<最先端の治療を受けていても、高リスクの年齢と体型のうえに本当の健康状態がわからない以上、トランプの症状はいつ重篤化してもおかしくない> ドナルド・トランプ大統領とメラニア夫人は、新型コロナウイルスに感染した。大統領のスタッフや、最近、大統領と会った人々のなかにもPCR検査で陽性反応が出た。 大勢のホワイトハウス職員とトランプの選挙陣営スタッフも検査を受けているが、結果はまだわからない。トランプは2日の午後にウォルター・リード米軍医療センターに入院し、ホワイトハウス当局者によれば今後数日、そこで過ごす。だがトランプはまだ、アメリカを率いる指導者だ。彼がウイルスと戦っている間、この国はどうなるのだろうか。 74歳という年齢と、肥満にもかかわらず、トランプは常に自分を活力あふれる、健康な、たくましい人間に見せようとしてきた。スリムな77歳の対立候補ジョー・バイデンを、よぼよぼで反応が鈍い老人だと批判し、わずか3歳しか違わないのに、自分のほうがずいぶん年下だという印象を与えようとしてきた。 同様にトランプは何度も、新型コロナウイルスのリスクを、自分以外の誰かの問題に見せかけようとしてきた。心臓が悪い高齢者は、心配しなければならないかもしれない──でも、トランプ自身は心配ない、というわけだ。 補佐官の指示通りに書いた診断書 9月21日にオハイオ州スワントンでの選挙集会に登場したトランプは、マスクを着けていない群衆を見渡し、顔を輝かせた。「おお、なんと大勢の観客だ。これは大勢だ」。群衆は大声で答えた。そしてトランプは、こう言ってマスクと新型コロナウイルス感染症に対する懸念を否定した。「高齢者は影響を受ける。心臓に問題がある高齢者だ。ほかに持病があるなら、本当に問題なのは、そっちだ。それだけのことだ。新型コロナは、事実上誰にも影響しない。すごいことじゃないか」 連邦政府は、医療、退職、税務のほとんどの場面で「高齢者」を65歳以上と定義している。トランプも明らかに「影響を受ける」高齢者の一員だ。 トランプには、体重以外に、重症化のリスクを高めそうな基礎疾患があるだろうか。それはわからない。若々しく見せるための絶え間ない闘いの中で、薄毛を覆い隠し、大統領として最も長い時間ゴルフをプレイしたトランプは、自分の健康状態に関する本当の情報が公開されないよう細心の注意を払ってきた。 トランプの主治医として知られるマンハッタンの医師ハロルド・ボーンスタインは、胃腸科の専門医だが、ヒッピーのように見える変わった人物で、2016年8月に「トランプの健康は素晴らしく、特に精神は健康」と診断した。 だがこの医師は、2015年12月のインタビューで、自分の診断書は、トランプの補佐官が指示した内容を、外でリムジンが待っている間に急いで書いたものだと語っている。当時は大統領候補だったトランプについて、ボーンスタインは、体力とスタミナが「ずば抜けている」と書いた。 ===== 同じく大統領専属医だったロニー・ジャクソンは、現在テキサス州の下院第13選挙区の共和党候補だ。2017年に大統領の目に留まって以来、たいへんな恩恵を受けている。ホワイトハウスのスタッフとトランプの選挙スタッフは、ジャクソンを下院に送り込むための資金を集め、選挙運動への手助けも行っている。 2018年1月、当時アメリカ海軍少将だったジャクソンは、ウォルター・リード米軍医療センターで、トランプの最初で唯一の公式健康診断を行った。 ニューヨーク・タイムズ紙によると、ジャクソンはトランプの健診後の記者会見で、トランプは「素晴らしい遺伝子」を持っていると述べ、認知テストでは素晴らしい成績だったこと、そして「過去20年、もっと健康にいい食生活を守っていたら、200歳まで生きることができただろう」と語った。その直後、トランプはジャクソンを退役軍人長官に指名したが、ジャクソンには医学的適応のない薬を士官に配った容疑が持ち上がり、結局は指名を辞退した。 長年のうちに、トランプの健康状態に関する秘密も少しずつ漏れてきている。トランプは男性型脱毛症治療薬プロベシアで脱毛と戦い、心臓発作を防ぐために毎日アスピリンを服用し、コレステロールを下げるスタチンや、時折頬に現れるできものを治療するための抗生物質テトラサイクリンを定期的に服用しているという。 歩行困難で再燃した健康不安説 ホワイトハウスの診療書によると、トランプは不眠症に対処するために、亜鉛、ビタミンD、メラトニンを常用し、消化性潰瘍の治療に用いられるヒスタミンブロッカー、ファモチジンのサプリメントを服用している。いずれも、太り過ぎた年配のアメリカ人男性にとってはごく普通のことだ。ただ、トランプは、そうしたレッテルを貼られないようにするためなら、どんな苦労も惜しまない。 今年は、ろれつの回らない演説と、明らかな歩行トラブルで健康不安が再燃した。6月に陸軍士官学校で演説をした後、トランプはスロープを下りる際におぼつかない足取りを見せた。また演説の間、水を飲むために持ったコップを片手で支え切れず、もう一方の手を添える動作をした。 6月14日に、トランプはスロープが「とても滑りやすかった」とツイートした。その後に行った集会での演説では、歓声を上げる群衆の前で、片手で水の入ったコップを持ち上げてみせた。 そして11カ月前の19年11月、トランプは予告なしにウォルター・リード米軍医療センターを訪れ、そこで2日間過ごした。トランプの主治医ショーン・コンリーは、2日間の医療訪問の理由を明らかにしなかったが、特定の心臓や神経系の症状の検査は受けていないと断言した。 ===== 証拠はまだある。2019年11月、匿名のホワイトハウス職員が『ある警告』という本を出版した。そこにはこう書かれている。「私は大統領の精神状態を診断する資格がない。私が言えるのは、ドナルド・トランプと会ったことのある普通の人は、落ち着かない気分になるということだ。トランプはすぐに言葉につまるし、ろれつが回らなくて何を言っているのかわからない。まごつき、すぐにいらだち、情報をまとめて理解することがなかなかできない。たまに、じゃなくて、しょっちゅうだ。そうでないと主張する者は、自分自身や国に嘘をついている」 こうした証拠を総合的に考えると、トランプには新型コロナウイルス感染が重症化する危険がある根本的な基礎疾患がいくつか存在する可能性がある。 ここ数日の情報が正確で、トランプがすでに疲労と呼吸困難の症状を示しているとしたら、イギリスのボリス・ジョンソン首相の場合と同様に、まもなく病状が悪化して執務ができなくなるかもしれない。 私の友人の一人は新型コロナ感染で自宅療養していたときのことを、「象が胸の上に座っているような感じだった」と言っていた。今後数日のうちにトランプの病状はもっと明らかになり、ジョンソンのように人工呼吸器の助けが必要になるかどうか、といったこともわかるだろう。 トランプには最高司令官としての役割があることを考えると、さらに心配なのは、ウイルスの感染が脳に達し、幻覚や重度の頭痛、めまい、判断障害を含む認知機能障害を引き起こす可能性もあるということだ。 新型コロナウイルスに関連する神経症状は、混乱、せん妄、老衰、および永久的な脳損傷など、非常に多い。これら、および他の脳関連症状は、数カ月の間持続する可能性がある。 ===== 証拠はまだある。2019年11月、匿名のホワイトハウス職員が『ある警告』という本を出版した。そこにはこう書かれている。「私は大統領の精神状態を診断する資格がない。私が言えるのは、ドナルド・トランプと会ったことのある普通の人は、落ち着かない気分になるということだ。トランプはすぐに言葉につまるし、ろれつが回らなくて何を言っているのかわからない。まごつき、すぐにいらだち、情報をまとめて理解することがなかなかできない。たまに、じゃなくて、しょっちゅうだ。そうでないと主張する者は、自分自身や国に嘘をついている」 こうした証拠を総合的に考えると、トランプには新型コロナウイルス感染が重症化する危険がある根本的な基礎疾患がいくつか存在する可能性がある。 ここ数日の情報が正確で、トランプがすでに疲労と呼吸困難の症状を示しているとしたら、イギリスのボリス・ジョンソン首相の場合と同様に、まもなく病状が悪化して執務ができなくなるかもしれない。 私の友人の一人は新型コロナ感染で自宅療養していたときのことを、「象が胸の上に座っているような感じだった」と言っていた。今後数日のうちにトランプの病状はもっと明らかになり、ジョンソンのように人工呼吸器の助けが必要になるかどうか、といったこともわかるだろう。 望めば未承認の薬も手に入る トランプには最高司令官としての役割があることを考えると、さらに心配なのは、ウイルスの感染が脳に達し、幻覚や重度の頭痛、めまい、判断障害を含む認知機能障害を引き起こす可能性もあるということだ。 新型コロナウイルスに関連する神経症状は、混乱、せん妄、老衰、および永久的な脳損傷など、非常に多い。これら、および他の脳関連症状は、数カ月の間持続する可能性がある。 もし望むなら、トランプは未知だが最先端の医療を受けることができる。 ホワイトハウス によれば、トランプは2日の午後にウォルター・リードで「モノクローナル・カクテル」の投与を受けたという。米製薬大手リジェネロンが治験中の未承認だが、医師団からの特別の要請で使用が認められた。 この先もいくつかの選択肢がある。新型コロナから回復した患者の血漿を輸血する方法(ただし、感染後直ちに始めなければ効果がない)。トランプの高いコレステロール値と、ろれつや歩行時の問題が心臓疾患のせいである可能性を考えると、医師団はトランプの心臓の状態には特に注意する必要がある。最近の知見によれば、新型コロナウイルスは心臓の筋肉細胞を攻撃し、心臓発作や全身に血の塊ができる原因になる。 ===== エボラ治療薬のレムデシビルも、重症化を避ける助けにはなるかもしれない。しかしこれも、直ちに投与しなければ効果が薄まってしまう。イギリスの医師たちが最近よく使うステロイド剤「デキサメタゾン」には、患者の免疫システムがウイルスに過剰に反応してしまうのを抑える作用がある。 だが、トランプが実年齢より若く見せようと多大な努力をし、自らの医療記録を公の目から隠してしまったせいで、トランプの身体が新型コロナウイルスに対してどんな反応をするのかを予想するのは難しい。 公共衛生の観点から言えば、トランプは厳しい隔離下に置かれなければらない。それも、症状が消えた後最低2週間は留まることが必要だ。新型コロナ感染症は、彼が数カ月前に言った通り「ただの風邪」として数日で回復する可能性もある。だが、彼の健康状態と体重と年齢を考えると、困難な戦いになる可能性も捨てきれない。 トランプの健康と周囲の安全のためには、大人数の選挙集会は中止せざるをえないだろう。10月15日にマイアミで予定されているバイデンとの討論会も無理だ。10月22日のナッシュビルでの討論会も、リモート方式などに変える必要がある。 さらにマイク・ペンス副大統領のスケジュールを見直してホワイトハウスのそばにいるようにして、トランプの容体が悪化したらすぐに職務を代行できるようにしておくべきだ。 テレビのコメンテーターやネット活動家は、トランプ感染のニュースを聞いて、新型コロナを甘く見てマスクもせずにきたから罰が下ったのだと皮肉に笑う。だが、アメリカの大統領が病に苦しんでいるのに面白いことなど一つもない。トランプは新型コロナに対して非常にリスクの高い人間だからなおさらだ。 From Foreign Policy Magazine