<共和・民主両党とも、ロシアのことは警戒しても中国のことは見くびる傾向が強いがそれは危険な誤りだ> 「ロシア、中国とイランが11月の米大統領選に介入しようとしている」という情報当局の警告と、ジョー・バイデンおよびドナルド・トランプ両陣営に対するこれら3カ国からのサイバー攻撃が発覚したことを受け、共和党と民主党はすぐに手を打ち、それぞれの主張を展開した。 ロシアがまたトランプに肩入れしているという疑惑をなんとか払拭したいホワイトハウスは、情報当局の分析結果を利用し、バイデンは中国にとって望ましい候補者だと主張。これに対して、ロシアが2016年大統領選に介入したことを今も根に持っている民主党は、トランプと顧問たちがロシアから国民の目を逸らさせるために、中国による介入を誇張していると反論している。 だがいずれの陣営も、中国による干渉の問題にまともに向き合っていない。 中国政府はフェイスブックやツイッターが誕生する何年も前から中国のイメージアップを狙い、また自分たちが慎重に作り上げてきた国際的なイメージを守るためにあらゆる手を打ってきた。手始めは、個人レベルでの交流や、大きな影響力を持つ米実業家や意思決定者たちとの関係構築といった比較的無害な方法だ。その後は手段をエスカレートさせ、ニセ情報の流布や情報統制、報復の脅しや秘密工作を展開してきた。 背景にある大きな野望 彼らの目標は、中国企業の利益確保や、特定の候補者・政党の後押しのもっとずっと先にある。アメリカをはじめとする民主国家の政治を、中国政府にとって有利な方向に導くことが一番の狙いだ。 公衆衛生や商業からグローバル・ガバナンス、さらには人権に至るまでほぼ全ての問題について影響力を持ちたがる中国の狙いはかなりの成功をおさめている。天安門事件やチベット自治区、新彊ウイグル自治区での非人道的な行為もなかったことのように振る舞っている。 だが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で、流れは大きく変わった。中国政府が密かに諸外国の政治家や実業家、国民をあからさまに威圧するやり方が、国際社会で不評を買った。「中国政府に逆らうならリスクを覚悟せよ」という彼らの本心が露呈したのだ。 中国政府のこの高圧的な姿勢に、多くの国が一様に反発した。だがアメリカでは、中国による大統領選への介入工作の問題をめぐって政治家たちの意見が割れている。その主な理由は、理論上、ロシアの乱暴な策略に比べれば中国の作戦の方が「脅威が少ない」ように思えるからだ。もちろん現実には、ロシアと中国、どちらの国がもたらす脅威についても重要なのは戦術ではなく「最終的な狙い」であり、いずれの国も、米公的機関や政府の信用を失墜させることが最終目標であることに変わりはない。 ===== 政治を語る上で「ディープフェイク」や「ボットファーム」のような言葉が使われるようになっているなか、中国が世界各地の民主的な選挙に影響を及ぼす狙いで展開している、粗削りに見える作戦は、見過ごされがちになっている。 確かにソーシャルメディア・プラットフォームを「武器として使う」というロシアのやり方は、特に米大統領選を控えた今、注目に値する。だが中国などの独裁体制が、リベラルな民主国家の選挙結果や世論に影響を及ぼす狙いで取り入れている、もっとずっと単純なやり方の方が、より大きな効果を生む場合もある。 民主党の一部の議員は、中国による選挙介入についての懸念を一蹴したが、このような性急な対応は危険だ。中国に対して(そしてアメリカの有権者に対しても)、米政府が中国政府による干渉を「厄介だとは思っても危険だとは思っていない」というメッセージになりかねない。それが中国をさらに勢いづかせるのはほぼ確実で、そうなれば彼らはアメリカに対するさらなる介入工作を続けるだろう。現に彼らは、南シナ海でのますます積極的な活動を含め、そのほかの地政学的な目標を追求する上でも同様の戦略をとっている。 まずは脅威を認めよ 行政や立法の当局者による早まった発言は、中国による選挙介入に関する米政府の知識がきわめて少ないという厳しい現実を無視したものでもある。西側諸国では、ロシアの脅威に対処するための先進技術の開発が進む一方で、中国による悪質な活動をリアルタイムで暴き、阻止する能力や手段はないのが現状だ。 最近では、オーストラリアも中国の政治介入工作の標的になったことが記憶に新しい(中国の情報機関が中国系の男性に資金を出して選挙に立候補させようとしたことなど)。オーストラリアの例が参考になるならば、中国による複雑な政治介入工作を解明するのには、何年もの時間がかかる可能性がある。さらに悪いことにアメリカの政界は党派間の対立が激しいため、オーストラリア政府が採用したような、市民社会や学会、諜報コミュニティーや実業界からの先入観にとらわれない意見に頼る形の調査を行うのは難しい。 中国による米選挙への介入について、これまで以上に統合的な対処を行い、民主・共和両党が協力して一般市民に脅威を伝える努力をしない限り、アメリカは2022年にも2024年にもほぼ確実に、また同じような状況に直面することになるだろう。そしてほかの民主主義諸国も適切な対策を講じない限り、同じような介入に直面することになる危険がある。 アメリカはまず、党派を超えて中国による介入の脅威を認めることで、第一歩を踏み出すべきだろう。