<社会の価値観が多様化するなか、それを映し出すスクリーンとその晴れの場にも多様性が求められている> 8月24日、ベルリン国際映画祭が2021年2月の映画祭からこれまでの「主演女優賞」「主演男優賞」など、2つの性別で分けられていた賞を「主演俳優賞」などで統一することを発表した。女優・男優賞以外の賞は性別で分けているわけではなく、さらに世界の流れは、ジェンダーの多様性を認めるという方向に向いている。 また、英語圏でも男女差別をなくそうと「アクター」「アクトレス」と分けずに統一して「アクター」にしようという動きもある。こうした流れを考えれば今回のベルリン映画祭の決定も当然と言えるだろう。今後映画界の多様性への動きはこれから活発になりそうだ。 アカデミー賞、2024年から受賞資格に多様性が必須に ベルリンに負けじと、9月8日には米国アカデミー賞の選考・授与を行っている映画芸術科学アカデミーも、公式サイトを通じて多様性を重視した受賞資格改正案「ACADEMY ESTABLISHES REPRESENTATION AND INCLUSION STANDARDS FOR OSCARS® ELIGIBILITY」を発表した。こちらは4年後の2024年から優秀作品賞に適用されるという。 米国アカデミー賞は、通常ベルリン同様毎年2月に授賞式が行われている。それなのになぜベルリンのように来年からすぐできないのか? それは今回の受賞資格改正が作品内容やキャスト問題だけではなく、制作過程にも大きくかかわっているため、その基準を満たす作品がそろうように4年間の猶予が与えられたようだ。 優秀作品賞ノミネート資格の改正内容は、大きく分けて4つの要素から構成されている。 A,「俳優・劇中の描写・映画のテーマについて」 B,「監督・作家・撮影監督等スタッフについて」 C,「インターンシップなど映画産業へのチャンスが開かれているかについて」 D,「マーケティング・広報について」 これら4つの中から2つ以上の条件を満たしていなければならない。ウェブサイトには各要素ごとに詳しく規定がされているのだが、発表後にまず注目を浴びたのは、映画そのものの内容だけでなく製作過程やスタッフにも多様性が求められるようになった点だ。 ===== 出演者のみならずあらゆる関係者が対象に 一例を挙げると、A,キャスティング項目では、A-1「最低一人は下記の人種を主人公もしくは主要キャラクターとして起用しなければならない」とある。その人種も細かく記入されており「アジア人、ヒスパニック/ラテンアメリカ系、ブラック/アフリカ系アメリカ人、先住民/ネイティブアメリカン/アラスカの先住民、中東系/北アフリカ人、ネイティブハワイン/または他の太平洋島民、その他少数民族/人種または民族」と決められている。簡単にいうと非白人種の起用が必須となる。 また、A-2では「脇役の30%以上は下記のうち2項目を満たしていなければならない」とし、その条件とは「女性、精神もしくは身体のハンディキャップのある人、LGBTQ+の人、ろうあ者もしくは難聴者・認知症者」であること。 さらにB,「監督・作家・撮影監督等スタッフについて」のB-1では、クリエイティブ部門のリーダー的役職には「以下の人がいなければならない」とされている。その条件は「女性、特定人種(非白人の意味)、LGBTQ+、身体もしくは精神的ハンディキャップがある或いはろうあ者か難聴者」であり、これはC-1「アシスタント/インターンシップ」、D-1「配給マーケティング部門」でも同じ条件での記載があり、今後は出演者だけでなく、制作側もマイノリティーの人たちを起用する必要があることが記されている。 この規定によって、非白人人種やハンディキャップのある人々、女性にはハリウッドと言う舞台への窓が大きく開かれた。 規定に合わせるために作品が歪む恐れ しかし、今後映画の設定を規定に合わせようとするがために、本来の話からちぐはぐな内容になってしまわないか心配する声もある。時代物や特定の地域で当時そこに住んでいなかった人種を無理やり登場させて、それが素晴らしい映画と言えるのだろうか? また、秀でた演技にまるでキャラクター生き写しのような女優と出会い、キャスティングしようとしても、その女優が非白人でなかったために諦めなくてはいけない場合「ごめんなさい、あなたは素晴らしいけれど、あなたの肌の色は採用できないの」と彼女に伝えるのだろうか? さらに、白人と特定人種の両親を持つ俳優やスタッフ希望者がいた場合、その人種は見た目で決められてしまうのだろうか? それはまた逆差別を意味するのではないか? ===== 文化的に誤った演出が少なくなる? スタッフのLGBTQ+指定も深刻だ。本人の心の問題をどう決定するのだろう。ジェンダーの問題はかなりセンシティブな部分である。家族や世間にカミングアウトしている人もいればそうでない人も多いはずだ。線引きすること自体難しい問題となる。 もちろん、スタッフ側にマイノリティーの人々が採用されると、これまであった文化的に間違った演出などが正されるという利点もある。例えば、アジアが舞台のハリウッド映画で、日中韓(またベトナムやタイ)の文化がごちゃ混ぜに紹介されたシーンはよくあることだったが、アジア人スタッフによって少しはましな演出になるかもしれない。また、多様性により特定の人種や障がい者、セクシャルマイノリティーの人たちに対して誤解を招くようなギャグシーンが減ってくれればと期待している。 「パラサイト」PD、アカデミー映画博物館の副議長に 今回はアカデミー作品賞の改正案について紹介したが、アカデミー関連で映画以外にもこんなニュースが報道された。先日、韓国最大の映画制作配給会社CJENTの副会長イ・ミギョン氏が「米国アカデミー映画博物館」取締役会の副議長に選出されたという。 彼女は、今年ポン・ジュノ監督の映画『パラサイト 半地下の家族』を米国アカデミー賞4冠に導いた人物であり、授賞式では記念写真に写っていたのでご存じの方もいるだろう。朴槿惠政権下では反体制寄りの文化人としてブラックリストに上がった1人で、そのために2014年韓国から米国に渡り、その後は海外エンターテインメントの場で活躍している。2017年には米国映画芸術科学アカデミー(AMPAS)会員になり、ついに博物館の副議長の一人にも任命された。 ちなみに、この理事会長はネットフリックスの共同CEOであるテッド・サランドス氏が務め、理事陣には、俳優のトム・ハンクス氏やルーカスフィルム社長のキャスリーン・ケネディ氏などそうそうたるメンバーが名を連ねている。来年4月(日本時間5月)開館記念にはなんと宮崎駿展が開催されるという。こちらも一体どのような多様性を見せてくれるのか、今から楽しみだ。 本来は、多様性など当たり前のことであり、このような規定でガチガチに縛らなくても、自然にそういった映画が世界中で作られることが理想である。しかし、今現在そうでない場合、最初の一歩として多少無理やりにでも始めてみることが重要だ。 あと数十年もすれば「このような古い規定がまだあったのか。」と皆が驚くほどの多様さを認め合える映画界になっているはずだと信じたい。 ===== 規アカデミー賞、歴史的な刷新 ベルリン国際映画祭に続き、米国アカデミー賞でも性別や人種の問題を意識した改革が進められつつある。 Good Morning America / YouTube