<国際的評価を損ねた習政権が影響力を及ぼす手段は武力だけになった。「クアッド」の戦略的連携を深め、そのコストが高くつくと認識させるべきだ。本誌「誤解だらけの米中新冷戦」特集より> 中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は今年の新年祝辞で、2020年は「里程標の意味を持つ1年」になると語った。この予言は的中したものの、あいにく習が描いていた形ではなかった。 この祝辞で習は「われわれの友は天下にあまねくいる」と胸を張ったが、そんなことはない。中国は国際的評価を損ね、友好国とも疎遠になり、影響力を及ぼす手段は1つしかなくなった。武力に訴えることだ。 後世の歴史家は2020年を分水嶺と見なすだろう。新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの国が中国頼みのサプライチェーンの危険性を思い知り、中国の共産主義体制への態度も変化した。特にインド太平洋地域で拡張主義的な姿勢を示していることで中国は孤立し、周辺国は対抗する準備を始めている。 日本は、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカの機密情報共有の枠組みである「ファイブ・アイズ(5つの目)」との連携拡大を探り始めた。もし日本を加えた「シックス・アイズ」が成立すれば、インド太平洋地域の安全保障に重要な役割を果たすだろう。 「クアッド」と呼ばれるオーストラリア、インド、日本、アメリカの4カ国も、戦略的連携を深める構えだ。インドは近年、中国に協調的だったので、特筆すべき方向転換となる。 最近の中国はインドに対して攻撃的だ。4月下旬以降、中国軍がインド北部の係争地域で部隊を展開し、長年の領土紛争が再燃。これにより、インドのナレンドラ・モディ首相は対中戦略の変更を迫られた。 モディは今年、日米と毎年開催している海上演習「マラバール」に、オーストラリアの招待を検討している。オーストラリアはこの演習に2008年から参加していないが、インドは中国を刺激することを恐れて復帰の呼び掛けをためらっていた。オーストラリアが戻れば、クアッド4国がそろった海上演習の枠組みが成立する。 周辺主要国の戦略的な結び付きを深める次の一手は、より具体的な協力にならざるを得ない。問題は日米豪印の安全保障上の利益が必ずしも一致しないことだ。 もうご都合主義は通じない インドと日本にとって、中国の脅威は重大かつ差し迫ったものだ。インドは中国との間に国境紛争を抱え、日本では中国の公船が尖閣諸島沖の領海を侵犯する頻度が増している。特にインドはクアッドで唯一、中国に対して陸上の防衛態勢を敷いており、軍事衝突の危険性は常にある。 ===== アメリカは中国との陸上戦は考えていない。アメリカの主な目的は、中国の地政学的、経済的な挑戦が世界での自国の優位を崩さないことだ。オーストラリアは地域の安定と、輸出の3割を中国に依存する経済を何とか両立させたい。だが中国の拡張主義が続けば、このご都合主義の戦略も通用しなくなる。 日本の河野太郎防衛相(当時)は8月、南シナ海や東シナ海、香港で現状を変更しようという中国の姿勢は「高いコスト」を払うことになると述べた。そのとおり、コストが「高い」という点が強調されるべきだ。拡張主義のコストが対処可能な程度なら、習は外交政策を変えようとしない。 イタリアの思想家マキャベリは、君主は「愛されるより恐れられるべきだ」と論じたが、今の習は恐れられるより憎まれる存在だ。そこに隙があるはずだが、周辺の主要国が歩調を合わせなければ、それを突くのも不可能だ。 各国は共通のビジョンの下、確かな戦略を取らなくてはならない。さもないと中国は地域を不安定化させることも、あるいは戦争さえもいとわずに、武力に訴え続ける。 ©Project Syndicate <2020年9月22日号「誤解だらけの米中新冷戦」特集より> 【関連記事】中国とのライバル関係を深刻に扱うべきでない理由 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。