<健康問題から国民の目を逸らすためなら他国に軍事攻撃も始めかねないが、アメリカの主な敵国はトランプ政権の4年の間に好き勝手なことを始めている> 新型コロナウイルスに感染したドナルド・トランプ米大統領の病状が、今後どうなるのかは誰にも分からない。だがトランプの感染が、アメリカの安全保障に幾らかの影響を及ぼすことは避けられないだろう。外交政策に及ぶ影響については、さらに予測が難しい。トランプ政権にはそもそも「正常な基準値」がないから、それが狂った時のひずみが推測できないのだ。いずれにせよ、トランプの新型コロナ感染で注目すべき問題が4つある。 まず新型コロナ感染の最も直接的な影響として、トランプが同ウイルスの脅威についての考え方を改め、民主党と緊密に協力して対策にあたるようになる可能性もある。新型コロナはアメリカ国民が直面している最も深刻な脅威であり、大統領にとって、その影響を軽減することは国家安全保障上の最大の関心事であるべきだ。 新型コロナウイルスの差し迫った脅威、および長期的な悪影響を軽減するためにどのような介入が必要かはよく知られており、大統領が必要な支援を拡大すれば、すぐに対策を取ることができるはずだ。トランプ自身、入院していたウォルター・リード陸軍病院からツイッターに投稿した動画の中で、「新型コロナウイルスについて多くを学んだ」と語っていた(その後トランプは、「新型コロナを恐れるな」とツイートした)。 外交政策上の意思決定に影響も だが残念なことに、トランプは一度公に表明した意見をどうしても修正できない性分だ。自らの感染を発表する前の数日間には、「直感」を根拠にまたもや新型コロナウイルスの死亡率を低く見積もり、同ウイルスを普通の風邪になぞらえ、民主党の大統領候補ジョー・バイデンがマスクを着用しているのを馬鹿にしていた。 さらに悪いことに、トランプのその「頑迷でお粗末な判断」を基に、共和党と熱心なトランプ支持者の意見が形成されている。そう考えると、トランプは今後も新型コロナウイルスの脅威を深刻に受け止めることはなく、危機感の足りない連邦政府の無能ぶりも続くことが予想される。 2つ目の問題は、もしもトランプに強い症状が出た場合、特にボリス・ジョンソン英首相の感染時と同じくらい症状が悪化した場合、それが彼の外交政策上の意思決定に悪影響を及ぼす可能性があるということだ。薬物治療や倦怠感、ストレスの増大は人の認知能力を弱め、意思決定やその伝達能力を悪化させる作用がある。 トランプの最も分かりやすい外交ツールは軍事力だ。彼は前任者のバラク・オバマが爆撃を行った全ての国への空爆を承認して(多くの場合さらにエスカレートさせて)きた。彼が最も力を入れたのは、大々的に報道された2017年4月と2018年のシリア政府関連施設へのミサイル攻撃だ。 ===== 自分の病気から国民の注目を逸らすために、あるいは自分の強さをアピールするために、トランプが強烈な、さらに事態をエスカレートさせるような軍事攻撃を承認する可能性も考えられる。彼がアメリカの機密扱いの偵察衛星が撮影したイランの衛星打ち上げ事故の写真をツイッターに投稿したこともあることを考えると、その軍事攻撃がもたらした被害を写した生々しい画像が公開されることもあり得る。 トランプはこれまで、紛争の続くイラクやシリア、パキスタンやソマリアに(オバマよりも)多くの空爆を承認してきたが、大規模な、新たな軍事攻撃は承認していない。それでも病気の影響でトランプが急に変心し、過激かつ軽率な戦争を承認する可能性も考えられる。 3つ目の問題は、敵対勢力がトランプの病気をチャンスと捉え、自分たちの目標を推し進めようとする可能性が幾らかあることだ。だがこのシナリオが実現する可能性は低い。理由は単純で、アメリカの外交政策はトランプ政権の下、既に大きく道を踏み外しているからだ。トランプ政権は経済や外交に関する真に有意義な二国間協定を締結せず、国際組織の中で維持してきた(中国に対する)指導的役割を放棄し、同盟諸国への関与を低下させてきた。アメリカのこうした姿勢は、国際社会が共通の目的の達成を目指すことを不可能にした。つまりアメリカは、わずか4年で「怠惰な超大国」と化したのだ。 地に落ちたホワイトハウスの信用 アメリカの敵対勢力は今では、それぞれの国益を堂々と追求しても、米政府がさほど反発してこないことを知っている。だから彼、トランプが病気になったからといって、わざわざ眠れる獅子を起こす必要がない。たとえば中国が台湾に侵攻するような「一線を超える」行動に出る必要はないのだ。 4つ目の問題は、新型コロナウイルスに関する数々の嘘や矛盾によって、トランプ政権の信用がいよいよ失墜したことだ。うまい嘘をつくためには、練習や工夫が必要だ。だがトランプ政権はこれまであまりに長い間、あまりに下手な嘘をつき続け、それでも一切その報いを受けてこなかったため、人を欺く技術が取り返しのつかないほどに衰えている。 歴代のどの大統領の時代と比べても、ホワイトハウスが出す声明の信頼性が損なわれている。国の安全保障が危機にさらされている時に、大統領の健康について本当の、あるいは説得力のあることが言えない政府の言葉を誰が信じるだろうか。 ===== たとえば、大統領がすぐにも対応しなければならないような危機が起きたと仮定しよう。たとえば外交関連施設で正体不明の勢力が大勢の人質を取った、あるいは重要なインフラが壊滅的なサイバー攻撃を受けて、このままでは複数のアメリカ人が命を落とすことになる状況が発生したとしよう。こういう時、さまざまな人がホワイトハウスに注目する。外交官や軍は指導や具体的な指示を求め、議会は事実に関するブリーフィングを求め、同盟諸国は支援要請に備え、米国民は透明性とリーダーシップを求める。だが今や、トランプや彼の下で働く人のどんな発言も、信じる人はほとんどいないだろう。 もちろん、こんな事態は避けられたはずだ。トランプは自分と自分の下で働く人々の健康を守ることができたはずだし、新型コロナウイルスの感染が最初に拡大し始めた時に、きちんと国を率いることだってできたはずだ。以前から行われてきた空爆作戦を拡大するだけではなく、国際的な紛争解決の仕組みに参加することもできたはずだ。だがトランプとその周りの人々は、あのとおり利己的な人たちだ。新型コロナウイルスに感染したトランプの病状が今後いかに悪化しようとも、彼らが変わることを期待すべきではない。