<外国首脳とすぐに打ち解けるタイプではなく、安全保障上の制約打破を目指した安倍前首相のような欲求もない。菅の登場で米中はどう動く?> 日本の新首相となった菅義偉は、農家出身の地味な政治家。政策面では、前任の安倍晋三の路線をほぼ継承するとみられている。 しかし安全保障政策については、日本の防衛力を高めるために安倍と同様の努力をするとは限らない。安全保障面で日本の姿勢はどう変わるのか。中国やアメリカはこの点に注目している。 菅は安倍のように政界の名門の出ではない。国際舞台でおなじみの顔になった安倍とは違い、外国首脳とすぐに打ち解けるタイプでもない。 菅には、戦後日本の安全保障上の制約を打破したいという安倍のような欲求もない。しかも今は新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う経済の落ち込みへの対策が優先課題だから、安全保障に手を付けるのは後回しになりそうだ。 「菅は経済に集中せざるを得ない」と、スタンフォード大学フーバー研究所のアジア研究者マイケル・オースリンは言う。「(国内の)改革を優先することになるし、コロナ対策もある。国際舞台で日本の立場を弱めたい勢力にとっては、いいチャンスだろう」 安倍は世界を飛び回って笑顔を振りまき、その行動は良くも悪くも海外の注目を集めた。靖国神社に参拝し、真珠湾を訪問し、トランプ米大統領との関係強化に力を入れた。 菅はそんな政治家ではない。安倍の右腕を長く務め、スキャンダルへの対応や党内融和のために磨き上げた地道なスタイルに徹するだろう。 安倍が目指した「より強腰の日本外交」という路線を、菅がそのまま引き継ぐかどうかは不透明だ。同盟諸国は菅に、日本が地域の主導権をより強固にし、軍事的プレゼンスの強化に力を入れることを期待するかもしれない。中国など周辺のライバル国は、菅に逆の姿勢を望むだろう。 安倍は憲法を改正し、日本が安全保障でより積極的な役割を果たすことを目指した。今回の辞意表明後には談話を発表し、敵のミサイル基地などを直接攻撃する「敵基地攻撃能力」を保有すべきとの主張をにじませた。専守防衛という日本の歴史的な原則を一歩踏み出した格好だ。 この先、菅の姿勢が試される局面が2つある。1つは年内に行われる国家安全保障戦略の改定。もう1つは、自民党内で進むミサイル防衛の在り方をめぐる議論だ。 だが、菅が安倍のように現状打破を目指すことはなさそうだ。「安倍は安全保障面で本当に変革を目指していたから、自ら扉をこじ開けようとした」と、米ランド研究所で東アジアの安全保障を研究するジェフリー・ホーナンは言う。「菅は既に開いている扉を探し、なるべく進みやすい道を行くだろう」 ===== 東シナ海の島の領有権などをめぐり日本と対立する中国にとって、菅の登場は様子見の時間になり得ると、オースリンは言う。「(中国が)賢ければ、菅に時間を与え、彼が安倍の政策をさらに進めることが可能かどうか見極めようとするだろう」 米政界も大統領選を控えて不確実な時期にある。日米両国には米軍駐留経費の負担をめぐる厳しい交渉が待っているが、ここはアメリカから菅に歩み寄るべきかもしれない。 「アメリカは安倍との(良好な)関係が偶然ではなかったことを示したほうがいい」と、オースリンは言う。「国際舞台で積極的な姿勢を取る新しい日本が日米関係の基礎になるということ、その関係は安倍がいてもいなくても変わらないことを示すべきだ」 From Foreign Policy Magazine <本誌2020年9月22日号掲載> 【関連記事】「スガノミクス」を侮るな 注目すべき独自路線の大きな可能性とリスク 【関連記事】日本人の安全保障意識を変えた首相......安倍が残した真のレガシー ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます9月29日号(9月23日発売)は「コロナで世界に貢献した グッドカンパニー50」特集。利益も上げる世界と日本の「良き企業」50社[PLUS]進撃のBTS =====