBSの番組『60ミニッツ』のカメラが止まるとすぐ、彼は私の手にエジプトの紙幣(ムバラク政権の遺物だ)を握らせた。エジプトが変わったこの瞬間を忘れないように持っていて、と言って。 彼は私の手を取り、テントから連れ出した。私は今でもその紙幣を持っている。外は暗く、タハリール広場の一部には明かりがともり、何千もの人々が祝いと喜びの声を上げていた。まるでNFLのスーパーボウルで自分の応援するチームが優勝し、喜ぶ群衆を見ているようだった。 少年はテントからそう遠くない暗がりで立ち止まった。目が慣れると、女性の一団が身を寄せ合う見慣れた光景があった。多くは年配の女性で、目以外は全身を覆う黒いチャドル姿で地面に座っている。 私は少年としゃがみ込み、通訳を介して彼の母親と話をした。通訳の男性は優秀なエジプト人学生。当初からこの革命に関わっており、私が革命を理解する上で貴重なガイド役にもなってくれた。 母親としばらく話をした後、私は立ち上がった。通訳のほうを向いて、自分がこう言ったことは決して忘れられない。「彼女たちの姿を見れば、エジプトの自由はエジプト人女性の自由を意味しないことが分かる」。彼は私を見て、心配そうに言った。「通訳しないほうがいいですね?」 私は首を振り、「しなくていい」と言った。 性犯罪が抑圧の武器に それから1時間もしないうちに、私はタハリール広場のテントから程近い場所で土まみれになり、命懸けで戦っていた。200~300人の暴徒に集団レイプされ、肛門を犯され、殴られたのだ。通訳の彼は力の限り、助けを求めて叫んでいた。 その後、私はある学術研究でエジプト社会における性的暴行や暴力、レイプについて読み、こうした恐ろしい犯罪が女性の抑圧という社会統制の武器として利用されていることを知った。 【関連記事】運転もさせないほど女性軽視だったサウジ、次の手はセクハラ対策 【関連記事】インドで相次ぐ性的暴行事件 誰も語らない「少年被害」 ===== エジプトの人々への怒りはないと語るローガン CHRIS HONDROS/GETTY IMAGES エジプトの多くの女性にとって、男性の同伴なしの外出は推奨されないだけでなく、不快な経験になることも知った。スーダンのような国から来た単純労働者の女性がカイロで公共交通機関に乗れば、トラウマを負うことになる。反撃する力もなく、何らかの正義も期待できないまま毎日セクハラの試練にさらされるのだから。 カイロの女子大生にとって安全な場所は、授業に向かう車の中だけだ。大学の駐車場に着けば、もう安全な空間は確保できない。 もちろん国家や警察、イスラム教徒、家族がエジプトの女性たちに責任を負わせていることも私は学んだ。不適切な視線を集めないよう、きちんとした服装をするのが女性の務めだとクギを刺す街角のポスターについての記事を読んだことがある。「被害者を責める」のは、アメリカを含む多くの社会でおなじみの風潮だ。だが幸いアメリカでは、以前よりそうした事態が随分減っている。 当局を動かすネット告発 あの夜、タハリール広場でレイプされ、性的暴行を受けた女性は私だけではない。被害者の多くはエジプト人だったが、彼女たちの事件が世界で報道されることはなかった。私は、あの夜にレイプされたアフリカ人女性がいることを知っている。本人たちから手紙をもらったからだ。彼女たちの恐ろしい経験は、今でも私の心の中に残っている。 それでも私は、エジプトの女性たちが最近、ソーシャルメディアで#MeToo運動を展開し、性的暴行の被害を語り、互いに支え合う姿に希望を感じている。彼女たちの反乱をきっかけに、当局は7月にエジプト人学生を逮捕し、3件の強制わいせつ容疑で起訴した。これは、エジプト女性の声が影響を持ち始めていることの証しだ。 エジプト人、特に男性に会うたびに、彼らは私に謝罪し、エジプトの男性がみんな「そうではない」と断言する。私の答えはいつも同じ──どこにでも良いことと悪いことがあるのは分かっているし、エジプト人を責めるつもりはない、素晴らしい人々だと知っている。 私は一瞬たりとも怒りを感じたことはない。その代わり、希望を持っている。数々の不正や虐待の中で生きているエジプトの人々にとって、潮目は変わりつつある、と。 何世代にもわたり、女性の在り方を定義してきた規範に立ち向かう勇敢な彼女たちに、自分は1人ではないこと、これは価値ある戦いだと知ってほしい。これからは男女を問わず、勇気ある人々が共に戦っていくはずだから。 (筆者はフォックス・ネーションの『ララ・ローガン・ハズ・ノー・アジェンダ』の司会者。2011年、エジプト取材中のレイプ被害をCBSが発表し、世界に衝撃が走った) <2020年9月15日号掲載> 【関連記事】運転もさせないほど女性軽視だったサウジ、次の手はセクハラ対策 【関連記事】インドで相次ぐ性的暴行事件 誰も語らない「少年被害」 【話題の記事】 ・大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出 ・中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......? ・地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される ・中国は「第三次大戦を準備している」 ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。