<豪フローリー神経科学メンタルヘルス研究所は、「新型コロナウイルス感染症により、パーキンソン病のリスクが高まるおそれがある」との研究論文を発表した> 南半球の豪州では、冬シーズンを迎えた2020年6月下旬から8月上旬にかけて新型コロナウイルスの感染拡大が広がり、人口が2番目に多い南東部ビクトリア州で現在も夜間外出禁止などの行動制限が課されている。 このような状況のもと、豪フローリー神経科学メンタルヘルス研究所の研究チームは、9月22日、学術雑誌「ジャーナル・オブ・パーキンソンズディジーズ」で「新型コロナウイルス感染症により、パーキンソン病のリスクが高まるおそれがある」との研究論文を発表した。 新型コロナウイルスの脳・中枢神経系の影響 責任著者であるケビン・バーラム教授は「新型コロナウイルスが脳や中枢神経系にどのように侵入するのかについてはまだ完全に解明されていないが、新型コロナウイルスが脳細胞を侵襲し、これに伴って神経変性をもたらすおそれはある」と警鐘を鳴らす。 どのくらいの量の新型コロナウイルスに感染すると症状が引き起こされるのかについては明らかになっていないものの、新型コロナウイルス感染症と脳腫脹や神経症候との関連はすでに示されている。 また、9月16日には医学雑誌「ランセット・ニューロロジー」で、3月に新型コロナウイルスに感染し、イスラエルの大学病院に入院した45歳の男性患者において、コミュニケーション障害や震え、歩行障害といったパーキンソン病の症状がみられたことが報告された。 今後、神経系疾患が世界中で増えるおそれが懸念される 1918年から1920年にかけて世界中で猛威を振るったスペイン風邪でも、これに伴う嗜眠性脳炎により、パーキンソン病の進行リスクが2〜3倍上昇した。 バーラム教授は「新型コロナウイルスの地球規模での感染拡大により、今後、神経系疾患が世界中で増えるおそれが懸念される。スペイン風邪のときは防止できなかったが、同じことを繰り返してはならない。戦略的な公衆衛生アプローチとともに、早期診断と治療のためのツールが鍵となる」と説いている。 研究チームでは、新型コロナウイルスに感染した4人のうち3人にみられる嗅覚脱失や嗅覚減退に注目している。これらの症状は、嗅覚系で急性炎症が起こっていることを示すものだからだ。炎症はパーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の病因に重要な役割を果たしている。 ===== 嗅覚脱失がパーキンソン病の進行リスクの早期発見に 現時点では、パーキンソン病の臨床診断は、運動機能障害の症状によってなされているが、すでにこの時点で、脳のドーパミン神経細胞の50〜70%が減少している。 この症状が現れる10年前のパーキンソン病の初期段階で、約9割に嗅覚脱失がみられることをふまえ、嗅覚脱失がパーキンソン病の進行リスクの早期発見につながる新たなアプローチになるのではないかと研究チームは考えている。 これらのことから、研究チームは、神経変性を早期に特定する正確な診断ツールの普及や、新型コロナウイルス感染症から回復した人の長期モニタリングに向けて、直ちに対策を講じるよう求めている。