<トランプの宇宙政策からデブリ問題、注目の日系宇宙ベンチャーから宇宙での軍拡競争まで、米代理大使とNASAアジア代表が最新の宇宙事情を明かす> 宇宙開発が世界で花盛りだ。特に今年の夏はアメリカ、中国、そして日本のH2Aロケットを利用したUAE(アラブ首長国連邦)が相次いで火星探査ロケットを打ち上げるなど、各国の宇宙に懸ける熱量が実感される季節となった。なかでもメディアの注目度が高かった宇宙関連ニュースといえば、5月に打ち上げられた米宇宙開発ベンチャーのスペースXの宇宙船「クルー・ドラゴン」が国際宇宙ステーション(ISS)への有人輸送を成功させた一件だろう。 アメリカがISSに有人宇宙船を打ち上げるのはスペースシャトル以来約9年ぶりで、しかも民間企業が実現させたのは世界初とあって、「宇宙大国」アメリカ復活の兆しを印象付けるものとなった。ではアメリカが現在、軍事目的や民間参入など様々な形で宇宙開発に力を注いでいる事情の背後には何があるのか。日本がそこに占める位置とはなにか。ジョセフ・ヤング駐日米臨時代理大使とNASA(米航空宇宙局)アジア代表部のガービー・マッキントッシュ代表へのインタビューから探った。 「まずは大統領が個人的に宇宙に情熱を抱いていること。そして宇宙で活発になっている民間企業の活動において、アメリカのビジネスの存在感を大きくすることを願っていること」。ヤング代理大使はドナルド・トランプ米大統領がなぜ就任以来、宇宙事業を重視してきた理由をそう語る。クルー・ドラゴンのミッション成功に結実した宇宙探査の民間参入拡大はオバマ前政権時代にはじまったものだが、トランプは5月のロケット発射をケネディ宇宙センターに駆け付けて見守っている。「アメリカが第一」かつ「アメリカが一着」の「アメリカ・ファースト」を宇宙分野で発信するための力の入れようは明らかだ。 またトランプ政権発足後にはブッシュ政権時代に打ち出され、オバマ時代には一旦中止となった月面と火星の有人探査を目指す計画の流れをくむ「アルテミス計画」が発表されているほか、国防面では宇宙軍も創設された。「アメリカのプレゼンスをあらゆる領域においてより強くしようとする大統領の取り組みの一環」だとヤング代理大使は説明しつつ、そのモチベーションの背後には将来に向けて大統領の「レガシー(功績)」作りもあるようだと冷静に指摘する。「アルテミス計画を数十年後に人々が振り返るとき、火星に到達したのはトランプ政権の功績だと思い出されることがレガシーとして重要なのだろう」。 ジョセフ・ヤング米駐日臨時代理大使(左)とNASAアジア代表部のガービー・マッキントッシュ代表 U.S. Embassy in Japan 日本の技術力への期待 オバマ政権時代には有人月探査のための「コンステレーション計画」がコストの超過などにより中止された。NASAのマッキントッシュ代表は、その後トランプ政権になってから予算は毎年増加傾向にあり、政府のサポートは手厚くなっていると認める。「2017年にトランプ大統領が(アルテミス計画の元となった)宇宙政策指令第1号に署名してから、NASAとしては月を目指し、やがては火星を目指すという方向性が明確になった」。このNASAの当面の目標についてヤング代理大使は、「今後(地球表面から高度2000キロ以下の)低軌道の領域に関しては民間のサービスが増えていくと期待しており、その分余ったリソースを月や火星などの深宇宙の探査に向けていきたい」と政府の立場を述べる。 ではそのなかにあってアメリカは日本にどのような役割を期待しているのか。アメリカ政府は「日米同盟の一つの柱として宇宙協力を捉えている」とヤング代理大使は言う。「日本とは50年、宇宙協力をしてきた歴史がある。日本は優れた技術力があり、自由主義陣営では2番目の経済規模。宇宙探査を行う上では自然なパートナーだ」。 そしてそうした日米協力の最新の形はやはりアルテミス計画だ。元々カナダやEUなども含む国際プロジェクトとして進行しており、7月には文部科学省とNASAが日本人宇宙飛行士の月面着陸などを含む日本の役割について明記した共同宣言を発表している。そのなかで、月の周回軌道上に建設して火星探査への足がかりも担う宇宙ステーション「ゲートウェイ」の居住棟建設や物資補給などについては日本が担当する青写真が示された。 アルテミス計画に参加する可能性のある「尊敬されるべき」企業としてヤング代理大使が引き合いに出したのが、IHIや三菱重工、川崎重工などすでに長年の実績ある大企業。だが、それ以外の新興企業群にもアメリカ政府は注目しており、参加への期待感を示している。 「例えばアイスペースは月面用の小型ローバーを作っているほか、月面で使う計測器も手掛けている。アクセルスペースなどは小型衛星を手掛けており、アストロスケールはスペースデブリ(宇宙ゴミ)に対応している(※3社とも東京の宇宙系ベンチャー)」とすらすらと代理大使の口から名前が挙がる。固有の領域に強みを持つ日本企業に対してのアメリカ側の期待の大きさが垣間見える。 <関連記事:宇宙観測史上、最も近くで撮影された「驚異の」太陽画像> <関連記事:宇宙に関する「最も恐ろしいこと」は何? 米投稿サイトの問いかけにユーザーの反応は> ===== なかでも日本に一日の長があるとみられているのはデブリの処理だ。地球の軌道には使用済みの人工衛星やロケットの破片などのデブリが無数に漂っており、衛星やISSに衝突すれば甚大な被害をもたらしかねないため、その除去は死活問題だ。アメリカとロシア由来のデブリが多いが、衛星攻撃兵器の実験などを行った中国のデブリも近年急増している。アストロスケールと日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は共同で世界初となる大型デブリ回収の実証実験に取り組む予定で、日本政府もデブリに関する国連宇宙部との共同声明に署名して国際社会への関心の喚起に取り組んでいる。 「ホワイトハウスもこの問題を注視している」とヤング代理大使は述べる。18年にはトランプ大統領がデブリを含む宇宙を漂う物質に関する管轄省庁に商務省を充てる大統領指令に署名している。「地球低軌道でこれから商業開発が活発になっていくことを考えると、デブリの問題は避けて通れない。この分野においてデブリの特定、追跡、除去などで日本との協力がありうると思っている」。 中国の例に見られるように、この問題は軍事と重なりあう部分がある。NASAとしても、宇宙利用の増大に伴いデブリが増えてきていることと、宇宙空間の軍事利用が増えてきていることの2つを大きな課題を認識している、とマッキントッシュ代表は言う。ヤング代理大使も「ロシアや中国が軍事的な意味での対宇宙能力を開発していることへの懸念」はあると述べる。デブリの監視を含む宇宙状況の把握のため、日米の防衛当局は日本の衛星にアメリカの監視センサーを搭載するプロジェクトを進めており、これはこうした軍事・非軍事的課題に同時にアプローチするものといえる。 日本の協調外交への評価 とはいえ、アメリカは少なくとも現時点では日本に自国と一体となり宇宙空間で覇権争いを繰り広げることまでは求めていない。宇宙の平和利用を定め、日米中など110カ国が批准した1967年発効の宇宙条約はまだ生きている、ともヤング代理大使は強調する。またアメリカは国連の宇宙空間平和利用委員会での日本の取り組みなど日本の協調外交を高く評価しているという。「多国間関係で非常に効果的な活動している国というとまず日本が挙がる。世界中の国と宇宙で協力することを考えるときに、世界中の国と付き合いのある日本が参加することは期待感を上げるし、『増幅効果』が見られると思っている」とヤング代理大使は言う。 しかしここに一種のジレンマがある。日本が将来的に宇宙でも日米軍の一体的運用をさらに推し進める方向を選べば、このポジティブな「増幅効果」を呼び込む日本独特の立場も失われかねない。こうした地球上では使い古されたされたジレンマが、今までは考えなくても済んだ宇宙にまで及んでいる。宇宙関連の政策は軍事や経済など幅広い領域で地上との連動が強まりつつあり、次第にどっちつかずの態度は通用しなくなるだろう。 技術的協力などだけでなく、軍事的にもどこまで宇宙での日米同盟を深化させるのか。急速に発展する宇宙開発の環境のなか、日本が決断するために残された時間はおそらく少ない。 <関連記事:宇宙観測史上、最も近くで撮影された「驚異の」太陽画像> <関連記事:宇宙に関する「最も恐ろしいこと」は何? 米投稿サイトの問いかけにユーザーの反応は>