<「猛獣使い」安倍の巧みなトランプ対応が日米同盟の崩壊回避に役立ってきたが> 2016年11月にドナルド・トランプ米大統領の誕生で不意打ちを食らった中に、日本政府の外交政策組織もいた。大統領選から数日間、安倍晋三首相の非公式の代理人はニューヨークにいながら、トランプ・タワーにいる誰とも接触できずにいた。 それでも最後は交渉がまとまり、11月17日に安倍は外国の首脳として初めて、当選後のトランプと会談した。トランプ・タワーでの会談には、長女のイバンカ・トランプとジャレッド・クシュナーの夫妻も姿を見せた。 安倍とトランプがボクサーなら、安倍はこの4年間で、殴られる前に相手を抱き締める「クリンチ」を完璧にマスターした。トランプは過去30年の大半を通じて、アメリカを利用していると彼が思う国々──中国、韓国、日本、中東諸国──を非難してきた。 安倍は、トランプに近づけば近づくほど殴られても軽傷で済むことを、本能的に知っていた。貿易問題でも、在日米軍の駐留経費負担を減らしたいというトランプの周知の願望についても。 日米の貿易協定は、アメリカにとって有利な交渉が進められてきた。一方で、トランプは在日米軍を撤収させるといった大きな動きを取ることはなかった。 ただしこれらは、安倍がトランプを抱擁した成果だったのかもしれない。安倍の後継者となる日本の新しい指導者に、彼と同じようなスキルがあればいい。ないのなら、駐留米軍を撤収するか、アメリカが同盟国である日本を防衛する費用を全額日本に払わせるか──という二者択一をトランプが迫った場合、もはや拒むことはできないだろう。 予測不可能な大統領 9月14日に投開票が行われる自民党の総裁選挙は、安倍の側近の岸田文雄と菅義偉、そして安倍が敬遠しているといわれる石破茂の3人で争われている。 安倍は公然と誰かを支持したわけではないが、昨年は一時期、後継者には岸田がふさわしいと示唆していたといわれている。しかし、総裁選直前の現段階では菅がほぼ当確とみられる。この数カ月、菅は日本政府の顔として、新型コロナウイルス危機に関してテレビに出ずっぱりだった。(編集部注:14日の自民党総裁選で菅義偉官房長官が新総裁に選出された) アメリカでトランプが再選されれば、安倍の後継者は、日本は不公平な貿易協定にただ乗りして防衛協定の恩恵を一方的に受けているわけではなく、アメリカにとって地域の重要な同盟国だとトランプに思わせなければならない。 ===== 民主党候補のジョー・バイデンが大統領になれば、日米関係はある種の均衡を取り戻すだろう。しかし相手がトランプなら、難しい関係になるかもしれない。 安倍は自ら宣言した目標の多くを達成できなかった。アベノミクスは、停滞している日本経済にあまり影響を与えなかった。平和主義憲法の改正は果たすことができず、北朝鮮の拉致問題もほとんど進展はなかった。 しかし、予測不可能な米大統領との関係を最初から巧みに操り、日米同盟の崩壊を回避することには成功した。安倍のやり方が違っていたら、悲惨な結果になりかねなかったのだ。 <本誌2020年9月22日号掲載> 【関連記事】菅首相選出に国民はしらけムード、日本の統治体制は死に体だ 【関連記事】安倍晋三の真価とは......日本は「あまり愛されなかったリーダー」を懐かしく思い出すかもしれない ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。