<将来的な生産停止を回避するべく、日豪印を中心に進められるインド太平洋地域におけるサプライチェーンの再構築。背後には、対中関係悪化に伴う政治的動機も> 日本、オーストラリア、インドの3カ国が9月1日に共同提案した「サプライチェーン強靱化イニシアチブ(RSCI)」は、世界経済秩序の変化を示唆する動きだ。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)に対応したインド太平洋地域のサプライチェーンの再構築を目指すもので、同地域における国境を越えた生産ネットワークの在り方を根本的に変える可能性がある。 今回のパンデミックは既存のサプライチェーンの弱点を浮き彫りにするものだった。域内各国のロックダウン(都市封鎖)と生産停止は、原料と最終製品の世界的な流通に甚大な影響を与えた。 何十年にもわたり経済効率性を主眼に構築されてきた地域内のサプライチェーンは、明らかに新型コロナのショックに対応できなかった。予期せぬ混乱への耐性を高めるためには、サプライチェーンの見直しと再構築が必要だ。 日豪印を含むインド太平洋諸国は混乱のリスクを最小化し、回復力を高めるために、サプライチェーンのさまざまな分野で調達の多様化を図ることが喫緊の課題となった。将来の生産停止を回避するためには、貿易・経済面で「中国離れ」を進める必要がある。 この動きの背後には、日豪印とアメリカの対中関係悪化に伴う政治的動機もある。中国に対する安全保障上の懸念が高まるなか、これらの国々にとって中国を除外したサプライチェーンの再構築は主要な政策目標の1つになった。 半導体、自動車、医薬品、通信などの分野でサプライチェーンを安全保障上の脅威のない国に移せば、より広い意味での戦略的な中国の「切り離し」にもつながると、RSCIの支持者は期待する。強圧的な中国に対抗する国々の協力強化にもなる。 政治・安全保障上の強い動機がなければRSCIは生まれなかったはずだ。例えば中印国境の緊張は、ここ数十年で最悪のレベル。オーストラリアも、自国ジャーナリストの強制送還などで対中関係が大きく悪化している。日本も尖閣諸島の領有権問題が何度も蒸し返され、対中感情が悪化している。 RSCIは地政学的要因を主眼に生産ネットワークと貿易関係を再構築しようとするものだ。通常、サプライチェーンの成長を決定付ける要因は経済効率性であり、「中国外し」を成功させるためには関連企業への政策的支援が必要になる。 例えば日本は、中国から生産拠点を移転する企業に補助金を出している。当初は国内回帰や東南アジアへの移転が対象だったが、最近インドやバングラデシュも対象に追加された。 ===== RSCIの長期的成功は、日豪印と東南アジア諸国がどれぐらい参加し、サプライチェーン成長のための共通ルールで合意できるどうかに大きく左右される。投資での優遇措置、サプライチェーンに特化した関税の取り決め、品質基準、原産地規則、データ移転のルール、紛争解決メカニズムなど、全てを早急に合意する必要がある。 ポストコロナの世界では、地政学的・経済的な反中同盟が形成されるだろう。RSCIはその最初の例の1つだ。同時にRSCIは、ポストコロナ時代の世界経済秩序が、特定の政治同盟から成る生産ネットワークのブロック化に向かう可能性も示唆している。この試みが成功すれば、他の地域でも同様の動きが始まるかもしれない。 From thediplomat.com <本誌2020年9月22日号掲載> 【関連記事】サプライチェーン中国依存の危うさを世界は認識せよ 【関連記事】世界の脱中国の波にのって、インドが「世界の工場」を目指している ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。