<儒教が根付いた韓国では、映画の世界でも男が主役でないとヒットしないと言われていたが......> 皆さんは、「ベクデルテスト」と呼ばれる基準をご存じだろうか?これは、1985年にアメリカの漫画家アリソン・ベクダル氏が作ったジェンダー差別をなくすための映画作品の基準である。ベクダル氏にちなんで、「ベクデルテスト」と呼ばれている。 クリアの基準はとてもシンプルだ。映画作品中「最低でも2人以上の名前付きの女性のキャラクターが登場」し、「女性キャラクター同士の会話」があり、「その会話は男性のこと以外」の内容かどうかである。映画の内容が男性中心に片寄ってしまわないよう、性別の平等化を守るためにできたテストである。 韓国映画におけるジェンダーバイアス 9月上旬、韓国文化体育観光部(韓国政府の「部」は日本では「省」に相当)と韓国監督協会が、去年から今年上半期にかけて公開された韓国映画のうち、このベクデルテストをクリアし、多様性を認めていると判断された優秀な推薦映画10本を発表した。今回はこの10本を通して韓国映画におけるジェンダーバイアスの状況を見てみたい。 韓国内でベストセラーになりつつ社会現象を巻き起こし、その後各国語で翻訳出版された小説『82年生まれ、キム・ジヨン』は、日本でも2018年末に出版され、発売時には多くのメディアで取り上げられたため、書名を聞いた方もいるかもしれない。 これを映像化した映画は韓国で2019年の10月に公開され、日本ではこの10月9日に公開予定である。韓国女性として当たり前だと受け入れていた日常に、違和感をもちはじめた女性・ジヨンに共感する女性が後を絶たず、高い人気を得た。 今年の6月、ひと足先に日本公開され話題となったのが、第69回ベルリン国際映画祭(ジェネレーション14プラス部門)など、世界中の映画祭で合計59冠を受賞した映画『はちどり』だ。自分に厳しい父、暴力的な兄を持ち、学校でも周囲にいまいち馴染めない14歳の少女ウニは、ある日漢文の先生ヨンジと出会い、世界の見方が広がっていく。 監督のキム・ボラ氏は、81年生まれの女性である。『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公と1歳違いであり、また79年生まれの筆者とも同世代だ。日本人である筆者だが、二十歳まで日本で育ち、20~30代をほぼ韓国で過ごした身としては、共感できる部分が多く感じた。 ===== 北海道の小樽でも撮影が行われた『ユンヒへ』は、20年以上会っていない初恋の女性から母への手紙が届き、それを知った娘が母親と共に日本へ会いに行くストーリーである。韓国では珍しい女性同士のクィア映画であり、さらに中年女性同士の愛情をフィーチャーした点はかなり話題となった。 公開後からすぐに話題となった『フランスの女』は、観客動員数1万人を超えると成功と言われる韓国インディーズ映画業界において1週間でそれを達成し注目を集めた。 不倫によって壊れていく2つの家庭を描いた、俳優キム・ユンソクの監督デビュー作『미성년(未成年)』は、キム・ユンソクが父親役で出演し、彼お得意のシリアスな中にユーモラスな演技を見せている。 ほかには、スポーツを通して女性を描くのは、134キロの速球を投げる優秀な投手でありながら、女性というだけでプロ野球選手になれない苦悩を描いた『野球少女』。公務員試験に何度も挑戦するも失敗し続けてきた31歳の女性がランナーと出会い、韓国のキャリア社会や年齢に縛られず、自分の理想を見つけていく物語『아워 바디(Our Body)』。 家庭の問題を解決すべく立ち上がった3人の女の子の話『我が家』。ファンタジーコメディー要素を多く含みながらある女性プロデューサーの生活を淡々と綴る『チャンシルは福も多いね』。大阪アジアン映画祭2019で公開された理不尽コメディ『메기(なまず)』が選ばれている。 10作品中7作品が女性監督 以上10作品が今回選定された作品なのだが、特徴としては女性の人生や生き方にフォーカスを当てている点があげられる。また、監督が10作品中7作品で女性という点も注目されるところだ。 筆者が韓国で就職した2社目の会社は映画の制作会社だった。多くの映画を企画し制作していく中で、当時から現場では「韓国映画は女性が主人公の映画は少ない」「俳優は足りないけど女優は余っている」と言われてきた。 ===== 韓国では男性を主人公にしたアクションや、クライム/ノアール系ジャンル映画の人気が高く、多く製作されるため仕方ないのかもしれない。しかし、監督は主人公に自信を投影してシナリオを書き、作品を作り上げることがある。今回韓国で推薦映画に選ばれた作品のように女性監督が増えれば、今より女性に共感を呼ぶ作品がもっと生まれるはずだ。 今月1日~7日、韓国ではこのテスト名から「ベクデル・デー2020」というイベントが文化体育観光庁の政府主催で開催された。ジェンダーの平等化をコンセプトに、映画作品の内容はもちろん、撮影現場での差別をなくすためのシンポジウムなども行われた。 その中で、映画評論家であるチョ・ヘヨン氏は、「2009年から2018年の10年間に制作された韓国映画のうち約半分しかベクデルテストに合格することが出来なかった」とし、「その作品のうち女性監督の映画は、2009年で15.2%から2018年には12.8%と実は減少傾向にあった」「スタッフや制作側の女性の比率は約20%程度とまだまだ男性社会である」と語っている。 女性キャラの重要度も考慮せよ 一方で、このテストには賛否両論あるのも確かだ。基準を男女のみで判定する点や、出てくる女性キャラクターの重要度ではなく人数のみで判断している点が問題視されている。ハリウッド映画『パシフィック・リム』は、主要女性キャラクターが菊地凛子のみであり当然ベクデルテストは合格していない。 しかし、菊池凛子氏演じるマコは1人でも強烈な印象を残している。これにちなんで、「マコ・モリ・テスト(菊地凛子の役名"森マコ"が由来)」がネットユーザーを中心に作られた。テストクリアの条件は、「劇中1人以上の女性キャラクターが登場し、彼女自身の物語があり、その物語は男性キャラクターを支えるためのものではない」ことが条件だ。 韓国はここ数年MeToo運動やフェミニズムの意識が高まりを見せている。国が率先してこのようなキャンペーンを開催するのも進んでいる証拠だろう。日本では一体どれくらいの作品がこのテストをパスすることができるだろうか。また、ベクデルテストの存在すら知らない人も多いのではないだろうか? これからしばらくは、こういったテストを基準に男女の平等化を守っていくことは大事だが、いつの日か登場人物の性別を意識しなくなり、わざわざベクデルテストなどする必要のないバランスの取れた映画界になることを願っている。 【話題の記事】 ・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月29日号(9月23日発売)は「コロナで世界に貢献した グッドカンパニー50」特集。利益も上げる世界と日本の「良き企業」50社。PLUS 進撃のBTS ===== 10作品中7作品が女性監督 ベクデルテストクリアの10作について紹介する韓国メディア JTBC News / YouTube 【話題の記事】 ・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ ・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる ・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死