ナイジェリアの首都アブジャで慈善団体の調査員として働くロベス・メティボバさんは赤ちゃんが下痢を起こした時に、自宅近くの診療所に行くと2人とも新型コロナウイルスに感染するのではないかと不安になった。「診療所に行くことを考えると、とても怖かった」という。 この診療所はナイジェリアの医療ハイテク会社イーヘルス・アフリカが運営しており、来所しなくても済むようにメティボバさんに医者とのビデオチャット用のリンクを送った。 新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)が続く中、世界中で医療のあり方に大きな変化が生じており、医者の診察は対面ではなくオンラインによる遠隔の問診で行われるケースが増えている。 とりわけ、医療へのアクセスが難しい場合が多々あるアフリカはこうした変化が劇的で、オンラインによる診療や医薬品販売を手掛ける企業の成長が期待できる。診療所はビデオチャットによる診察で赤ちゃんの症状は軽いと診断し、脱水症状を防ぐ薬を処方した。 メティボバさんが利用したオンライン診療システムを開発したキュアコンパニオン(米テキサス州)のムクル・マジムダル最高経営責任者(CEO)によると、今年のアフリカでの事業は昨年の12倍に拡大。アルメニア、ホンジュラス、インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、ナイジェリアの7カ国のオンライン診療は10倍に増えた。 診療記録のデジタル化を専門に手掛けるナイジェリア企業のヘリウム・ヘルスは事業を拡大し、2月にオンライン診療システムを立ち上げた。当初は今年もっと遅い時期の開始を予定していたが、新型コロナ流行に伴う需要増に対応し、立ち上げ時期を前倒しした。 ヘリウムは5月、中国のインターネットサービス大手、騰訊控股(テンセント)などの投資家から1000万ドル(約10億6000万円)を調達した。幹部によると、病院や診療所など数十カ所が契約を結んだという。 ラゴスのビクトリア島で診療所を運営するンゴジ・オニア氏によると、ヘリウム・ヘルスへの支払いは月15万ナイラ(394.22ドル)。オンライン診療の料金は1件当たり1万ナイラと対面方式の半分で、患者のほとんどがオンライン方式を選ぶという。 民間資金も流入 新型コロナ流行前から公共医療の専門家や投資家は以前から、人口が急増するアフリカの医療需要への対応に遠隔医療が役立つと考えていた。アフリカで医療サービスを提供するハイテク企業には、開発機関やベンチャーキャピタルからも資金が流れ込んでいる。 米サンフランシスコに拠点を置く投資会社パートテックのデータによると、ベンチャーキャピタルからアフリカの医療ハイテク企業への資本投資は昨年が1億8900万ドルと、17年と18年のそれぞれ2000万ドル前後から大幅に増加。新型コロナ流行による混乱にもかかわらず、今年上半期は約9700万ドルに達している。 ===== ルワンダで2016年に業務を開始した米カリフォルニア州のドローン企業ジップラインは、昨年1億2000万ドルの出資を受けた。同社はルワンダに2カ所のドローン離着陸拠点を設置し、国内の95%の地域をカバーできると見ている。 ジップラインは2019年にはガーナにも進出。同国が今年5月にロックダウンを行った際には政府から協力要請を受け、ワクチンや防護服などを配送した。ガーナ政府はジップラインの業務拡大について同社と協議している。 アフリカで最も人口の多いナイジェリアもハイテク企業が役立つ余地が大きいとみられている。アブジャの当局は、新型コロナ検査の結果が陰性だった場合に自動でテキストメッセージを送るシステムの構築に向けて、イーヘルス・アフリカの慈善事業部門に相談を持ちかけた。 ナイジェリア疾病予防センター(NCDC)の責任者は、検査結果の自動処理により検査数を増やせるとの見方を示した。 経済危機が影響 新型コロナ流行はハイテク医療企業にとって追い風だが、アフリカの経済問題が一段と深まる要因にもなった。国際通貨基金(IMF)の推計によると、サハラ以南のアフリカ諸国の今年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス3.2%と予想されている。またアフリカ連合によると、新型コロナ流行によりアフリカ全体で約2000万人が職を失う恐れがあり、そうなれば国民の医療費負担能力は低下する。 そもそもアフリカ諸国は海外諸国に比べて医療支出が少ない。ブルッキングス研究所のデータによると、アフリカの人口は世界全体の16%だが、2015年の全世界の医療支出に占める比率は1%に過ぎなかった。国民1人当たりの医療支出で見ると、諸外国はアフリカの10倍に達する。 インターネットの接続環境の悪さや不安定な電力供給も、医療ハイテク技術導入の障害になるだろう。 メティボバさんはインターネットの接続性が悪い問題に対処するため、2つの回線を使い分けている。費用はかかるが、遠隔診療のために今後もこの方法を続けるつもりだという。 (Alexis Akwagyiram記者)[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【話題の記事】 ・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。