米大統領選の民主党候補のバイデン前副大統領はこれまで、同盟国にも敵対国にも関税を課すトランプ大統領の通商政策を「有害」、「見境ない」、「破滅的」などの言い回しで批判してきた。しかし、自身が大統領になっても、トランプ氏の導入してきた幾つかの政策は続けることになるかもしれない。 共和党は自由貿易や均衡予算などの伝統的な党の目標をほぼ捨て、トランプ氏の「米国第一主義」を擁してきた。これまで自由貿易を支持し、しかし異なるアプローチを求める声にも調子を合わせてきたバイデン氏にとっても、待ち受ける仕事は簡単ではない。 バイデン氏の支持母体のうち、労組は雇用保護とインフラ投資を求め、進歩派は気候変動問題、薬価引き下げ、人権問題などへの取り組みを求める。関税引き下げと、対中貿易関係の混乱を緩和することを強く願う米国の農家や企業の声にも直面している。 相反する利益の錯綜ゆえにバイデン氏は様子見姿勢を取ることになり、トランプ氏から引き継ぐことになる諸関税の多くは何年も維持される可能性がある――これが元職や現職の政策顧問やロビイストや通商アナリストの見立てだ。 政権獲得でも手足縛られる懸念 シラキュース大教授でピーターソン国際経済研究所上級研究員でもあるマリー・ラブリー氏は「バイデン氏がこうしたさまざまな相対立する勢力のバランスをどう取るのかは確かではない」と述べた。 米税関・国境警備局のデータによると、トランプ政権が2018、19年に中国製品に課した3700億ドル(約39兆2200億円)(訂正)相当の一連の関税は、米国の輸入業者に総額約616億ドルの負担を強いた。これが国内製造業者の競争力を損なう原因になったと批判されている。 鉄鋼、アルミニウム、洗濯機、太陽光パネル、欧州製品などへの制裁関税による税収は9月2日までで総額122億ドルだ。 昨年の米国の対中貿易赤字は縮小したが、米商務省が3日発表した7月の貿易赤字額は636億ドルと、12年ぶりの高水準に急拡大。この約半分が中国だった。 専門家によると、バイデン大統領が誕生しても、結局は手足を縛られる形になる可能性がある。 オバマ政権で財務次官として経済問題で対中交渉に当たったネイサン・シーツ氏は「バイデン氏が大統領に就任した場合で、その後半年から1年で取り得るシナリオが読めない。今の政治的環境は、左派からであっても右派、中道派からであっても、バイデン氏に対中強硬姿勢を求めようとしている」と語る。 自由貿易から公正な貿易へ バイデン氏は約30年の議員生活で自由貿易を支持してきた。グローバル化の強化は繁栄の道と見なされていた時代だ。同氏は1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟をいずれも支持した。 副大統領としても、オバマ政権がアジアでの中国の影響力拡大への対抗策とした環太平洋経済連携協定(TPP)の熱心な提唱者だった。 自由貿易を擁護するこうした姿勢はまさに、トランプ氏がバイデン氏に対し「中国に弱腰」で、米国の雇用が低賃金の国々に流出するのを許していると攻撃する材料だ。 ===== これに対しバイデン氏は、自分は通商障壁を使うことにたじろがないが、そうするのは意味があるときだと反撃してきた。5月には全米鉄鋼労組に向けて「必要なときには関税を使う。しかし自分とトランプ氏が違うのは、自分にはこけおどしだけのためでなく、結果を勝ち取るために関税を使うための戦略、つまりプランがあることだ」と表明した。鉄鋼とアルミの関税については、中国に主に集中する生産過剰への世界的な抑制策が交渉されるようになるまでは、継続させるとも強調した。 バイデン氏が掲げる「すべてメード・イン・アメリカ」の経済プランが示すのは、気候変動問題の目標が未達な国への排出量に基づく制裁関税だ。これは地球温暖化問題で米国による解決主導を強く望む進歩派を喜ばせる可能性がある。 プランにはWTOの改革の約束、中国など他国による不公正な慣行に対する「積極的な通商措置の行使」も盛り込まれている。この対象には為替操作、ダンピング輸出、国営企業の待遇、不公正な補助金などが含まれる。 通商問題で同盟国と和解 バイデン陣営の政策顧問のジェフ・プレスコット氏によると、バイデン氏がトランプ氏と違いを示すもう一つの点は、中国への最善の対処方法について同盟国に相談することだ。欧州や日本などの同盟国と協調すれば、中国問題を巡って世界経済の大きな部分に影響力を与えることができるとし、具体的には非市場的な慣行の抑制やWTO規則の改定を挙げた。 トランプ氏へのブルーカラー労働者の支持は、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの激戦州で引き続き多い。しかし、バイデン氏は米国最大労組に支持されている。 米労働総同盟産別会議(AFL・CIO)のリチャード・トラカム会長は3日、バイデン氏について、新型コロナの中で労働者の安全を守るための規則を導入し、不可欠なサプライチェーンの米国回帰を促すための税制優遇を活用し、大規模なインフラ投資にも積極的で、国内での強力な「バイ・アメリカン」(米国製品購入)措置を義務づけてくれると確信していると述べた。トランプ氏については「広げた大風呂敷に見合ったことを実現していない」とした。 コンサルタント会社ユーラシア・グループのマネージングディレクター、ジョン・リーバー氏によると、バイデン氏が提案していることはトランプ氏とは違った経済ナショナリズムであり、この目標は「対中関税の引き下げとはまったく矛盾する」という。 それでもバイデン陣営の顧問陣は、政策決定がどうなろうとも、トランプ政権前の通商を巡るコンセンサス、つまりグローバル化をうたいながら、通商障壁の継続的な縮小を米政府に米企業が訴えてきたような状況には戻ることはないと語る。 顧問の1人は「国際的な経済政策上の最終目標は、多国籍企業の事業環境を安全にすることではなく、米国内の雇用と中流層の問題と国内経済の強化が基本だ、との一種の認識がある」と話した。 (David Lawder記者、Trevor Hunnicutt記者)[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【話題の記事】 ・中国・三峡ダムに過去最大の水量流入、いまダムはどうなっている? ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・戦略性を失った習近平「四面楚歌」外交の末路 ・世界が激怒する中国「犬肉祭り」の残酷さ   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。