<米シンクタンクの机上演習が示す日米共闘のシナリオと米中対立の血みどろの惨劇> 2030年。東シナ海にある日本の島を、中国軍部隊が占領した。日本は両用戦タスクフォースを派遣し、直ちに到着した米軍の軍艦や航空機が同行する。 日本を支援せよ。ただし、中国軍部隊との戦闘は回避せよ──それが米軍側の指令だった。 そのもくろみはたちまち崩れる。ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)が実施した机上演習によると、米軍が介入すれば、中国軍部隊との交戦を避けることは不可能だ。 「危険なゲーム──2030年、東シナ海危機」と題した演習が実施されたのは今年7月22日。このシミュレーションには、一風変わった工夫が盛り込まれていた。テレビ会議アプリ、ズーム(Zoom)を使って、CNASが提示する選択肢の中から、中国と日米それぞれの戦略を一般参加者に多数決で選んでもらったのだ。 アメリカやカナダから集まった一般参加者約400人の選択の「結果は重大だ」と、CNASのスザナ・ブルーム防衛計画担当責任者は言う。「どちらであれ、この対立の勝者が今後10年間のアジア太平洋地域の行方を決める可能性がある」 サイバー攻撃から航空戦へ 演習のシナリオは、トム・クランシーの軍事スリラー小説さながらだ。30年、東シナ海の尖閣諸島の魚釣島に中国軍兵士50人が上陸。中国政府は周囲約80キロ範囲内を自国の排他的経済水域(EEZ)に設定すると宣言し、本土の弾道ミサイルの傘の下、水上艦や潜水艦、戦闘機、ドローン(無人機)の一団を配置する。 日本の「防衛軍」(中国から見れば「侵略軍」)を構成するのは、沖縄に配備された航空機の援護を受ける強襲揚陸艦、護衛艦、潜水艦、特殊部隊や海兵隊だ。そばには米軍の空母打撃群2つ、および潜水艦やステルス戦闘機、爆撃機が控えている。 演習開始当初の交戦規定は息苦しいくらいに厳密だ。日本を支援する一方で、中国軍部隊との戦闘は避けるのがアメリカ側のルール。中国軍司令官らは、日本の部隊がEEZに入った場合は米軍に着弾させずに攻撃せよ、との指令を受けている。 両チームが用心深く動くなか、戦場マップの上では一連の応酬が展開された。レッドチーム(中国)もブルーチーム(日米)も主張を譲らず、レッドが「引き下がれ」と強硬なメッセージを発信する一方、ブルーは敵を撤退に追い込もうとする。 ===== だが、相反するともいえる目標と交戦規定を両立できるのか。 ブルーに最初に問われたのは、日本の艦隊がEEZに入った場合に想定される、中国の対艦ミサイル一斉射撃への対策だ。イージス防空システムを搭載した米軍イージス艦が日本艦隊を護衛すべきか、それとも米軍はサイバー戦を展開して中国側の指揮命令系統を妨害するべきか。一般参加者のうち6割の賛成を得たのが後者だ。 中国側も呼応する。日本艦隊へのミサイル攻撃か、サイバー戦による日本の命令系統妨害かとの問いに、一般参加者の54%が後者を選択。日米の多国籍チームは連絡網への依存度がより大きいため、サイバー攻撃合戦でより大きな被害を受けるのは日米だとの裁定が下された。 歴史でおなじみのパターンどおり、後はエスカレートする一方だ。EEZに入った日本の駆逐艦の多くを、中国戦艦が巡航ミサイル攻撃で沈める。報復として、日本の駆逐艦は中国の潜水艦1隻を破壊する。 ブルーは海上戦で終わりにせず、空軍力も動員する。日本側と共に、米軍のステルス戦闘機が尖閣諸島付近を飛行する中国の航空機を破壊。ターゲットの1つが、「空母キラー」ASBM(対艦弾道ミサイル)に標的データを送るドローンだ。 大損害を被った中国は米軍空母2隻をミサイル攻撃し、1隻を大破させる。決定的行動に出たのは終盤だ。ゲーム開始時から沖縄には日米の航空機が多数配備されていた。誘惑に負けた中国はミサイル攻撃で沖縄の基地の滑走路を壊滅させ、敵の航空戦力に深刻なダメージを与えた。 この時点で、シミュレーションは時間切れになった。 演習が終了する頃には、対立は膠着状態に陥ったようにみえた。中国は手痛い損害を負ったものの、魚釣島の占領を維持していた。もっとも、この手の防衛計画ゲームの主要な目的は勝者の見極めではない。 「地の利」があるのは中国 こうしたシミュレーションには主観的、または任意の要素が多過ぎるため、X国がY戦略によって勝利すると単純に断言することはできない。 CNASの演習では兵站や情報活動、世論形成、中国指導部や日米の同盟関係における政治的緊張が度外視されていた。中国で進む空母建造やF35ステルス戦闘機搭載に向けた日本の護衛艦空母化も考慮していない。さらに、現実世界の指導者はもちろん核使用の可能性を強く意識するはずだ。 この手のシミュレーションの価値は、むしろプロセスと洞察にある。ある出来事がどう展開し、ある決断がどんな理由で下され、どんな弱点と能力が浮かび上がるか──。 地の利を得ているのは中国だ。大量のミサイルを一斉射撃でき、都合のいい位置にある中国本土の基地から爆撃機や地上配備ミサイル発射装置に再装塡することもできる。 ===== 一方、米軍航空機は約2500キロ離れたグアムの基地か、航空機がひしめき、攻撃にさらされやすい沖縄の基地が拠点だ。ミサイルを発射した後、基地に戻って再装塡し、作戦地帯に戻るまでには何時間もかかる。 戦争行為は着実にエスカレートする。これこそ、今回のシミュレーションの最も重要な点だ。対立が始まった時点で、米中に互いを攻撃する意図はなかった。だがゲームが終わる頃には、両軍は艦船や航空機を破壊し合っていた。双方とも領有権争いを地域限定の対立にとどめるつもりだったのに、中国が沖縄にミサイルを発射する事態に発展した。 そこから浮かび上がるのは、ホワイトハウスの主にとって厄介な問いだ。トランプ政権は尖閣諸島の領有権問題で日本を支持すると言明しており、来年誕生する新たな米政権も同じ道を選ぶはずだ。 CNASの戦争ゲームが示すように、日中対立において日本の肩を持てば、米中の武力衝突というリスクが付きまとう。米中間で戦争行為が始まれば、歯止めがかけられないかもしれない。 From Foreign Policy Magazine <2020年9月22日号掲載> 【関連記事】中国とのライバル関係を深刻に扱うべきでない理由 【関連記事】中国は「第三次大戦を準備している」 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月29日号(9月23日発売)は「コロナで世界に貢献した グッドカンパニー50」特集。利益も上げる世界と日本の「良き企業」50社[PLUS]進撃のBTS ===== 中国初の空母「遼寧」のプロモーションビデオ