<アゼルバイジャンとアルメニアの領土をめぐる地域紛争は、拡大すればロシア、トルコ、イラン、アメリカを巻き込む地雷原だ> アゼルバイジャン西部の山岳地帯ナゴルノ・カラバフで9月27日、紛争が再熱した。激しい戦闘で死者はすでに100人にのぼっている。この地域の支配権を争うアゼルバイジャンとアルメニアの対立は数十年前からくすぶり続け、断続的に起きる武力衝突や暴力的な事件で多数の犠牲者が出ている。 ナゴルノ・カラバフ地域は国際的にはアゼルバイジャンの一部として認められているが、居住者の多数を占めるアルメニア人はアルツァフ共和国として独立を宣言し、実質的に地域を支配している。 アゼルバイジャンとアルメニアは1988年から94年にかけてこの地域をめぐって激しく対立し、戦争状態にあった。ソ連崩壊直後にナゴルノ・カラバフのアルメニア人勢力は、アゼルバイジャンからの独立を一方的に宣言した。 dikobraziy-iStock この紛争の主役は比較的小さく、比較的貧しい国だ。だが人口290万人のキリスト教国アルメニアと990万人のイスラム教国アゼルバイジャンは、ヨーロッパとアジアを結ぶ戦略的に重要な「コーカサス回廊」に位置し、ロシア、トルコ、イランといった大国と国境を接している。 これまでのところ、戦闘は主に15万人が住むナゴルノ・カラバフに限定されている。だが、戦闘が拡大すればアルメニアの公式軍(すでに動員されている)が出動し、アゼルバイジャンとアルメニアの本格的な戦争につながる危険がある。 トルコはすでに戦闘態勢か この地域紛争には、地政学的、経済的、文化的な要因から、諸外国が深く関係している。今回の軍事衝突は2016年以来最も深刻なものであり、この地域の2つの大国トルコとロシアを対立に引き込む可能性がある。 アゼルバイジャンが最も近い味方として頼りにするのはトルコだ。同国の主要民族であるアゼリ人はトルコ系の民族で、イスラム教シーア派が多数派を占める。トルコの歴代政府、特にレジェップ・タイップ・エルドアン大統領の政権はアゼルバイジャンを熱心に支援してきた。アゼルバイジャンと共同でエネルギープロジェクトも進めている。 エルドアンはアゼリ人を支持すると誓い、ナゴルノ・カラバフの「占領」を終わらせるべきだとアルメニアに要求した。エルドアンは28日、紛争に終止符を打つ時がきた、と語った。 一部には、トルコは戦闘に直接関わっているという声もある。未確認の報告によると、トルコはナゴルノ・カラバフでの戦闘に備えてシリア人傭兵を配備した(シリアとリビアでも同じことをしている)。また、トルコの無人機や軍用機、軍事顧問がアゼルバイジャン側の最前線に派遣されているという声もある。 アルメニア外務省のアンナ・ ナグダリアン報道官は29日のツイートで、トルコがアゼルバイジャン軍に「積極的に関与し、政治的、そして軍事的に支援」をしていると非難した。 ===== トルコとアルメニアは歴史的な緊張をはらむ関係にある。その原因は、トルコ政府が今も否定している第一次世界大戦時代のアルメニア人虐殺だ。トルコの前身にあたるオスマン帝国によって1915年から1923年の間に、150万人ものアルメニア人が殺された、とアルメニア人は主張する。 トルコは死者数を数十万人としており、その原因は組織的な大量虐殺ではなく政府軍と戦った結果だと主張している。とはいえ、この時期に、膨大な数のアルメニア人がシリアの砂漠などに強制的に移住させられ、多くがその途中で死亡するという事件も発生した。 アルメニアは、外部の侵略から同盟国を保護するロシア主導の集団安全保障条約機構に参加している。ロシア政府はこれまでのところ、この紛争に関して停戦と交渉を促しているが、同盟国のアルメニアを支援するために引き込まれる可能性はある。ロシアはアルメニア国内に軍事基地を持ち、アルメニア軍に武器を提供している。 ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシア政府は状況を注意深く追跡しているが、外交的解決を呼び掛けていると述べた。ロシアとトルコの外相は戦闘が勃発した直後に電話で話し、ロシアの国営タス通信によると、停戦と対話の重要性も強調したという。 イスラエルも注視 ロシアとトルコはすでに、シリアとリビアの内戦で対立する立場を取っており、アゼルバイジャンとアルメニアが本格的な紛争に巻き込まれれば、コーカサス地方で新たな代理戦争が起きる可能性も排除できない。 それでも、ロシア政府はアゼルバイジャンとも良好な関係を維持しており、フランスやアメリカと並び欧州安全保障協力機構(OSCE)ミンスクグループの一員でもある。ミンスクググループは、ナゴルノ・カラバフを巡るアゼルバイジャンとアルメニアの紛争を平和的に解決するために1992年に設立された。 だが和平プロセスを仲介するミンスクグループの取り組みは、2010年に崩壊した。ドナルド・トランプ大統領は27日、アメリカはこの紛争を監視しており、戦闘拡大を避ける努力をすると述べた。 イスラエルもナゴルノ・カラバフの状況を注視している。近年イスラエルはアゼルバイジャンへの武器販売を拡大しており、「自爆ドローン」も提供している。これは爆発物を詰めた無人機で、何時間でも戦場を徘徊し、標的に衝突して自爆する。このタイプの無人機は、2016年にアルメニアのバスを破壊し、兵士7人が死亡した。 ===== イスラエルは、最大の敵であるイランを封じ込めるためにアゼルバイジャンとの良好な関係を維持したがっている。 同じ理由で、アメリカは2016~17年の約300万ドルだったアゼルバイジャンへの安全保障関連投資を、2018~19年には約1億ドルに引き上げた。アルメニアが2018会計年度にアメリカから受け取った安全保障支援金は420万ドルだけだ。 したがって、ナゴルノ・カラバフの状況は、アメリカとイランの対立に関わってくる。イラン政府は冷静さを求め、和平交渉の仲介役を申し出た。イスラエルとアメリカがあらゆる手を使ってイランの外交的影響力を弱体化しようとしているなか、イランにしてみればこの紛争は、自国の影響力を拡大する格好の手段となるだろう。 (翻訳:栗原紀子) <参考記事>アゼルバイジャンとアルメニア、軍事衝突の背景とは <参考記事>ドイツ議会がアルメニア人「虐殺」を認定、の意味 ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます10月6日号(9月29日発売)は「感染症vs国家」特集。新型コロナに最も正しく対応した国は? 各国の成功例と失敗例に学ぶ。