<利用者は3000万人超。なぜインスタグラムは日本でここまでバズったのか。インスタグラムの初代日本事業責任者、日本ロレアルのCDOを歴任した注目のマーケターに聞く> 先日、「日本人にアルゴリズムは通用しない」と語ったインタビュー記事が、大きな反響を呼んだ長瀬次英氏。 インスタグラムの初代日本事業責任者として、インスタグラムの普及とブランディング、マネタイズに尽力した長瀬氏は、その後、日本ロレアルでCDO(デジタル最高責任者)に就任。国内でCDOという役職ができたのは同社が初めてで、日本初のCDOでもあったという。 インスタグラムは2014年に日本語版公式アカウントが開設され、2015年6月には月間アクティブユーザーが810万人を達成した。2019年末時点で利用者は3000万人超。人口に占めるブランド浸透率・利用率は世界水準よりかなり高い。 なぜインタスタグラムは、日本でここまで熱狂的に支持されているのだろうか? その謎を解くべく、『マーケティング・ビッグバン――インフルエンスは「熱量」で起こす』(CCCメディアハウス)を出版し、その多彩で豊富な経験をもとに新時代のマーケティング・コンセプトを打ち出した長瀬氏に、立ち上げ初期のブランド戦略と普及のために行った施策について聞いた。 まず前提として、ここまでインスタグラムが日本で浸透した理由は、日本人がカメラや写真を好きというのが大きいですね。スマートフォンに高画質のカメラが付いていても一般家庭で一眼レフカメラを買うし、プリクラという文化も日本独自のものです。それに日本人はもともと、ビジュアルからメッセージを受け取る力が強い。象形文字だった漢字から始まって、1964年の東京オリンピック開催時に開発されたピクトグラフなど、日本にはビジュアルと言語を一致させる文化が根強くある。EMOJIなんていうのは、日本人独特の絵のコミュニケーションですよね。海外で生活した経験もある僕としては、英語を含めた他言語の習得率が低いのにはこういった背景もあると思っています。それから、日本人は歴史やストーリーが好きです。海外と比べてみても、背景に歴史やストーリーがあるブランドやモノに対する熱量や欲求が高いですね。それを踏まえて、僕はインスタグラムにストーリーを付与することから始めました。僕がイメージしたのは、ラグジュアリーな雑誌。景色や人物、料理、ライフスタイルなど、インスタグラムでしか見られない美しいビジュアルが並ぶコンテンツをユーザーに提供しようと考えました。 長瀬氏は具体的に、インスタグラムの利用者を増やすために何をしたのだろうか。 ===== まず僕たちインスタグラムのチームがやったことは、写真やカメラが好きなコミュニティに対して、アプローチすることでした。といっても、まだインスタグラムなんて誰も知らなかった時代です。いきなり連絡して「このアプリを使って!」と言っても、話なんて聞いてくれませんよね。もちろん、お金を使って利用してもらうことも可能ですが、そういった写真はどうしても広告的になりすぎて説得力がない。僕たちが欲しいのは、「インスタグラムを自発的に使うカメラや写真好きのユーザー」と「彼らが撮る熱量の高い写真」。そのためには、同じ言語で話して仲良くなる必要があると考えました。誰だって知らない人よりも友人や仲間が薦めるもののほうが使いたくなりますからね。そこで、写真やカメラの専門的な勉強をして、さまざまな写真コミュニティに参加したりしました。僕自身、話題になっていた美術館の展示のために、富山や金沢の写真クラブやコミュニティに入会して、東京から通っていたこともあります。また、インスタグラムの特性である「目の前にある風景を共有する」という意味では、登山や料理、旅行が好きな人とも相性が良さそうだと考え、これも同じ熱量で話せるように勉強して、コミュニティにアプローチしました。出稿してもらう広告にもこだわりました。美しいビジュアル(宣材写真)を多く持つクライアントに厳選してアプローチすることで、メディアとしての価値を高めるよう努めました。こうした地道な努力が実を結び、インスタグラムは「熱量」の高い美しい写真がタイムラインに並ぶことで話題になり、著名人の利用者や、さまざまなメディアに取り上げられたことで、一般の人々にも浸透。わずか3年で「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれるまでになりました。利用者が増えたことで、今では美しい写真だけでなく、著名人を含めた人々のごく普通な日常生活やマンガ、そして動画を含め、さまざまなコンテンツがタイムラインに並ぶようになりましたが(笑)。 しかし、これだけ聞くと「デジタルプラットフォームの成長戦略」というイメージからは程遠い印象を受ける。それに対し長瀬氏は、「デジタルマーケティングは決して『魔法』ではない」と語る。 デジタルの発達に伴い、あらゆるものが簡略化され、また数値化できるようになったことで「すべての問題はウェブ上で解決できる」と考えている人も多いと思いますが、それは幻想です。例えば、ウェブ上でのつながりや関係性をグラフ化したソーシャルグラフが、現在のSNSマーケティングではもてはやされていますが、日常のすべてがSNSに投影されているわけではありません。ソーシャルグラフに表されたデータの先には必ず人がいるし、SNS上にアップされている写真も、ユーザーが実際にその場所に足を運んだり、作ったりした「リアル」の延長です。だからこそ、「リアル」な現場と人を大事にして、そこから熱量を伝えることがインフルエンスの基本だと考えています。インスタグラムの利用者の中でも、「インスタグラマーズ」という自発的に発生したユーザーコミュニティ、いわばインスタファンのオフ会的なコミュニティが出来て、そのコミュニティの人たちと展示会やイベントを積極的に開催し、コアユーザーとリアルでコンタクトする機会を設けていたりもしていました。発信する側も受け取る側も、そしてさまざまなツールを使うのも、プラットフォームを作るのも人ですから、デジタルだけで完結するものなんてこの世にはないんです。僕は日本初のCDOですし、今までずっとマーケティングに関わってきたのでデジタルの数字ばかり追っていると誤解されている方が多いかもしれませんが、デジタル時代だからこそ数値化されない「熱量」がもっとも大事だと思っています。 『マーケティング・ビッグバン ――インフルエンスは「熱量」で起こす』 長瀬次英 著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) 【関連記事】「コロナ後は接待する会社が伸びる」CDOの先駆者・長瀬次英が語る飲み会の重要性 <お知らせ> ■緊急開催!オンラインイベント 長瀬次英「マーケティングの未来のカタチ」 2020年10月2日(金) 19:00~20:30 主催:代官山 蔦屋書店 https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/16078-1515190923.html