<「アナ雪」「アラジン」「女と野獣」といったディズニー作品は子供たちが劇場公開を楽しみにする作品。だが今度の新作は、なぜか作品以外のことが話題になって──> 今年は世界中に新型コロナウイルスの感染が拡大すると共に、様々な映画作品に影響が出てしまった。特に世界的ヒットが見込まれると期待された『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『ワイルドスピード9』など大作であればあるほど、映画館への客足が遠のいた状態で公開することはできないという判断で、次々と延期が発表されている。それにより映画館の上映スケジュールは世界的に大幅に狂ったままの状態だ。 そんななか、コロナの影響を大きく受けてしまった被害作品の1つといえば、ディズニーが満を持して公開するはずだった『ムーラン』だろう。そして今、この作品をめぐって次々と問題が浮上していることをご存じだろうか。 ディズニープリンセス初のアジア系ヒロイン 今年公開予定だった映画『ムーラン』は、ディズニーが1998年に制作し、中国を舞台にした劇場用アニメーションの実写リメイク版である。88年のアニメは、中国の伝説「花木蘭」をベースにしたストーリーで、「ディズニーアニメに初のアジア人ヒロインが登場する」と、公開当時かなり話題となった。武術を得意とする強いヒロイン像は、現代的では人気を集めるだろうキャラクターだ。 ディズニーはここ数年、アニメ作品の実写化が増えているが、『ムーラン』もそのうちの1本だった。本来、今年の3月27日に全米公開が予定されていたが、ご存じの通りコロナウイルスのパンデミックにより7月24日に公開延期が告知された。 ところが、その後8月にはアメリカ・日本など一部の国の劇場公開を断念するという発表があり、なんと劇場公開無しでディズニーの定額ネット配信サービスである「Disney+」での配信が決定した。この発表には、当然のことながら国内外の多くの映画館オーナーらが反発し注目を集めることとなった。 ===== 香港の民主活動家の黄之鋒も「#BoycottMulan」と抗議の意志を表明した。The Sun / YouTube 香港デモ、ウイグル族強制労働などで炎上 映画『ムーラン』は、公開をめぐる問題だけではなく、これまでにも決定当時から様々な論争に巻き込まれてきた。 まず、昨年8月、ムーラン役の主演女優リウ・イーフェイが自身のSNSウェイボーにて、「私は香港警察を支持します。批判されても構いません」と、香港で市民デモ隊を鎮圧した警察を支持する発言をして多くの反感を買った。アジア圏では香港を中心に映画をボイコットしようという意味の「#BoycottMulan」というハッシュタグがSNSで多く見かけられるようになった。 さらに今月に入り、映画の一部シーンの撮影地に批判が集中している。なんと、『ムーラン』はここ数年でウイグル族が100万人も強制収容されていた場所で撮影されたことが判明したのだ。 クレジットにも「Special Thanks」として中国の新疆ウイグル自治区政府機関が載っている。Twitterでは、米共和党のマイク・ギャラハー下院議員をはじめ多くの人がこのクレジット画面のスクリーンショットを批判文とともに投稿している。 肝心の中国での評判は? ディズニーが約2億ドルも投じてこの映画を作りたかった背景には、中国市場進出の狙いもあっただろう。中国には外国映画の公開数を制限するスクリーンクォータ制度があるため、中国人キャストで中国を舞台にした『ムーラン』の大規模な中国での公開に期待を寄せていたに違いない。 アメリカや日本では劇場公開を見合わせたが、中国(9月11日)や韓国(9月17日)では劇場公開されることとなった。ところが、ディズニーが期待する当の中国での前評判はというと、これまたあまり芳しくない様子だ。 ハリウッドがアジアを舞台に映画を撮影するとよくあることだが、スタッフに中国文化を理解している担当者が参加しておらず、おかしなアジアテイストの描写が多いと、一部の中国サイトでは批判が集まっている。日本や韓国といった他のアジア文化と中国文化が一緒くたに扱われているという。 また、ネットでの反応を見て見ると、アニメ版のときの良さが引き出せておらず、「よくある中国の武侠映画みたいでつまらない」という意見も多い。 ===== ワールドプレミアでも騒動が 中国人の一部ネットユーザー達が、『ムーラン』にあまり好印象を持っていないのには訳がある。今年3月に行われたワールドプレミアの会場で、インタビューに答えた主人公リウ・イーフェイが「1人のアジア系として誇りに思います」と発言した。 日本人からすれば大して何も感じない回答だが、一部の中国人からは「なぜ"中国人(もしくは中華系)"と言わないのか」という批判の声が上がり、なんと、中国側からも映画をボイコットしようという声が上がっていたのだ。 このように紆余曲折あったものの、9月4日ついにDisney+での公開にこぎつけることが出来た。『ムーラン』を見るためには、Disney+に加入し、さらにレンタル料にあたる「プレミアアクセス」を購入する必要がある。 この価格もかなり強気の料金設定で、アメリカでは29.99ドル。日本でも2980円(税抜)だ。今劇場料金が一般一人1900円なので二人以上で見れば元が取れる。それでも高いとお思いの日本の皆さん。日本では12月4日より課金無しで会員全員が見られるようになるそうだ。あと3カ月我慢しよう。 アニメ版のように花咲くことはできるか? 良くも悪くも話題に浮上したことがノイズマーケティングになったのか、9月4日の『ムーラン』配信開始日から2日間で、Disney+のダウンロード数は前年比から68%UP、さらにアプリ内の課金売上は、193%のUPとなった。蓋を開けてみれば上々の滑り出しを見せている。 原作ムーランの中で「The flower that blooms in adversity is the rarest and most beautiful of all.」という有名なセリフがある。これは「逆境に咲く花こそ、最も貴重であり、最も美しい。」という意味だ。ムーランと同じアジア人女性として、逆境で戦う強い女性を描いたこの作品が実写化されると聞いた時は嬉しかった。 しかし、その後あまりにも問題が浮上し過ぎたため、本来作品だけを見て評価しなくてはならないところ、他の情報がちらつき、冷静に作品を見られる状態ではない。この逆境も乗り越え、実写化映画『ムーラン』は美しく咲く花となれるだろうか。 ===== 香港デモやウイグル問題などで炎上している『ムーラン』 香港デモやウイグル問題などで炎上している『ムーラン』 The Sun / YouTube 『ムーラン』はこんな映画 ディズニー最新作『ムーラン』予告編 Walt Disney Studios / YouTube