<ワクチン完成を急かすトランプ大統領と対立する国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長は、「ホワイトハウスの情報発信は人々の疑念につながっている」と語る> 米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、アメリカで最も有名な新型コロナウイルス感染症の専門家。感染症のパンデミック(世界的流行)だけでなく、それに伴う政治的混乱のこともよく知っている。 ファウチは現在、11月3日の大統領選前にワクチンの完成を急がせるトランプ大統領と対立しているところだ。大統領選前にワクチンの承認を強行する大統領令について、ファウチは本誌とのインタビューでこう語った。 「ワクチンの安全性と有効性を確認するために何が必要かを理解する人々の手で打ち砕かれるだろう。世間に恥をさらすことになる」 ◇ ◇ ◇ ──ワクチンの完成を急がせる政治的圧力は有害か。 例えばこんな状況を想像してみてほしい。突然、ホワイトハウスの誰かが(食品医薬品局〔FDA〕の)長官を呼び出し、「今すぐこのワクチンを出せ。さもないとクビだ」と言う。そんなことをすれば、世間から非難されるだろう。考えられないことだ。 (ワクチン承認の)過程にはチェックポイントがいくつもあり、本当に安全で効果があると分かる前に政治が影響を与えることは極めて困難だと思う。国立衛生研究所(NIH)が関係する全ての臨床試験には、データ安全性モニタリング委員会という独立した組織が関与する。そして私やNIHのフランシス・コリンズ所長のような専門家もいる。私たちは時期尚早の緊急使用許可にはっきりと懸念を表明してきた。 ── 政治が「反ワクチン派」を勢いづけることを心配しているか。 もちろん。FDAはディープステート(国家内国家)の一部だとか、FDAがヒドロキシクロロキンの緊急使用許可を出した後に撤回したとか、大統領はヒドロキシクロロキンに好意的だとか......。ホワイトハウスのこうした情報発信は、明らかに人々の疑念につながっている。 ──米モデルナ社製ワクチンの予備的治験データはあるか。 今のところ何もない。大半の被験者はまだ2回目の接種を受けていない。おそらく9月末までには、どんな状況か分かるだろう。 ──治験がいつ終わるのか分からないのか。 仮に賭けをするなら、11月か12月になると思う。 ──このワクチンの効果についてはどうか。 第1相試験は被験者45人の小規模なものだったが、自然感染と同等かそれ以上のレベルで中和抗体を誘導した。これは良い兆候だ。私の推測では、ワクチンの予防効果は70~75%程度だと思う。 ===== ──75%しか効果を期待できないワクチンを受けたがらない人に何と言う? どんなレベルの予防でも、ないよりはましだ。 ──2021年になってもマスクをして、社会的距離を取る必要があるのか。 2021年になってからも、しばらくはそれを続けることになる。6月か7月までには、大半の人にワクチンを接種できるかもしれない。2021年の半ばを過ぎ、夏から秋に入った頃には、ある程度まで正常に近づくと予測している。 ──ジャーナリストのボブ・ウッドワードによると、トランプはパンデミックが広がり始めた段階で、事態の深刻さを知りながら意図的に控えめに表現したとのことだが......。 その間も私と同僚は(感染の)実態について発言していた。市中感染などについても警鐘を鳴らした。 ──だが、トランプの発言はあなたより影響力が大きい。 それはそのとおり。残念なことだ。 <2020年10月6日号掲載> 【関連記事】米ファウチ所長、ワクチン開発に自信 順調にいけば年内に1億回分供給へ 【関連記事】トランプ「来年4月までに全国民分のコロナワクチン確保できる」 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます10月6日号(9月29日発売)は「感染症vs国家」特集。新型コロナに最も正しく対応した国は? 各国の成功例と失敗例に学ぶ。